政策特集ソーシャルユニコーン目指して vol.6

スタートアップとの連携促進 経団連が打ち出す新機軸

日本ユニシス・齊藤昇代表取締役専務執行役員(経団連スタートアップ委員会企画部会長)に聞く【前編】


 スタートアップが生み出す革新的な技術やサービス、さらに課題解決に挑む着想力と熱量は大企業をさらなるオープンイノベーションへと突き動かしつつある。経団連は「Keidanren Innovation Crossing(KIX)」と称するネットワーキングイベントを開催し、スタートアップとの連携を強化している。互いの強みをどう生かし、価値創造にどう挑むのか―。新たな取り組みにおける経団連側の代表を務める日本ユニシスの齊藤昇代表取締役専務執行役員(経団連スタートアップ委員会企画部会長)に聞いた。

関心の高さ コロナ禍でさらに高まる

 ―イベントはこれまでオフライン、オンライン合わせて9回開催されたそうですね。回を重ねるにつれどんな印象を抱いていますか。また開催の過程では新型コロナにも直面しました。

 「昨年10月に第1回KIXを実施して以降、月1回のペースで実施しています。今年3月以降はまさに新型コロナウィルスの影響を受けましたが、即座にオンラインに切り替え、『KIX+』として絶やすことなく実施しています。特にオンライン開催になってから、参加者が非常に増え、毎回200名程度が集まっています。参加のしやすさや、外出自粛によって時間が増えたことも影響しているとは思いますが、それ以上に(経団連側の)役員層のスタートアップに対する関心の高まりが反映されていると感じています」

2019年10月に東京・大手町の経団連会館で開催されたKIXの初回会合。スタートアップおよび大企業の役員ら総勢100名が参加。会場は熱気に包まれた


 ーそもそも大企業中心の経団連ですが、入会資格要件を緩和しスタートアップの加入も増えているそうですね。どんな変化を及ぼしていますか。

 「2019年12月のメルカリ入会を皮切りに、現在約20社ほど入会いただいています。このようにスタートアップの会員数は増えているものの、既存企業会員が多数のため、これまで通りの委員会構造ではスタートアップの意見を反映することが難しい状況でしたが、各委員会にスタートアップが入ることにより意見の活性化が図られています」

スピード重視、オープンな議論の場も

 ー機動力のあるスタートアップと大企業では意思決定プロセスやスピードも異なるのでは。

 「そうです。スタートアップのビジネス環境ではスピード感が重視される一方、経団連の意思決定プロセスは時間がかかりすぎるため、いま必要なことがタイムリーに政策に反映されない一面がありました。そこで、従来の慣行にこだわらず、スピード感を持ってスタートアップの声をワンストップで受け止める『スタートアップ政策タスクフォース』を設置し、通常の機関決定プロセスを経ずにスタートアップと議論や意見形成できる仕組みを整えました。しかもこのタスクフォースは会員のみならず非会員でも参加可能なものとしています。これまでの経団連とは異なる、よりオープンな議論の場になっています」

 ーこうした取り組みの一環として始まった「KIX」ですが、参加者をオープンイノベーションや新規事業担当の執行役員以上に限定しているそうですね。なぜですか。

 「ピッチイベントはさまざまな場面で開催されていますが、担当者が会社に持ち帰って提案しても、経営層に反対されて、結局話が進まないというケースを耳にしていました。また一方で、スタートアップから経団連に対しても『大企業の役員レベルと直接交流したい』との声が挙がっていました。そこで当初KIXへの参加者を即時意思決定ができる役員に限定したわけです。実際にKIXに参加いただいたスタートアップからは、従来だと距離があった大企業側役員に直接リーチでき、その後の商談がスムーズに進んだという話も聞いており、参加要件を執行役員以上に限定したことがその後の成果につながっていると感じています。3月以降のオンライン開催では参加要件を執行役員以上に『限定』から『推奨』に緩和しましたが、それでも役員の参加率は高い状態が継続しています」

DX加速に不可欠

 ―スタートアップに対する社会の期待は「コロナ前」「コロナ後」で変化を感じますか。

 「新型コロナ危機以前より、スタートアップの多くは、社会課題解決や価値創造に向けた明確な『ビジョン』を持っており、さらにその実現への熱量やアイデア、スピード感、技術の先端性において、大企業を上回っていました。このためデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じた産業構造の転換、産業の新陳代謝を進めるうえでスタートアップ振興が重要であるということはかねてより認識していました。パンデミックを機に、働き方、暮らし方が変わり、リモートワークやオンライン診療などをはじめとして社会全体でDX加速の必要性を痛感しており、DXのカギとなる技術・サービスを生み出すスタートアップへの期待はより高まったと感じています」

 ※ こうした連携強化を実際のビジネスにどうつなげていくか。後編では大企業、スタートアップ双方、あるいは国に求められる姿勢について考えます。