政策特集ソーシャルユニコーン目指して vol.2

回り始めたエコシステム 成長の道筋の多様化も必要

古谷新規事業創造推進室長「同じ目線で」【後編】




 国の成長戦略のひとつとして、2018年6月に始まった「J-Startup(Jスタートアップ)」。選定企業の海外展開支援や政府調達への入札機会の拡大、大企業の経営者との交流機会を提供するなど、多面的な取り組みを進めてきた。いよいよプログラムも最終段階。回り始めたスタートアップエコシステムをどう発展させていくのか。前編に続き経済産業省新規事業創造推進室の古谷元室長の話に耳を傾けてみよう。

IPOだけがゴールじゃない

 これまで139社を選定してきた「Jスタートアップ」プログラムですが、足元の事業環境整備にとどまらず、成長の道筋の多様化も必要と考えています。日本のエグジット(投資回収)の主流はIPO(新規株式公開)ですが、米国では9割近くをM&A(企業の合併・買収)が占めています。スタートアップがよりダイナミックに世界の市場を席巻するには、必ずしも上場という過程を踏むのではなく、上場前に大型の資金調達を実現する戦略があってもいい。
 そのためには大企業との協業やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の積極姿勢に期待するところが大きいですね。新たに創設した「オープンイノベーション促進税制」はまさに、大企業とスタートアップの協業を促す狙いです。スタートアップの技術やビジネスモデルを大企業の経営資源と組み合わせることで、より大きな成長の幹として育てていき、社会に大きなインパクトを与えることができると考えています。

スタートアップと、その活躍を後押しする関係者との交流機会も増えている(2019年秋に開催されたイベント)

ともにルールメークを

 スタートアップがビジネスをしやすい環境整備は資金調達面だけではありません。私が所属する新規事業創造推進室は、スタートアップ支援を手がける「スタートアップ班」と必要な制度改革などに取り組む「規制改革班」のふたつのチームが組織されていますが、これを両輪として生かし施策にも機動力を発揮していきたいと考えています。
 とかく新たな技術やそれを活用したビジネスモデルは、革新的であるからこそ、既存のルールに対応できず、実用化できない懸念があります。
 こうした状況を打破し、イノベーションを後押しするため、政府は「グレーゾーン解消制度」(法規制が適用されるか不明確な新事業を始める際に事前に規制適用の有無を確認できる制度)や「規制のサンドボックス制度」(既存の規制の適用を受けない環境下で実証できる)などを活用してもらうことで規制改革を進めてきました。実際、Jスタートアップ企業から、これら制度の申請や問い合わせも少なくありません。スタートアップとの日常的な接点が多い私たちからも、これら制度や支援策をより積極的に発信し、活用につなげていきたいと考えています。

革新的な技術やアイデアをいかに具現化するか模索が続く(ソニーとJスタートアップの技術者によるマッチングイベント、2020年2月)

 とりわけ最先端の産業は政府の力だけで創出できるものではありません。このような最先端の産業を活かしながら、既存の価値観や枠組みにとらわれずに社会課題を解決するスタートアップ、言うならば「ソーシャルユニコーン」の活躍を期待しています。
 新しいアイデアや技術を持つ企業には、これら制度を広く活用してもらうとともに、見直すべき点や不明点など、スタートアップの実情についてぜひ聞かせて頂きたい。官民同じ目線でイノベーション創出に挑むことが、これからの成長を切り拓く原動力になる―。そう捉えています。(談)

 ※ 次回からは「ソーシャルユニコーン」として成長の可能性を秘めた注目企業のビジネス最前線を紹介します。