流通改革に挑む日本発スタートアップ
アフリカ市場に潜むニーズとは(前編)
地球上に残された「最後のフロンティア」と称されるアフリカ。2025年の人口は中国、インドに匹敵すると予測され、2030年までの間、GDP(国内総生産)が継続的に年率5%以上伸び続ける国はアフリカに集中する見通しだ。その成長力に惹きつけられるのは、大手企業ばかりではない。スタートアップや中堅・中小企業をはじめ、多種多様な企業をアフリカビジネスへ駆り立てる原動力となっている。
流通の「ラストワンマイル」に挑む
ケニア・ナイロビを拠点に事業展開する「アフリカインキュベーター(通称、アフリインク)」。現地の製造業や流通業向けに、スマートフォンを利用した営業支援のシステムを提供している。永井健太郎社長は、JICA(国際協力機構)でアフリカのプロジェクトの立ち上げなどに関わり、その後、外資系コンサルティングファームを経て2015年、同社を設立した。
中間層の台頭に伴い、購買力が拡大するアフリカだが、製品が消費者に届くまでの「ラストワンマイル」の流通はまだまだ非効率な面が多く、現地企業はもとより、参入を検討する海外企業の阻害要因になっている。先進国のように組織化された流通チェーンはまだ少なく、小規模な小売店へ販売するルートが主流であることから、商品の受発注管理や効率的な流通網の構築に多大な労力を要する。永井氏によると「そもそも信頼できる卸や小売店がどこにあるのか、あるいは自社商品が流通過程のどこで滞留しているか把握することも困難」という。
販売動向を可視化したい
同社のシステムは、販売管理や営業支援業務をSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)として提供するもので、販売動向を可視化したい現地ニーズを捉え、導入企業数は右肩上がりで増加。今や食品や飲料、日用品といった消費財メーカーを中心に100社を数える。味の素やホンダをはじめアフリカでビジネス展開する日本企業も同社の顧客である。
ケニアは、他のアフリカ諸国に比べ小売り市場に占めるスーパーマーケットの売り上げ比率が高いとされるが、経済規模で同国を上回るナイジェリアは、伝統的な小売店が中心だ。永井氏は昨年秋には、そのナイジェリアでの事業にも乗り出している。「欧米や日本のように流通構造がチェーン化されていくスピード以上に、ITやモバイルによって解決できる部分は少なくないとみています」(永井氏)。
流通の最前線に携わる永井氏の目に映る日本企業のアフリカ市場におけるビジネスチャンスとはー。
「経済成長と、イノベーションによってアフリカに新たな商流は着実に生まれつつあります。こうした潮流を捉え、日本企業が消費財分野でブランド構築に取り組む意義はそれなりにあると思いますが、実は製造現場にこそ、日本製品への底堅いニーズがあるようです」。
例えば住宅着工の増加に伴い需要が旺盛なドリルなどの工具。日本のマキタ製品は「ケニアではネットで検索されている」(永井氏)という。
日本の中小企業がなぜ
都市部を中心に台頭する中間層に照準を合わせたビジネスが広がる一方で、一次産業の高付加価値化を目指す現地ニーズに合致した産業用機械を供給している日本の中小企業がある。
愛媛県に本社を構えるエヌエスコーポレーション。アフリカ南部に位置する小国・マラウイで現地の特産品であるマンゴーなどをドライフルーツに加工したり、ハイビスカス茶を生産したりするための装置が現地の工場で稼働している。その評判は口コミで伝わり、トーゴをはじめ周辺国からも問い合わせがあるという。世界に食品加工機械は数あれど、なぜ遠く離れた日本の、しかも資本力にものを言わせた宣伝も行っていない中小企業の製品に引き合いがあるのかー。
その秘密をひも解いてみよう。
(後編に続く)。