HOTパーソン

若者の力全開! 平均26歳、SNSマーケティング支援のスタートアップを牽引

FinT代表取締役 大槻 祐依さん

SNSを活用したマーケティング事業を軸に躍進するスタートアップ「FinT」(フィント)。女性向けSNSメディア「Sucle(シュクレ)」を立ち上げて以降、企業からSNSを活用したマーケティングの相談を受けるようになり、支援を行った企業は300社を超える。現在は東南アジア諸国連合(ASEAN)地域に進出する日本企業のマーケティングや電子商取引(EC)サイトの運用のサポートも手掛ける。

平均年齢26歳。「若者の力にかける。若者を抜擢する組織をつくっていきたい」という思いとともに、世界における日本のプレゼンスの向上にも目を向ける。代表取締役の大槻祐依さん(29)に、起業にいたった思い、力を入れている事業とその背景を聞いた。

ASEANの成長力に期待 現地に初の海外拠点

――― 2025年に注目されている経済トピックを教えてください。

ASEANのGDP(名目ベース)が日本のGDPを抜くと予測されているのが2025年です。ASEANのマーケットはずっと伸びてきていますが、これから伸びるスピードも上がると考えています。世界でも若者が多い地域で、人口も増えています。1人当たりGDPもどんどん上がっているので、日本からASEAN市場に出ていく企業が増えるのではないでしょうか。

――― 日本企業のASEAN進出を支援する事業に注力されています。

ASEANに進出している企業のSNSやECサイトの運用などをサポートしています。大きく伸びているASEANのマーケットは現在、ちょうど日本の製品やサービスを多く消費してもらえるタイミングになっていると考えています。

日本では、オフラインでの購入がまだまだ重要な位置にあると思いますが、グローバルで見ると、デジタル化が加速する中でマーケティングの手法が変わってきています。ASEANで韓国、中国の企業が強い背景には、マーケティングの力も大きいと感じています。日本企業は、良い商品・サービスをたくさん持っています。しかし、ASEAN地域では現在、商品やサービスが良くても、マーケティング、特にオンラインによるデジタルマーケティング力で負けてしまい、日本企業が他国の企業にシェアを奪われているケースが少なくありません。私たちは、ASEANに進出する日本企業をSNSなどを活用し、マーケティングでサポートできたらいいなと思っています。SNSをはじめとしたデジタルツールの運用を支えることで、日本企業のデジタルマーケティング力を高めるとともに、ASEANでプレゼンスを高めていけるようにお手伝いをしたいと考えています。

海外進出もASEANからスタートしています。2023年5月に海外初の拠点をベトナムに設けたのをはじめ、今年さらに2か国に拠点を開設する予定です。ベトナムの体制は現在20人ほどで、平均年齢は23歳です。ベトナムの若者は、勉強熱心で留学を希望するなど海外志向が強く、会うと刺激をもらいます。ベトナムには日本で頑張ってきたメンバーが駐在していますし、これからもどんどんメンバーを日本から世界に送り出していきたい。私たち自身が日本から世界にチャレンジすることによって、世界でチャレンジしたいと思う若者を少しでも増やせたらいいなと思います。

FinTベトナム事務所の平均年齢は23歳。現地の人材を20名近く採用している

シリコンバレーで刺激受け、在学中に起業

――― 起業のきっかけを教えてください。

早稲田大学在学中にビジネスプランコンテストで優勝したことで、米国シリコンバレーに研修に行き、起業家の方々から刺激を受けました。「何かに熱中して世界を変えようとしている人はかっこいい」と感じ、自分もその一員になりたいと思いました。

その後、シンガポールに留学し、帰国後の大学3年の時にFinTを立ち上げました。日本の若者向けに金融教育を行う事業からスタートしましたが、他社と差別化できず創業1年目で事業転換しました。金融教育事業は、シンガポール留学中に現地の若者と比べて日本の若者の金融リテラシーの低さが気になり、「金融リテラシーを高めていけば日本の国力が上がるのではないか」と考えたことがきっかけで始めました。ただ、私自身にとって金融は得意といえる分野ではなく、事業に対する自分の熱量が足りなかったのだと思います。

「SNSに女性向けメディアの立ち上げたことがマーケティング支援事業のきっかけになった」とFinT代表取締役の大槻さん

次は自分の強みを生かせる領域で勝負しようと、インスタグラムに女性向けメディア「Sucle(シュクレ)」を立ち上げました。インスタグラム自体の利用者が増えていたことも追い風となり、シュクレのフォロワー数が増加し、インスタグラムの運用について企業から相談を受けるようになりました。こうして、「女性起業家」「学生」という強みを生かしてSNSでメディアを運営し、その後、SNSを使ったマーケティング事業などに事業領域を広げました。現在、シュクレの運営を通じて、Z世代の女性の消費行動にかかわるデータなどが蓄積できており、マーケティングにも生かすことができています。

Mizkanの味ぽん×VTuber施策

ミツカングループ『味ぽん』のZ世代向けプロモーション施策として、VTuberを起用したコラボ配信を実施。”漬けぽん作ってみた”のXでの発話は2万件を超えた

三井住友カードの「スマホのタッチ決済」利用推進を目的としたZ世代向けプロモーション施策としてSNSで配信するショートドラマを企画。総再生回数は310万回を突破した

――― 組織の強みはどこにあると考えますか?

平均年齢26歳という若さです。若者のパワーを生かして変化に強い組織づくりができるところが私たちの強みです。「若者にかける。若者を抜擢する」という企業文化を、日本だけではなく、グローバルに展開することを意識しています。同じ方向を向きながら一人ひとりが才能を発揮できることで、会社としてのパワーが生まれると思っています。

世界の変化をどれだけ許容できるかは、会社としての強さそのものです。変化に対応できるのは、やはり若者だと思います。若者の視点がイノベーションにつながることも多く、組織にとって若さは未熟さではなくパワーとなっていると感じます。

若者が未来に希望を持てる日本に

――― 今後、どんな取り組みをしたいですか。

若者が未来に希望を持てるような日本をつくるためには、ASEANだけではなく、米国、欧州など世界中で、日本の良いものを伝えていきたい。また、海外に進出した日本企業が現地でのつながりを深めていける機会を提供できる会社になりたいと思っています。こうした関係を通じて、日本企業が長年、海外進出先で蓄積してきた現地特有のビジネスの作法、伝統などを、新たに現地に進出した日本企業に共有できるようにしたいと考えています。

これまで製造業の方々が世界各地でこうした役割を果たされていたと思いますが、IT企業など他の産業もこうした役割を担っていけるようにすることが、世界での日本のプレゼンスの向上につながるのではないでしょうか。

私個人としても、たくさんのチャンスを与えてくれた日本に感謝しています。日本を良くしたいというのが起業の一番の理由です。私たちの事業を通して、未来に向けて明るい日本をつくっていけるようにしていきたいです。

――― どんなところにアンテナ張ってビジネスの着想を得ていますか。

「これからどんな時代になるのか」「デフレ志向をどう変えていけるか」など、経営者の方々とよくお話させていただいて、高い視座から経営について勉強させてもらっています。同時に、周囲の若者に話を聞いて、流行っているコンテンツを見るなど、自分自身、熱中しながら消費行動の変化をとらえています。このように二つの方向から変化をインプットしています。

【プロフィール】
大槻祐依(おおつき・ゆい) FinT代表取締役CEO。

1995年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。早稲田大学在学中の2017年3月にFinTを起業。国内とASEAN市場において、大手企業をはじめ300社以上に対してSNSを活用したマーケティング支援を行っている。2023年12月、「日ASEAN・Z世代ビジネスリーダーズサミット」(経済産業省など共催)に参加。