今どきの本屋のはなし

作家や芸能人ら援軍続々 「BOOK MEETS NEXT」が全国規模イベントへ急成長中

「本と書店を盛り上げようというイベントに参加できて、とてもうれしく思います!」

2024年10月26日、東京・神保町の出版クラブビルで行われた「そんなときは書店にどうぞ」(水鈴社)の刊行記念トークイベント。作家の瀬尾まいこさんは、集まったファンら約120人の前で声を弾ませた。

瀬尾さんは2019年、小説「そして、バトンは渡された」で全国の書店員の投票で選ばれる「本屋大賞」を受賞した。自分の本を選んでくれたのは、どんな人たちなのか。瀬尾さんはPRで書店を巡るたびに、書店員たちと対話を重ねた。

「愛情を込めてポップ(※推薦文を書いた札)を作り、並べ方を工夫して、一生懸命に本を売ってくださる。その姿に感動した。書店員さんたちのことが大好きになった」

新刊「そんなときは書店にどうぞ」は、そうした書店員や読者との交流エピソードを、軽妙かつ温かみある筆致でつづったエッセー集だ。トークイベントでは、「書店に行って楽しかったことをそのまま書いた。あとがき的に、書店が舞台の短編小説も載せた」と語った。

新刊「そんなときは書店にどうぞ」のトークイベントで書店への愛を語る瀬尾まいこさん

瀬尾まいこさん、新刊本の印税全額を書店に!

「そんなときは書店にどうぞ」は、作家が受け取る印税をすべて書店への応援に回す――という試みで話題の本でもある。

瀬尾さんが書店巡りをしていて耳にしたのは、「不況で限界に近い」といった書店員の悲鳴だった。「私なりに、できることをしなくては」。そんな気持ちに駆り立てられて、本の売り上げのうち作家の取り分にあたる「印税」の全額辞退を申し出た。瀬尾さんの意向を受け入れて、版元の水鈴社は本の定価を下げずに印税分を書店が手にする仕組みを整えた。出版取次会社の協力も取りつけ、通常は定価の約78%の金額となる書店の仕入れ値が、この本は約50%に抑えられ、利益率の高い商品となった。

刊行記念トークイベントでは、瀬尾さんの担当編集者でもある水鈴社の篠原一朗社長もマイクを握った。篠原さんは、当初はこの仕組みに反対だった。「作品を書いて得られる当然の対価を作家が辞退したら、業界の健全性を損なう」。その考えは今も基本的に変わっていないが、瀬尾さんの「この本は私が書いたというより、書店員さんと一緒に作った本だから、何か具体的な協力をしたい」という申し出を受け入れたという。

「1冊の印税が書店側に渡っても、その金額は、正直言って焼け石に水でしかない。けれども、これで書店の苦境が世間の話題になることには意味を感じる」と篠原さん。トークの質疑では、まだ刊行前だというのに「ぜひ続編を」というラブコールが書店員から上がり、瀬尾さんも「まだまだ書けます」と笑顔で応じた。本と書店を応援する人々の熱気が、客席に満ちた。

瀬尾まいこさん(右)が新刊の印税を書店の応援に回すことになった経緯を説明する水鈴社の篠原一朗社長

業界一丸 3年目で参加書店3000店以上

瀬尾さんのイベントは、BOOK MEETS NEXT(ブック・ミーツ・ネクスト)という読書イベント内で行われたものだ。

書店の数が急速に減り、読書離れも進む。BOOK MEETS NEXTは、そんな本の業界の低迷を打開しようと、出版社や書店、出版取次など業界が一丸となって2022年にスタートした大型イベントだ。2024年は10月26日から11月24日にかけて行われ、参加書店数は3000店以上、イベント総数は7000件以上に上った。

BOOK MEETS NEXTは年々、その質を向上させている。

まずは、開催規模だ。スタート時の2022年は東京、翌23年は京都を中心に各イベントが行われたが、24年はイベントの本拠地は、本の街・東京神保町に置きながらも、全国でイベントのプロデューサーを募り、事務局が助成金を出す形を取ったことで、地方の書店らがより深くイベント運営に関わるようになった。イベントが実施されたのは、東京、三重、京都、福岡などの9都府県。たとえば広島では、書評合戦「ビブリオバトル」を広島市立中央図書館や県教委などが連携して催し、児童書などを積んだ本の移動販売車も出動した。山梨では、特産のワインを飲みつつ地元ゆかりの作家やお笑いタレントと語り合うイベントを、書店や図書館、県などでつくる実行委員会が催した。

事務局を務める出版文化産業振興財団(JPIC)の松木修一専務理事は「活動に地域的な広がりが出て、各地の本業界の活性化にもつながり始めた感触がある」と手応えを語る。

2024年11月23日に京都市で行われたイベントでは、大学生による絵本のビブリオバトルが行われた。開催には、地元の大垣書店が関わった

小泉今日子さんらをゲストに 他業界とのコラボも

作家や他業種とのコラボイベントも増えている。

松木専務理事によると、1年目はイベントを運営するので手いっぱいだったが、2年目からは注目度アップにも注力。歌手で女優の小泉今日子さん、元ボクシング世界チャンピオンの村田諒太さんら読書好きな各界の有名人をゲストに招き、多くのファンをイベント会場に引き入れることに成功した。

2023年のBOOK MEETS NEXTのトークイベントに出演した村田諒太さん(右)

3年目は、瀬尾さんや浅倉秋成さんといった人気作家によるトークイベントも数多く実現したほか、古本市や図書館と書店を巡るスタンプラリーなども行われた。

他ジャンルとのコラボ企画も増えた。

東京では、老舗の飲食店主たちが漫画原作者の久住昌之さんを交えて本の街・神保町の魅力を語り合ったり、スポーツ用品店で冒険家と登山雑誌の編集長が対談したりするイベントが催され、新たな読書ファン層の掘り起こしに一役買った。

こうしたさまざまな試みが実り、BOOK MEETS NEXTの関心度は目に見えて上がっている。今回のBOOK MEETS NEXTの公式サイトのアクセス数は前回を2万件も上回る4万6000件を記録した。

「各地の書店や図書館が自らイベントを打ち、頑張っているところを見せれば、楽しくて活気ある場所だと読者に思ってもらえる。本棚の前へ、多くの人に足を運んでもらえるようになったとき、本の業界は活路が開けるのではないか」と語る松木専務理事。書店応援を続けるBOOK MEETS NEXTが今後、どのように発展していくかに注目したい。