書店応援団① 上白石萌音さん「店をゆっくり一周… 世界が広がるわくわく感」
書店振興には、本を読む読者の存在が欠かせない。そこで、本が大好きな著名人にオススメの本や書店に対する思いを語ってもらう特別企画をスタートさせます。その名も「書店応援団」。第1回は、俳優や歌手として活躍している上白石萌音さんに登場してもらいます。書店でのひとときを「一番好きな過ごし方」と話す上白石さんに迫りました。
(以下、上白石さんのインタビュー)
想定外の出会いを求めて
書店では、時間もお金もあっという間になくなります。長居してしまうのは、セレクトが利いていると感じるお店です。自費出版の本を多く置いていたり、他のお店では扱っていないようなムック本が置いてあったり。「旅」や「食」など期間を区切ってテーマを設けて特集しているお店は定期的に訪れたくなりますね。それぞれ、お店側はどんな思いで本を選んだのだろうと想像しながら、手前から奥へゆっくり一周します。気になった本は手に取り、「いいな」と思うとつい買ってしまいます。今どきっぽく表現すると、まさに「時間もお金も溶けていく」感覚です。もちろん、Amazonなどのオンライン書店も利用します。でも、それは「この本を買う」と決まっている時です。書店は、自分では想定していなかった方向に世界が広がる。それが楽しみです。
きょうバッグに入っているのは「いつもの言葉を哲学する」(古田徹也著、朝日新書)」です。この本との出会いも書店がきっかけでした。
ある時、友だちと書店に行ったんです。その友だちから古賀及子さんのエッセーをお薦めされました。その場で試し読みしてみたら、すっかり気に入ってしまいました。
そうしたら先日、古賀さんと、私が元々好きだったフリーライター・スズキナオさんがラジオでこの本をすすめているのを耳にしました。自分が好きなライターさんがそろって「面白かった」と述べている本なんて読みたいにきまっています。それで、すぐに買いました。
まだ読んでいる最中ですが「出会った!」と万歳したくなります。「まるい、しかくいと言うのに、なぜ、さんかくいと言わないのか」などなど、言語学に興味がある私には、なるほどと考えさせられるトピックばかりです。
確かに、オンライン書店を利用した時に、おすすめ欄に出てくる本も気になります。でも、それらは私の興味の延長線上にあるものです。
書店での出会いは少し違います。想定外のハプニングと言うか、自分の中の世界が書店で数珠つなぎに広がっていく感じです。そして、それを本当に好きと感じるかどうか、その場で実際に確かめられるのもいいです。自分ひとりじゃ絶対探せなかった、目にしていてもおそらく買わなかった本に今、手が伸びた――。世界が広がる瞬間のわくわく感は、一度味わうと忘れられません。私は「本を買いたい」というより「何かに出会いたい」と思って書店に通っています。
本が歩み寄ってきてくれる
ドラマや映画の作品に入る前には、資料集めとして、たくさんの本を読みます。勉強が目的の本は、必ず書店で探します。いきなり専門書はちょっとハードルが高い。そう感じた時には、書店の児童書コーナーに答えがあるからです。
弁護士が主人公のドラマの時は「こども六法」(山崎聡一郎著、弘文堂)に助けられました。将棋を扱う作品でもあったので、子ども向けの将棋の教本も見つけて読みました。書店って、こういう本がほしいなと思って探すと、必ず見つかる。オンラインだとなかなかヒットしないのです。書店だと、自分でも読めそうかどうかを確認できるというのも大きいですね。「初心者向けのものもあるよ」「難しいならかみ砕いてあるよ」と、本の方から私たちに歩み寄ってきてくれている時代だなと感じます。あとはこちらのモチベーション次第です。
絵本も好きです。ちゃんと絵を見て、手触りも感じたいから、やはり書店で選びます。大人になってから読む絵本って、全然印象が違いますね。幼い頃に読んでいた本を改めて読んだ時、私は自分の精神的な成長を実感しました。その時は「こんとあき」(林明子作、福音館書店)という大好きな絵本でした。あきちゃんという女の子が主人公で、小さい頃は当然のようにあきちゃんの目線だったのに、母親目線で思いを巡らせている自分に気づいたのです。
同じ本を、時間を置いて再読する時間って普通はなかなか取れない。でも絵本なら数分で可能です。あの頃の気持ちに戻れたり、心が癒やされたり、以前の自分では読み込めなかった奥深さに気づいたり。自分自身を見つめ直せると思いました。
だから私はよく、人に絵本をプレゼントします。私が書店で選んだ絵本です。私のように、大人ひとりで書店の絵本コーナーに行く人はあまりいないようです。絵本を再び手にする機会になったと喜ばれます。
本や書店が苦手という人はまだ出会ってないだけ
読書が苦手という方は、今まで読んだ本が、自身に合っていなかった可能性があると思います。もちろん私にも、合わない本があります。読んでも「あれあれ? 全然、頭に入ってこないぞ」となってしまうのです。そういう時は、さっさと次の本を探します。誰にでも、合う合わないがあるはずなので、そこで「本は難しい」とか「読書は無理」などと思わずに、探し続けてもらいたいです。
書店なら、自分に合うか合わないか確認できます。自分にとっての一冊に出会うには、自分で「選ぶ」という体験をするのが大切だと感じます。
電車で、多くの人がスマホを取り出す中「私は、読みます」とばかりに本を開くのって、ちょっとかっこいいと思います。学校の授業に出たり、映画を見たりするよりもずっと簡単に、ただ開くだけで新しい世界や心を動かす言葉に触れられる。自分がうまく表現できなかった気持ちや出来事を、言葉のプロが見事に言語化してくれる。「そうそう、それそれ!」と、うれしくて興奮します。
書店はそんな世界への身近な入り口です。ふらりと立ち寄れるような書店が減っているというニュースは寂しく感じます。たとえ、何も買わなくても、誰もがまた「読みたい」「出会いたい」という気持ちになって店を出ることができる。私にとっては、絶対的な安心感があり、信頼の置ける場所です。
【プロフィール】上白石萌音(かみしらいし・もね)
1998年生まれ。主な出演作品は、映画「舞妓はレディ」「君の名は。」「夜明けのすべて」、連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」など。歌手やナレーターとしても活動している。2021年には、書き下ろしエッセー「いろいろ」を刊行。プライベートでの出費はほとんどが本というほどの読書好き。毎晩、入浴時に湯船につかりながらゆっくり読書を楽しむという
※「書店応援団」は随時掲載します