【滋賀発】「六方よし」の想いを胸に、物流販売からソリューション提案型に事業を拡大
滋賀県近江八幡市 近江ユニキャリア販売株式会社
「売り手よし」、「買い手よし」、そして「世間よし」――。近江(滋賀県)を拠点に全国各地を商圏に活躍した近江商人は「三方よし」を商いの精神として培ってきた。その想いを引き継ぎながら1970年、近江八幡市で近江ユニキャリア販売は創業した。フォークリフトや除雪車から環境システムまで、総合物流販売を幅広く手がけ、業績を順調に伸ばしてきた。児島多鶴子社長(60)は、この「三方よし」に「作り手よし」、「地球よし」、そして「未来よし」を加えた「六方よし」を経営方針に掲げる。社員を大切にしながら、ビジネスという枠組みを超え、いかにして地域に貢献できるか。経営と社会の共存共栄を図り、近年の「CSR」や「SDGs」を先取りする形で、「地域で輝く」ための道筋を模索している。
父が遺した「『感謝の心』で考動を」という想い
近江ユニキャリア販売は輸送機器メーカーの指定サービス工場として、児島社長の父、木村隆司氏が1970年に創業した。その際に「『感謝の心』で考動を」という経営理念を掲げた。ビジネス中心の利己的な「行動」ではなく、相手のことや地域への貢献を熟慮した上で商売をする「考動」を大切にする。そこに「三方よし」を重んじる近江商人のDNAがすでに息づいている。その後、大手メーカーの産業車両や建設機械を扱う特約店として業務を拡大。各種車両のレンタル事業や常設のフォークリフト展示場を備えた中古車販売センターなども手がけ、現在は近江八幡市の本社に加え、滋賀県内の栗東市、米原市、甲賀市、そして高島市の計5拠点で営業を展開している。取材した11月上旬は、冬本番を前に自治体などで使われる除雪車の整備で社内は活気づいていた。
技術力に裏打ちされたマルチベンダーとしての強みを活かす
「私たちの強みは、長年の経験によって培われてきた技術力、多様なメーカーの製品の中から最適なものを提供できるマルチベンダーであること、そしてお客様の要望に応えられるきめ細やかな提案力だと思っています」と児島社長は話す。技術力を磨くために、社内での勉強会に加え、メーカー主催の研修会などに積極的に参加。さらに60社以上から計250種類以上の商品をそろえ、その販売からメンテナンスまでを一貫してサポートできる体制を整えている。さらに変化の早い物流業界にアンテナを張り、最新の製品情報や業界動向を踏まえて顧客に多様な選択枝を提供することで、「地元で頼られる物流パートナー」として成長を続けてきた。実際、企業の物流倉庫の集配システムなど大型のプロジェクトを手がける機会も増え、今年度上期の売り上げは15億円と、前年度同期比約22%の伸びを記録した。 来年9月までに、栗東市と甲賀市にある営業所を統合し、その中間地点に敷地面積約4133平方メートルの新営業所を建設中で、竣工に合わせて社名も「近江ユニキャリア販売」から「近江ユニキャリア」に変更する予定。「取引先や地域の方にも親しまれている名称にしようと社内で検討を重ねて決めました」と児島社長は話す。「創業から半世紀以上を経て、物流のニーズはますます多様化しており、新営業所開設と社名変更に合わせて、新たな価値を創造する総合物流ソリューションの提供に力を一層入れていくつもりです」。要は、製品をそろえ、顧客の要望に応じる受け身の経営だけでなく、そうした強みを土台に顧客の事業に積極的に関与して、課題解決のための提案を行える企業へ舵を切っていこうことなのだろう。
アパレルから転身し、働きやすい職場づくりを目指す
もっとも、京都の服飾関係の専門学校を卒業して、アパレル企業に勤めていた児島社長にとって、父親の後を継ぐことは「想定外だった」らしい。女性の多い職場から、男性中心の職場への転身にも最初は戸惑った。「それでも、父が仕事に打ち込む姿を子どもの時から見ていたので、支えたいという思いはありました」と児島社長は話し、2013年7月に近江ユニキャリア販売に入社。父親の秘書的な仕事などを経て、取締役として経営も学び、2022年に社長就任。木村氏は会長に就いて後見役を務めていたが、昨年病気のため、83歳で亡くなり、以後、「児島色」を打ち出しながら経営を引っ張っている。
DXを活用し、社内基幹システムの一元化図る
その際に力を入れたのがDXの推進。属人化しがちな営業情報や顧客情報をDXの力を借りて可視化、社員同士で共有し、商品発注や経理業務を徹底的に効率化した。「社内システムを一元化することで、余剰となった人員を顧客に対応するソリューションの業務など、『人にしかできない業務』に振り向けることができるようになりました」。人材育成にも力を入れる。全社員を対象に、自分の行動パターンや強みを理解した上で、チームに貢献できる術を考えるきっかけを与えるチームビルディングの研修を行ったり、人間としての正直さや誠実さを目標管理に求めたり、社員の意識改革にも取り組んでいる。
そうした取り組みが外部からも評価され、2018年には経済産業省の「地域未来牽引企業」に選ばれ、「健康経営優良法人」としても3年連続で選定されている。社員の福利厚生も手厚い。例えば、勤続10年でハワイ、20年でアメリカ本土、30年でヨーロッパをペアで回る旅行費を会社が負担。しかも、それらを「研修旅行」として位置づけ、勤務扱いになるという。さらに災害発生時に社員の安全確保を第一に考え、被害を最小限に抑えて事業継続に努める経済産業省の「事業継続力強化計画」や、子育てサポート企業を広める厚生労働省の「くるみん」にも認定されてる。
地域への貢献は、企業として欠かせない取り組み
「六方よし」の理念、とりわけ「地球よし」の想いに基づいて、社内外の環境整備にも熱心だ。太陽光発電を積極に運用して社内のCO2削減に取り組んだり、地元、近江八幡市の桜並木やケヤキ並木の整備を行うなどして、滋賀県から緑化に貢献したとしてシャクナゲ賞を受賞したりしている。「こうした取り組みは利潤を生むわけではありませんが、地域で活動を続けていく企業としては欠かせない取り組み。地域の繁栄があって、私たちもサスティナブルなビジネスが成り立つからです」と児島社長は話す。
将来的には、滋賀で培ったノウハウを元に子会社のGTLSを通して海外でのビジネス展開も視野に入れる。「いずれにしても利潤優先ではなく、社会貢献が我が社の最大の目的。そこへ向けて、様々な試行錯誤を繰り返している最中です」。ビジネスも地域での活動も最後は父親の掲げた「『感謝の心』で考動を」という想いに戻ってくるようだ。地域に根付いた「六方よし」のビジネスには、文字通り「地域で輝く」ためのたくさんのヒントが詰まっている。
【企業情報】▽公式企業サイト=https://www.omi-uc.co.jp/▽代表者=児島多鶴子社長▽社員数60人▽資本金6000万円▽創業=1970年