「その商慣行、法律違反です」―!「かけこみ寺」から見える下請取引のリアルとは
多くの中小企業は、大企業を中心とした発注者側から業務を請け負い、部品やサービスを製造・提供している。発注側の親事業者と下請事業者との取引を公正なものにし、下請事業者の利益を保護するために定められているのが「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)だ。
長年惰性的に続けられている慣行の中には、下請法に抵触しかねないものもあり、親事業者、下請事業者双方に、自覚や意識変革が必要となってくる。
親事業者が禁止されている行為とはどのようなものか、下請事業者が不当な取引を強いられた時には、どのように対応すれば良いのか、現場の声を熟知する人たちに話を聞いた。
「世界に冠たる企業でさえ……」。相談件数は年間1万件超え
「これだけコンプライアンスが問われる時代にも関わらず、下請法をきちんと理解せずに下請事業者をギリギリと締め付けるようなことを平気でやっている。世界に冠たる企業でさえそんなケースがあるのはさすがに驚きます」
中小企業などの取引関係の悩み相談に応じている「下請かけこみ寺」本部(東京都中央区)で主任調査員を務める山﨑弘久さんは、現状にこう苦言を呈する。
「下請かけこみ寺」は全都道府県に相談窓口を設け、企業間取引や下請法に詳しい約60人の相談員が無料で相談にあたっている。2008年度の開設以来、相談数は右肩上がりに推移しており、2021年度には年間1万件を超え、2023年度は過去最多の1万2346件の相談が寄せられた。
代金引き下げ、支払い遅延、返品……。系列の下にいくほどしわ寄せ大きく
親事業者と下請事業者の間で行われる取引では、仕事を発注する側の親事業者が下請事業者に対して優越的な立場になりがちだ。「親事業者の都合で代金の支払いが遅れた」、「代金が不当に引き下げられた」「勝手に返品された」といったケースは決して少なくない。
山﨑さんは、「製造業の例で言うと、100万円でオーダーを受け、期日までに納品したのに『予算が削られたので80万円にしてくれ』と親事業者が言ってくる。親事業者自体が、より大きな企業の1次下請けだったりして、2次、3次と系列の下にいくにつれて、どんどんしわ寄せが大きくなっていく。下にいくほど、不利益を押しつけられる状況があるのです」と指摘する。
「下請かけこみ寺」では、まずは電話や対面でのアドバイスや弁護士への無料相談を通じ、当事者同士の話し合いでの解決に向けた助言を行い、それでも解決に至らない場合には、法務大臣から認証を受けた紛争解決機関として、調停手続(ADR)を実施。全国に配置した調停人(弁護士)が、親事業者と下請事業者の間に入って話し合いを取り持っている。
「不慣れから知らず知らずのうちに法律違反」
そんな中で近年多いのが、トラック運送業関係の相談だという。
トラック運送業界では、燃料価格の高騰や多重下請構造といった課題に直面する中で、労働条件や経営環境が悪化している事業者が少なくないことが背景にある。
「下請かけこみ寺」の相談員を務める福田有子さんは、「事業者が不慣れなうえに、請け負っている側も個人でドライバーをしている方が多く、知らず知らずのうちに下請法に抵触してしまっているというのが実情です」と話す。
「親事業者の言いなりにならず、自らの価値に気づいて」
福田さんは相談業務を続ける中で強く感じていることがある。
「下請事業者は本来、親事業者から選ばれて取引しているのであり、付加価値を提供できているはずです。そこに自ら気づかずに、『親事業者からこう言われている』と受け身の状態になっている。話を聞いていると、親事業者のために知恵を絞り、工夫してきたことがたくさんあるのに、そこを伝えて交渉しようとしていない。自らの価値に気づいてもらえるようアドバイスするように心がけています」
とにかく文書、メールに残す。追い詰められる前に相談を
取引関係のトラブルから身を守るため、中小の下請事業者、個人事業者、フリーランスはどうすればいいのか。山﨑さんは、取引関係にまつわることを、とにかく文書に残すことだと話す。
「いざという時に証拠がないと裁判もできません。契約書を交わすのが一番ですが、相手が出してくれないならば、例えば『日当はいくら、支払いは月末締め●日払いでよろしいですね』と最低限のことを確認し、『間違っていたら返信してください』とメールすることで自らの身を守ることができます」
その上で、取引関係で疑問に感じることがあれば、どんな小さなことでも「下請かけこみ寺」に相談して欲しいと訴える。
「相談してくる方には、精神的に追い詰められて、廃業まで考えるような方もいらっしゃいました。発注側にも、下請事業者は一緒に付加価値を高めていくパートナーなのだという認識を持って欲しい」
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