地域で輝く企業

【岡山発】「お元気さまです!」が合言葉。科学に基づき“笑顔”をサポート

岡山県岡山市 ダイヤ工業

いつまでも健康でありたい。年を重ねても毎日をワクワク、ドキドキ楽しく過ごしたい。そんな誰もが抱く願いに徹底的に寄り添うことをモットーとした企業がある。

岡山県岡山市に本社を構える「ダイヤ工業」は日常用、スポーツ用のサポーターやコルセットなどを開発・製造・販売している医療用品メーカーだ。ユーザーの声に耳を澄まし、最新設備による計測・解析などを通して、「科学的な裏付けのあるサポート」を追求。アシストスーツの海外展開も進めている。

「ユーザーに『健康のその先にある楽しみ』を提供し、従業員1人ひとりが輝ける会社を目指す」という企業の「元気の源」を探った。

重い荷物の上げ下げなど、重労働を手助けする「アシストスーツ」

きっかけは姉のコルセット。「もっと着用しやすく」と頼まれて

ハワイ・オアフ島にある火山、ダイヤモンドヘッドは、ハワイ観光でも屈指の人気スポットだ。このダイヤモンドヘッドこそ、「ダイヤ工業」の名前の由来だという。

「創業者がハワイを訪れた時、たくさんの観光客が詰めかけ、にぎわっていたのがダイヤモンドヘッドでした。『ダイヤモンドヘッドのように、世界中の人から認知され、注目される存在になりたい』と、社名に『ダイヤ』を入れたと聞いています」。松尾浩紀社長(42)はそう教えてくれた。

ダイヤ工業は1963年、「ダイヤゴム工業」(1965年に現在の社名に変更)として、松尾社長の祖父・隈男氏が創業した。創業当初は、い草にゴム底のサンダルを製造し、国内のほかハワイなど海外にも輸出していた。そこから医療用品の開発・製造・販売に進出するには、一つのきっかけがあったという。

創業当時に製造していた、い草のサンダル

1982年ごろ、隈男氏の姉が腰を痛め、整形外科でコルセットを処方された。ところが、そのコルセットは分厚く、かさばるため長時間付けたまま日常生活を続けるのが難しい。そこで弟の隈男氏に「もっと楽なものが作れない?」と依頼した事が、今日まで続く事業のきっかけとなった。

完成したサポーターは姉から好評だった。「もしかしたら、これは可能性がある」と商品化に取りかかった。商品を説明するハガキを手書きのイラスト付きで、1枚1枚全国の整形外科や整骨院に送ったという。

そのうち1件、また1件と注文が入るようになる。「そこから今日に至るまで、お客さまの信頼を積み重ねてきました」と松尾社長は語る。

本社1階のショールームに並ぶサポーターなど製品の数々

モーションキャプチャで動作解析。データに基づいた製品開発

松尾社長は大学を卒業後、東京で2年間IT企業の営業を経験した後、2代目社長である父、正男氏に呼ばれて2006年に岡山に戻ってきた。

「ITの仕事も楽しかったので、当初、会社を継ごうという気持ちは、まったくありませんでした。しかし、ある時父に『戻ってこないか』と言われ、いろいろ話をする中で、『これは絶対に楽しい仕事ができる』と確信して、その場で会社入りを即答しました」

以来、営業をメインに開発、生産と業務全般を見た後に、2018年に3代目の社長に就任した。

ダイヤ工業が強くこだわっているのが、「科学的根拠に基づいた製品」の開発だ。2016年には「R&Dセンター」を開設し、モーションキャプチャによる動作解析などをフル活用して製品開発に取り組んでいる。

「サポーターは、装着して気持ちいいとか、何となくしっかりしているとか、体感型の商品が多い。しかし、我々の提供する商品は使用者にとって信頼のおけるものでなければなりません。サポーターを付ける前と後できちんと必要な数値をとり、科学的検証により自信を持って提案できる製品を目指しています」と松尾社長。こうした取り組みの副次的効果として、入社を志望する理学療法士も増えてきた。現在、4人の理学療法士が、従業員として開発段階からその知見を発揮しているという。

モーションキャプチャを使って科学的に人間の動作を解析

アシストスーツで世界進出。「暮らすだけで健康になる家」も共同開発

今後、ダイヤ工業はどのような展開を模索しているのだろうか。

一つは海外事業の拡大だ。例えば、重い荷物を運ぶ際の負担を軽減するアシストスーツについては、欧州進出が動き出している。

「欧州は労働者に対して非常に手厚い。疲労による労働災害を防ぐため企業や国がサポートしていこうという機運があります。ただ、現地のアシストスーツはとても高価なものです。そこで、我々の製品は『手頃な値段で必要な機能を備えたアシストスーツ』というポジションをとることができます。すでに現地代理店と具体的に動いています」

松尾社長の口からは、他にも「人を笑顔」にする構想が次から次へと披露される。

「住宅メーカーとはぶら下がり棒があったり、壁にクライミングネットがあったり、暮らすだけで健康になれる家を共同開発しました」「脊椎損傷等で後天的に歩けなくなった人が、もう一度自分の足で歩くためのお手伝いができないか」……。

42歳の松尾浩紀社長。社内では「ヒロキさん」と呼ばれている

社長は「ヒロキさん」。まずは従業員1人ひとりが笑顔で幸せに

ダイヤ工業には、ユニークな慣習がいくつかある。社内でのあいさつは「お疲れさまです」ではなく「お元気さまです」。疲れている事が前提より、元気な方が明るくて良いという理由だ。

また、社長から新入社員まで、「○○部長」「○○課長」というような役職名ではなく、「さん」付けで呼び合う。松尾社長の場合、同姓が社内にいるので「ヒロキさん」だという。

定期的に全従業員が関節、筋肉など「運動器」の年齢を測定しているが、23年4月には実年齢より平均で2.1歳若かった。7月には3.3歳と更に若返ったという。松尾社長はこう強調した。

「『お客さんを笑顔にしたい』と従業員が考えている会社です。従業員が暗い顔をしていたら『笑顔』は提供できません。会社の成長とともに、従業員1人ひとりも幸せになることが大事です」

【企業情報】

▽公式サイト=http://www.daiyak.co.jp/▽社長=松尾浩紀▽従業員数=109人▽創業=1963年