【熊本発】売り切れ続出!「生でおいしい卵」が 次々に産み出す「6次産業化」への未来像
熊本県菊池市 コッコファーム
複合施設「たまご庵」、朝から客の熱気ムンムン
創業者で父親の松岡義博会長(73)が20歳の時に一念発起、出身地の熊本県菊池市で脱サラをして400羽から養鶏を始めた。経済成長ただ中の1969年のこと。事業を徐々に広げ、81年に父の兄弟2人と共に松岡食品養鶏センターを起こし、95年にはコッコファームを設立した。
「幼い頃から父親の働く姿を見て育ってきたので、仕事を自然と手伝うようになり、農業の大変さと同時に生産の喜びを感じてきました」と松岡義清社長(46)は話す。97年にコッコファームに入社し、社内の全17部門を経験して2011年に社長に就任。今では養鶏業を軸に物産館やレストランなども手がけ、熊本を代表する優良企業として知られる。
もっとも、熊本県外の人にとって、本社を構える「菊池市」はなじみが薄い土地かもしれない。熊本市内から北東方面に電車とタクシーを乗り継いで約1時間。熊本空港(益城町)からなら国道325号線をタクシーで30分ほど北上すると、物産館やレストランなどの入った複合施設「たまご庵」と兼ねた本社に着く。現地までの公共交通機関も十分に整っているとは言えない。
むしろ、近年は脚光を集めているのは南隣の菊陽町。半導体受託最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が同町に進出し、24年稼働の予定で日本初となる大型の工場が建設されているからだ。今年3月には空港もリニューアルされ、周辺地域は活況に湧く。
そんな中、現地に到着したのは22年12月末の平日午前9時半前。取材が10時からだったので、その前にたまご庵をぶらりとのぞいて驚いた。様々な生鮮食料品や弁当、それに年越し用品などが整然と並べられて売られ、一見、道の駅かスーパーのような内装だが、店内の奥に人だかりができているのだ。
客の目当ては、その朝、近くの自社直営農場で選別後、最短1時間で店頭に並ぶ鶏卵だという。段ボールのケースに卵が2.3kg入った1234円の商品が飛ぶように売れていく。「お一人様につき2箱まで」というはり紙も。師走、見知らぬ土地、そして卵を買い求める人たちの熱気……。到着してまだ10分足らず。事態を一気にのみ込めず、頭がクラクラしてきた。何だ、これは!
ボーッとして売り場近くに立ち尽くしていると、販売担当のスタッフに声をかけられた。「お昼前には売り切れてしまいますよ」。そう言われて、売り場を見渡すと、卵10個パックが二つと卵かけ醤油が手提げ袋に入った「たまご庵セット」が1400円で売っているのを見つけた。これなら東京に持ち帰れそうと、慌てて商品を手にとってレジに並んだ。実際、取材を昼前に終えて、卵売り場に戻ってみると、すでにこの日売り出した卵約600箱は売り切れていた。
えさと水と環境と…専門部署で徹底した品質管理
それにしても、鶏卵がどうしてこんなに人気なのか? 「安いからですか」と単刀直入に尋ねると、「価格は一般のスーパーとそんなに変わりません」と松岡社長は話す。朝採れだから、新鮮だというのはわかる。その基本を守りながら、品質の向上に愚直に取り組み続けてきた。卵の見た目が大きく変わるわけではないが、目には見えない取り組みが消費者に評価された。
例えば、えさのトウモロコシは遺伝子組み換えをしていないものを使い、収穫後に農薬を使わないポストハーベストフリーを実践。一般には、その違いはよくわからないが、「通常のえさと比較すると、1トン当たり6000円高くなってしまいます」と松岡社長。さらに滋養強壮のためにニンニクを配合し、生臭さを抑えるために炭も交ぜているという。飲み水は阿蘇西外輪山水系の地下水を使っている。希少価値の高い純国産鶏の「もみじ」約5万羽が1日当たり約4万個の卵を産む。
専門の部署を設けて、卵殻の強度や卵の重さ、卵黄色などの品質管理にも手を抜かない。19年には熊本県の採卵養鶏場で初めて、食品の製造工程で、健康被害を起こす要因を分析し、安全に問題が生じないよう手順を決めたり、記録したりする「農場HACCP」も取得した。「大切にしているのが生で食べておいしい卵の生産。特別なことではなく、それが私たちの事業の基本なのです。実際に私たちの生産した卵を食べていただいたお客様にも、そのことに気づいてもらえるようになったのではないかと思っています」
地元の農産物・パン・ジャムも目当てに、年間86万人
そうした卵の魅力を、ここ菊池市からいかに発信できるか――。それが父親から事業を引き継いだ松岡社長の思いでもあった。積極的に取り組んだのが卵に付加価値を付ける6次産業化。卵の生産(1次産業)に加え、加工(2次産業)して、それを販売(3次産業)する。その数字を掛け合わせて6次産業化して、持続可能な事業を目指す。
その第一歩となったのが、社長に就任した11年にオープンした「たまご庵」。物産館ではコッコファームの卵だけでなく、地元の農産物やジャムなどの加工品なども販売し、年間86万人前後の人が訪れる。22年には新規事業として、コッコファームの卵をふんだんに使ったパンやバームクーヘンを製造販売する「Cocco-Farm Factory C+」をオープン。今年はリニューアルする熊本空港の旅客ターミナルビル内に卵料理などを提供する初のアンテナショップをイートイン形式で出店する予定だ。
健康経営事業の構想も。地域のため一丸で「考動」
さらに卵から始まったビジネスは健康経営事業にも広がりつつある。21年にたまご庵内に様々な健康状態を確認する機器を置き、施設を訪れた地域の人たちの健康意識向上を図る。健康経営優良法人2022の取得をはじめ社内の体制にも力を入れ、全従業員へのコロナ見舞金の支給や、社長が全社員と個別面談をして働き方改革や健康増進にも取り組んでいる。
「それだけではありません」と松岡社長は話を続ける。たまご庵の近くには父親が開業した温泉宿泊施設「白金の森」があり、それとたまご庵を結び、さらに旧物産館があった場所にジムや多世代が交流できるスペースを設け、健康やリラクゼーションを目的にした事業の構想も描いている。「熊本空港からたまご庵や白金の森などを回遊する旅行ルートも確立していきたいと思っています」
「単にビジネスとして成功するだけでなく、地域の発展に企業としてどれだけ貢献できるかを父の代から大切にしてきました」。23年度のスローガンは「良い会社を全員で創る~変化を意識し自発的に考動する」。「行動」ではなく、自ら考えて動く「考動」と記してあるのがミソだ。事業の拡大や利潤の追求にとどまらず、デジタルトランスフォーメーション(DX)の力も借りながら、地域でいかに「良い会社」であり続けるか――。そのヒントをコッコファームの意欲的な取り組みが教えてくれる。
【企業情報】
▽公式サイトhttp://www.cocco-farm.co.jp▽社長=松岡義清▽グループ売上高12億円▽創業=1969年▽会社設立=81年