地域で輝く企業

「企業版ふるさと納税」マッチング事業、米子から全国に発信

エッグ 鳥取県米子市

東京と米子の往復を繰り返しながら、新しい取り組みを進める新田社長

 相談プラットフォームを開発、自治体と企業の「思い」を橋渡し

印刷会社として1949年に鳥取県米子市で創業。以来、官公庁や教育機関などの印刷業務を請け負い、地域に密着したビジネスを展開してきた。90年代以降はインターネットを活用したさまざまなサービス提供に業務を拡げ、近年はふるさと納税やフレイル予防といった官民連携によって運営されるシステム開発なども全国規模で手がける。「新しいものを米子から発信していこう」という思いを込めて94年に社名を「エッグ」に変更。2022年3月にIT事業などを展開するスカラ(本社・東京)の子会社となった。従業員は東京支店、関西支社を合わせて計約70人。

エッグが全国的な注目をあつめるきっかけになったのが、全国8社でアライアンスを組み20年に開発した企業版ふるさと納税の相談プラットフォーム「river(リバー)」。地域課題の解決に取り組む自治体と、SDGs(持続可能な開発目標)の一環として自治体を応援したい企業のマッチングを、企業版ふるさと納税という制度を活用して円滑に支援する。中央のIT企業ではなく、地方から全国に通用するプラットフォームを提案して高く評価された。

住宅街にあるエッグの社屋。初めて訪れる人にはわかりづらい場所にあるが、タクシーの運転手に「エッグまで」と伝えると、ほとんどの人がその場所を知っていた

寄付額の税額控除が最大9割に。20年度法改正が追い風

企業版ふるさと納税は、国の認定を受けた自治体の地方創生事業に対して寄付を行うと、法人住民税や法人事業税などが控除される制度。16年度に始まった。税負担の軽減は、寄付額の最大9割。ただし、個人で行う「ふるさと納税」と違って、自治体から企業への経済的な利益の供与は禁止されており、返礼品もない。

申請手続きが煩雑だったり、PRが不足していたりしたことなどもあり、自治体の認定数は伸び悩んでいたが、制度改正が行われ、20年度から自治体の作成する地域再生計画に記載する内容が簡素化され、寄付額の税額控除もそれまでの約6割から最大9割まで拡大された。それによって認定を受ける自治体や企業からの寄付額も増え始めている。

「20年度の制度改正で、企業版ふるさと納税にも追い風が吹き始めています」と新田英明社長(47)は話す。地域課題の解決のために十分な財源を確保したい自治体と、法人税の軽減効果に加え、社会貢献としてもアピールできる企業の思いが一致してきたからだ。

社員と業務について話す新田社長(左)。社員との距離が近いのもエッグの特徴。

地域に精通したコーディネーター。きめ細かな調整に力を発揮

もっとも、制度が円滑に運用されるためには寄付を受けたい自治体と、協力したい企業のマッチングが大切になってくる。エッグはこれまでにも個人版のふるさと納税の管理システムを開発して、全国の3分の1を超す自治体に採用されている実績があり、そのノウハウを「企業版」にも活用する。

それが企業版ふるさと納税を活用して、自治体と企業を結びつける地域課題解決プラットフォーム「river」で、横浜市内でコンサルティング事業などを手がける企業と共同で開発し、20年4月から運用を始めた。「『river』という名称に、地域に必要な栄養を運んで循環させていきたいという思いを込めました」と新田社長。企業版ふるさと納税の活用を目指す自治体と企業に対して、自治体の計画書の策定やパートナー探しを支援する。

もっとも、自治体と寄付企業のマッチングをデジタルネットワーク上だけで完結させるのではなく、地域の事情を知り抜いたコーディネーターを配置し、自治体と企業の関係をきめ細やかに調整するのが「river」の特長だ。デジタル一辺倒ではなく、アナログな手法も用いながら、両者にとって最適な解決策を見出していく。

自治体が抱える課題に即応。最適な企業探しで活性化を応援

エッグでは、企業版ふるさと納税を十分に活用するために、四つのステークホルダーを挙げる。まず、自治体。地域の課題を解決する主体で、国への再生計画提出なども行う。もう一つが寄付企業。こちらは金銭的・人的に地域を支援する。国のテレワーク推進の流れなどもあり、地域貢献への関心は年々高まっているという。そして、地域課題を解決できるサービスやソリューションを備えたサービス企業。自治体と企業を結びつける役割を果たす。さらに、課題の抽出や取り組みを具体的に進めていくコーディネーターが全体の調整役となり、ステークホルダー同士の関係を円滑に保ち、課題解決のための推進力となる。

企業版ふるさと納税を活用するための4つのステークホルダー

「自治体によって抱えている課題はまったく異なるので、それらに臨機応変に対応できるコーディネーターがriverには必要不可欠なのです。コーディネーターの吸い上げてきた自治体の課題に対応すべく、プラットフォームのシステムを改修したり、最適な寄付企業を見つけ出して両者をつないだり、プラットフォームの要がコーディネーターなのです」と新田社長は話す。

こうした事例の蓄積は他の自治体でも応用が可能で、プラットフォームを発表してから、鳥取や山陰地方といった枠にとらわれず、全国の自治体から問い合わせが相次いでいるという。「米子という場所から発信していることに意義を感じています」と新田社長も話す。行政の課題となっているDX推進に加え、地域に根ざして活動してきたエッグという企業のDNAがいい意味で、「river」というプラットフォームに融合され、これからの地域の活性化に一役買いそうだ。

社屋近くの米子城址からは米子市内を一望できる

【企業情報】

▽公式サイトhttps://egg.co.jp/▽所在地=鳥取県米子市西福原4丁目11-31▽代表者=代表取締役社長 新田英明▽売上高=10億円▽設立=1949(昭和24年)年3月

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