地域で輝く企業

独自開発のカーボンネジを始め、3万アイテムを取り扱う精密機械部品メーカー

タカイコーポレーション 岐阜県美濃市

タカイコーポレーションが開発した、カーボンの特質を生かした炭素繊維強化プラスチックボルト「ボルタス」。

他社に先駆け、多品種少量生産体制を確立

 中小企業の研究開発などを国が支援するサポイン(戦略的基盤技術高度化支援事業)を活用して、炭素繊維強化プラスチックボルト(CVB)を開発。半導体製造装置メーカーに採用され、事業化に成功した。高強度で軽く、さびることもないのが、炭素繊維(カーボン)の特長。カーボンを使ったネジはこれまでもあったが、削り出しか射出による成形で、繊維が短くなるため、強度が十分ではなかった。タカイコーポレーションは名古屋工業大学と共同で、繊維が長いままネジに成形する技術を開発した。今後、半導体製造装置だけでなく、自動車や飛行機、ロケット、医療機器などへの活用も期待されている。

 1953年創業。当初はミシン用のネジを製造していたが、2代目社長が岐阜県内でもいち早くNC旋盤を導入。用途が限られた精密部品などを高い技術力で作る多品種少量生産体制を確立し、特殊ネジを中心に3万アイテムを取り扱う精密機械部品メーカーとして発展した。自動車メーカーで車体を作るプレス金型内で使用される部品や、スマートフォンで使われる半導体製造用などの特殊ネジで高いシェアを誇っており、幅広い分野でタカイコーポレーションの製品が使われている。

プレス金型用のネジでは国産約8割のシェア

 「主力製品は、スプリングを内蔵したプランジャと呼ばれる製品で、国内トップのシェアです。先代社長がドイツの製品を見て、ウチでも作れると手掛けたのが始まり。アジアでは低コストのプランジャも出てきましたが、精度の高さでは負けません。プレス金型用のネジでは国産の約8割が当社製品。直径2ミリのプランジャなど当社でしか作っていない製品もあります」と岩田誠社長は胸を張る。

 2007年にはIBMのコンピューターを導入し、2009年に受注、生産工程、販売管理などを行うシステムを確立した。さらにこれを発展させて多数の協力会社と情報を共有し、製造の進捗状況がひと目で分かるクラウド型の購買・工程管理システムを構築。2011年、経済産業省の「中小企業IT経営力大賞2011」を受賞した。

「コロナ禍で地域のお祭りなどが行えなくなっていましたが、5月にはサプライズ花火を実施し、近隣の方やお子様たちに喜んでいただきました」と語る岩田誠社長。

「ウチはネジ屋だし、カーボンでネジを作ってみよう」と開発着手

 CVB(炭素繊維強化プラスチックボルト)の開発は、カーボンを使った競技用自転車の製造がきっかけだった。

 「日本各地を転戦する自転車レースの『ツアー・オブ・ジャパン』のコースの一つとして美濃が採用されました。競技用の自転車はとても高価で1台200万円くらいします。そこで、もっと安いものが作れるのでは、と会長が言い出しました」とボルタス事業部部長の土田健司さんは語る。

 自転車の製造過程でカーボンを利用する技術が培われ、「ウチはネジ屋だし、カーボンでネジを作ってみよう」(土田さん)と、カーボン製ネジの製造開発に取りかかった。製品名の「ボルタス」は「Bolt+」と表記する。「ボルトの新しい可能性を広げる」との意味を込めた。2015年から名古屋工業大学と共同開発に取りかかり、サポインに採用された。2016年から材料となる樹脂を樹脂メーカーと共同開発。2019年に、炭素繊維と樹脂を適切な割合で混ぜる装置が完成し、2020年11月に新しいネジが半導体製造装置に採用されることが決まった。

 「炭素繊維は長いほど強度が高くなります。これまでの削り出しや射出成形といった製法では繊維が短くなってしまい、炭素繊維の特長である強度を出すことができませんでした。私たちが開発した新しい技術により、長い繊維のままネジに成形することができるようになりました」と土田さん。プラスチック同様の軽さで、鉄に近い強度があり、さびにくく、薬品にも強い。「硫酸50%溶液などに漬けても、ほとんど溶解しません」という。

試験管に入れた硫酸50%液に漬けた、各種ボルトの「耐薬品性」実験の結果を説明する土田健司さん。

電気自動車への応用などビジネスチャンスとして期待

 今のところビジネスとして成立しているのは、半導体製造装置向けだが、「今後、いろんな用途に使われることが期待できます。今は医療用として人体の脊椎に入れるネジを開発中です。これまで使われているのは硬いチタン製がほとんど。でも人体にはしなやかなカーボンの方が、相性が良いのです。ヨーロッパ製もありますが、アジア人に合うような製品を慈恵医大と一緒に研究しています。今年中には動物を使った実験に入る予定です」と土田さんは語る。

 「カーボンは軽くて丈夫な上、鉄と同じように電気を通す性質もあります。今、大きく生産が伸びている電気自動車などへの応用も見込まれます」と岩田社長もこの新製品を新たなビジネスチャンスにしようと、大きく期待している。また、この製造技術はカーボン以外への応用も可能で、土田さんは「電気を通さない絶縁ボルトを作ることができますし、ゆくゆくは土に返るような素材にもチャレンジしてみたい」と話している。

昨年8月に完成した、ボルタス向けの新工場。

【企業情報】

▽所在地=岐阜県美濃市棚洞3189番地1▽代表者=代表取締役社長 岩田誠▽売上高=37億円▽設立=1953(昭和28)年1月