アロマセラピーは認知症を治せるのか?
~RIETIレポート~
認知症施策推進大綱に基づき、日本認知症官民協議会等での議論等を通じ、政府全体で、認知症に関する商品・サービス開発に関する取り組みが行われている。このたび経済産業研究所(RIETI)と慶應義塾大学の共同研究として、アロマセラピーの認知機能改善への効果について医科学的に信頼性の高い方法論であるランダム化比較試験(RCT)によって検証を行った。
高齢者の注意機能の改善に効果あり
多くの認知症患者は記憶より先に嗅覚が衰えること、そして嗅覚への刺激は認知機能を改善する可能性があることが知られている。このため、アロマセラピーを認知症の改善に役立てようという動きがある。しかし、アロマセラピーが認知症の改善に効果があるのかについての研究は世界的にもまだない。
東京歯科大学宗未来(そう・みらい)准教授らのチームは、健常な高齢者119名を、朝晩2時間ずつアロマシールを洋服に貼る60名(アロマセラピー群)と、アロマの代わりにエタノールを用いる59名(プラセボ群)に分け、12週間実験を行った。実験の結果、アロマセラピーが注意機能を改善させる効果が示されたが、記憶を含む他のほとんどの認知機能や、幸福度や睡眠といった心理的な評価ではアロマセラピーの効果は認められなかった。
認知機能の低下より深刻な注意機能の低下
認知症の問題は記憶力の低下だと思われがちだが、注意機能の低下は高齢者の危険運転や自立生活の破綻を招くものであり、記憶力の低下よりも深刻である。今回の実験により、アロマセラピーによる注意機能の改善効果が実証されたことの意義は大きい。一方で、他の大半の認知機能や心理的評価には明確な改善効果は示されなかったが、これは対象が健常高齢者であるため天井効果により伸びしろが少なかった可能性があり、今後のさらなる検証が望まれる。
【独立行政法人経済産業研究所(RIETI)】
RIETIは、理論的・実証的な研究とともに政策現場とのシナジー効果を発揮して、エビデンスに基づく政策提言を行うことをミッションとした政策シンクタンク。
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【関連情報】
アロマセラピーは、健常高齢者の認知機能改善に効果があるか?―ランダム化比較試験による検証―