人手不足とはいうものの
業種で異なる求人意欲とアウトプットの関係
リーマンショック前と最近とを比較して、業種毎のアウトプットレベルと求人意欲の関係を検証し、40業種を4つのグループに分類した。4つのグループとは、①アウトプットレベルと求人意欲が共に上昇、②アウトプットレベルと求人意欲が共に下落、③アウトプットレベルに対して求人意欲が高い、④アウトプットレベルに対して求人意欲が低い、となっている。
※ミニ経済分析「いわゆる人手不足業種の背後にあるものは何か?;求人意欲と、アウトプットレベル、労働生産性の関係」
リーマンショック前と比較してみると
グループ分けをするにあたっては、求人意欲とアウトプットレベルの関係を長期的な視点から見るために、リーマンショック前にあたる2003~2004年の平均値に比べて、最近の2015~2016年の平均値が上昇しているか、下落しているか横ばいかで整理した(下グラフ参照)。
人手不足の指標としては、有効求人倍率(厚生労働省「一般職業紹介状況」)がしばしば用いられるが、業種別の動向はわからない。そこで、業種別のデータが入手できる求人数(同調査)を、雇用者数(総務省「労働力調査」)で割ったものを求人率(=求人意欲)として、その推移を確認した。この求人率は、時点毎に基準化されていることから、求人のボリュームではなく、求人意欲の強さの推移を見ていることになる。また、業種間で水準の高低を比較することは、求人意欲の強さを比較していることになる。
また、アウトプットレベルの指標としては、経済解析室が作成する、鉱工業生産指数、第3次産業活動指数、全産業活動指数ら、各産業の生産に関する活動指数データを用いた。
この結果、いわゆる「人手不足」と言われる業種のうち、「介護事業」や「飲食店・飲食サービス業」は、①の、アウトプットレベルと求人意欲が共に上昇しているグループに属していた。一般に考えられるような、生産活動が増えているから求人意欲が高まっている、という関係が読み取れる。
他方で、「建設業」のアウトプットレベルは、実はリーマンショック前と比べて下落しており、③の、アウトプットレベルに対して求人意欲が高いグループに属していた。建設業では、過去に雇用減が進んでおり、近年求人率を高めているのは、それにも限界が来たからかもしれない。また、「運輸業・郵便業」は、④の、アウトプットレベルに対して求人意欲が低いグループに属していた。これが可能であった背景には、生産活動の効率化、現有人員の高稼働、労働から資本への乗り換え等が考えられる。このように、4つのグループ分けは、業種毎の人手不足の背景が異なることを示唆している(詳細はミニ経済分析「いわゆる人手不足業種の背後にあるものは何か?;求人意欲と、アウトプットレベル、労働生産性の関係」)。
求人意欲の高い業種の雇用者数の構成比が高い
リーマンショック前と比較して、①アウトプットレベルと求人意欲が共に上昇、または、③アウトプットレベルに対して求人意欲が高い、のグループに属する業種は、雇用者全体から見てどのぐらいの割合を占めるのだろう。
下の円グラフは、2016年度の雇用者数(5764万人)を100%とした場合、①にあたる業種を赤、③にあたる業種をオレンジに色分けしたものだ。同様に、②アウトプットレベルと求人意欲が共に下落、にあたる業種を青、④アウトプットレベルに対して求人意欲が低い、にあたる業種を緑に色分けした(グレーは分析対象外の業種)。
一見して、求人意欲の高い①の赤や③のオレンジの割合が高いことがわかる。これらの雇用者数は、全体の58%を占めている。逆に、求人意欲が低い②の青と④の緑の業種が占める割合は、22%だった(残りの20%がグレー)。
求人意欲が高いグループに属する業種の雇用者数が、そうでない人数を約35%も上回っていることは、昨今、人手不足がクローズアップされることをデータから裏付けていると言えるだろう。
関連情報
求人意欲、アウトプットレベルの変化に基づく4つの場合分け;求人意欲の「高い」業種の雇用者数の構成比がやはり高い。