統計は語る

伸びる現地法人の研究開発費、アジア市場の開拓へ

 様々な分野においてグローバル化が進む中、日本企業は研究開発のグローバル化を進展させてきた。その中で、日本にとって最大の市場であるアジアではどのように変化しているだろうか。

 今回は、アジアに注目して日系海外現地法人の成長性指標である研究開発費の動向をみていく。

北米とはまだまだ差が大きい在アジア現地法人の売上高研究開発費比率

 海外現地法人の売上高研究開発費比率(研究開発費を売上高で除した比率で、1単位の売上高に対してどれだけの研究開発費が投資されたかの比率。) の推移をみると、全体では2012年度をピークに低下した後、2015年度以降上昇傾向がみられる。地域別では、北米と欧州が高い水準にあり、年によって変動があるものの、2018年度以降上昇傾向にある。

 他方、アジアでは横ばい状態が続き、北米・欧州と同様に2018年度以降上昇傾向がみられるものの、その水準にはまだ遠いことがみてとれる。

 海外現地法人の機能には販売、生産、研究開発から地域統括、物流まで様々な役割が考えられる中で、北米・欧州の現地法人とアジアの現地法人とでは研究開発機能に違いがあることが影響していると考えられる。

中国が堅調、欧州との差を縮めている

 これまで生産が主力で、研究開発に力を入れられていないと思われたアジアの中において、足下では活発化してきた売上高研究開発費比率の動きを地域別にみていくと、中国が2020年度までの10年間で0.27%ポイント上昇(アジア全体では0.14%ポイント上昇)しており、堅調な推移がみられる。2013年度にNIEs3(シンガポール、台湾、韓国、以下同じ)を逆転し、2015年度頃から全地域の水準と同程度に、そして2019年度以降は0.4%を超え欧州の水準に近づいていることがうかがえる。

 ASEAN4(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、以下同じ)は低い水準で横ばい状態が続いていたが、2018年度以降上昇傾向にある。

 また、1社当たりの研究開発費を比較すると、北米・欧州との差は大きいものの、中国は増加傾向にあり、2020年度約3億円/社と2010年度対比で2.6倍に拡大した。ASEAN4も増加傾向にあり、2010年度対比で2.0倍と同様に拡大している。

 一方で、NIEs3は、高い水準で推移していたが2017年度に中国を下回り、2020年度はASEAN4を下回った。

 このように、中国をはじめとした在アジア現地法人の研究開発費支出の増加は、新興国を中心とした急激なビジネス環境の変化に対応し、市場を獲得していくため、企業の研究開発体制のグローバルでの最適化を考える上で、アジアの存在感が増してきたことが一因と考えられる。

 アジアの伸びは中国の輸送機械工業がけん引、非製造業も存在感増す

 次に、研究開発費の業種別構成比を2010年度と2020年度で比較してみる。最も勢いがみられる中国では、製造業では輸送機械工業が29.0%から43.9%と拡大しており、これが中国及びアジア全体の研究開発費の増加をけん引している。非製造業では卸売業が1.9%から16.8%へと増加した。

ASEAN4では、電気機械工業や情報通信機械工業の割合が低下し、非製造業の割合が大幅に増加した。一方で、NIEs3においては、非製造業は小幅な増加に留まっており、製造業では化学工業・輸送機械工業の割合が拡大した。

 2010年度からの10年間を振り返ってみると、勢いがみられる中国、近年増加傾向のASEAN4と、在アジア現地法人の研究開発費支出は着実に拡大してきている。

 (独)日本貿易振興機構のアンケート調査(2019年度~2021年度)では、研究開発機能の拡大先としてアジアからは中国の他、ベトナム、タイが上位3カ国のうちに挙げられるといった調査結果もある。アジアが生産工場から最終消費地へとシフトしていく中で、市場獲得のため、現地市場向け仕様変更のみならず、新商品開発も含め研究開発投資を重視する方向がうかがえる。

 海外現地法人の持つ機能がどのように変化していくのか、そして日本企業のグローバルな研究開発体制の構築がどのように進んでいくのかに注目だ。

※ 本記事は、経済産業省調査統計G経済解析室が作成した統計分析記事を一部修正して転載したものです。記事中のデータの取り扱い等については、出典元の記事の注意事項等をご参照ください

出典元 【ひと言解説】

伸びる現地法人の研究開発費、アジア市場の開拓へ