統計は語る

強気が続く企業の生産マインド、一方で予測修正率に陰りも

アニマルスピリッツ指標は11か月連続のプラス

 経済産業省では、毎月初旬に、主要製品の生産計画を調べている。調査対象製品を製造する企業のうち、主要企業を対象に、その月と翌月の生産計画を調査している。今回は6月初旬に調査した6月と7月の生産計画の状況と、6月初旬段階での企業のマインド、つまり生産計画や見込みが強気だったのか、弱気だったのかを紹介する。

6月の生産計画とその補正値

 6月の生産計画は、季節調整済指数で前月比9.1%で上昇の見込み。この計画どおりに生産された場合、6月の鉱工業生産の実績は、2か月ぶりの前月比上昇となる。

 また、7月の生産計画は、この6月の計画からマイナス1.4%と低下が見込まれている。

図表01

 生産計画は、生産実績よりも上振れする傾向がある。そこで、6月の生産計画について、生産実績との間で生じるであろう「ずれ」を統計的に計算、補正することで、6月の生産実績の見通しを推計した。

 その結果、6月の生産実績の見通しは、前月比5.4%程度の上昇と推計され、5月の低下分(前月比マイナス6.5%)を取り戻すまではいかないものの、大幅な回復が見込まれる。

図表02

生産計画の伸びを当てはめた鉱工業生産のグラフ

 生産計画の伸びを7月までの鉱工業生産指数に当てはめてグラフ化すると下のようになる。

 5月の鉱工業生産指数実績(確報)は93.5であるため、調査結果の伸び率9.1%をそのまま当てはめれば、6月の指数水準は102.0に上昇する見込みだ。

 ただし、生産計画と生産実績の間には傾向的なバイアスがあるため、このバイアスを過去の傾向に基づき補正すると、6月の伸び率は最頻値では5.4%程度の上昇となり、この場合、6月の指数水準は98.5となる。

 なお、7月の生産計画は、前月比マイナス1.4%と低下の見込みであり、仮に6月の生産が計画どおり(前月比9.1%の上昇)であったとすると、7月の指数水準は100.6で、6月以降は、コロナ前(2020年1月)の水準99.1を大きく超えることになる。

図表03

生産計画の強気と弱気

 生産計画を、前年同月の実績と比較すると、この生産計画がどの程度、強気なのか弱気なのかを判断する一つの目安となる。ただし、前年の実績が例年よりも大幅に増加又は減少している場合には、その点を考慮して判断する必要がある。

 今回、6月の生産計画を原指数で見ると、前年同月実績比31.3%の上昇となり、7か月連続で前年同月実績を上回った。

 ただし、前年2020年の6月生産実績は、感染症拡大の影響により、前年同月比でマイナス20.7%と大きく低下していることから、生産が大幅に減少した2020年と今回の数値を単純に比較して判断するには注意が必要だ。

 感染症拡大の影響を受けていない前々年2019年6月の生産実績と比較すると、今回6月の生産計画は4.1%の上昇となり、例年と比べても、高い水準にあることが分かる。

 企業の生産計画は、例年の水準と比べても強気であり、感染症拡大による影響からは回復しつつある状況がうかがえる。

図表04

 次に、1か月前時点で調べた生産計画が、生産開始直前に調べた生産計画と比べ、どの程度変動したかを示す数値が予測修正率となる。

 6月の予測修正率はマイナス0.8%と、3か月連続の下方修正となっている。2020年7月以降、生産計画は上方修正される傾向が続いていたが、2021年に入ってからは、下方修正される月が目立ち始めている。

 企業の生産マインドは、先ほどの生産計画からは強気の姿勢が伺えるものの、予測修正率の状況からは、強気の傾向に少し陰りがみられると考えられる。

図表05

 生産計画を上方修正した企業数の割合から、下方修正した企業数の割合を引いた数値を「アニマルスピリッツ指標」と呼んでいる。この指標は、企業の生産計画の強気、弱気の度合いを推し量るために活用している。

 この指標の推移とこれまでの景気循環を重ねると、概ねマイナス5を下回ると景気後退局面入りしている可能性が高いという傾向がみられている。

 生産計画の6月調査結果では、アニマルスピリッツ指標は5.3と11か月連続でプラスの数値となった。月々の上下動をならしたトレンドでも大きくプラスの数値で推移しており、生産マインドには依然強気が優勢な様子がみられる。他方で、指標自体はプラスの値を維持しているものの、3か月連続で前月比低下となっており、強気優勢に少し陰りがみられる。

図表06

 6月調査では、強気の割合が0.1ポイント上昇、弱気の割合が1.9ポイント上昇と、強気・弱気ともに上昇した。弱気の増加幅の方が大きかったため、アニマルスピリッツ指標は前月から低下となったが、依然として、強気が弱気を上回っている。

 昨年6月以降、国内外での経済活動の回復が進んできたことにより、企業の生産マインドの改善も進み、引き続き、企業の生産マインドは強気が優勢な結果となっているが、アニマルスピリッツは低下傾向にあり、ここでも、強気優勢に少し陰りがみられるようだ。

図表07

 6月の調査結果では、アニマルスピリッツ指標がプラスとなっており、企業の生産マインドは強気が優勢な状況が続いているとみられるが、予測修正率やアニマルスピリッツ指標の推移をみると、強気優勢に少し陰りがみられる。

 感染症の動向が内外経済に与える影響や半導体不足による影響などサプライチェーンの状況が企業のマインドに影響を及ぼしている可能性もあり、7月以降の調査でも注意深くみていきたい。

 
【関連情報】

結果概要のページ

予測指数解説集

マンガ「ビジネス環境分析にも使える!鉱工業指数(IIP)」