60秒早わかり解説

日本が目指すフードテック カギは「温故知新」にあり

世界一のヴィーガンレストラン「菜道」にみる可能性

精進料理を現代風にアレンジしたメニューで人気を集める「菜道」が提供する「野菜でできたカツ丼」(写真提供=フードダイバーシティ)

 食をめぐる課題をテクノロジーで解決する「フードテック」。世界ですでに2兆円を超える投資資金が流れ込む有望市場だけに、さらなるビジネス競争の激化が予想される。こうした中、日本はどこに競争優位性を見いだすことができるのか。独自の気候や風土を通じて育まれてきた食文化にあらためて目を向けることで広がる可能性がありそうだ。

古来の食文化に優位性あり

 「日本では『フードテック=代替肉』とのイメージが強く、欧米の後塵(こうじん)を拝している印象が色濃いかもしれませんが、これは大きな誤解です」。こう語るのは食に関するメディア運営やコンサルティングを手がけるフードダイバーシティ代表の守護彰浩さん。日本の中にも「眠れるフードテックがある」が持論だ。
 フードテックが世界的に注目される背景には、人口増加に伴う食料危機や畜産などの生産過程での与える環境負荷、人々の健康志向の高まりといったさまざまな理由があるが、動物性のたんぱく質よりも、豆や野菜を積極的に摂取してきた日本の食文化はこれら現代的な課題解決につながる可能性を秘める。
 例えば「がんもどき」や「精進うなぎ」のように植物性食材を活用しつつも、本物さながらの味覚の再現を目指す発想は、目下、世界中で繰り広げられる動物性たんぱく質の代替素材の開発競争に通じるものがある。

乾物がもたらす可能性

 こうした発想を体現するのが東京・自由が丘にあるレストラン「菜道(さいどう)」だ。乾物を中心とする精進料理のノウハウを、ラーメンやとんかつ、焼き鳥といった現代人の日常的なメニューにアレンジ。その斬新な発想は、宗教的な理由から独自の食文化を貫く人やヴィーガン(完全菜食主義者)といった極めて健康志向の高い一部の層にとどまらず、広く支持を集めている。
 肉や魚を使わないメニューを普及させる上での難しさのひとつに「うまみ」や「食感」の再現があるが、同店の楠本勝三シェフが着目するのは乾物野菜。確かに戻し方次第でさまざまな食感を生み出すことができ、戻し汁はうまみとして無駄なく使える。もとより、乾物野菜は長期にわたる保存を可能にする先人の知恵。フードロスにつながるサステナブルな素材である。

フードダイバーシティの守護さんが考える日本の優位性

新たな市場生み出したい

 新たな食体験の中にビジネスチャンスを見いだし、成長産業として育成しようと集結した経済産業省の若手有志による「フードテックチーム」。今後の施策のターゲットに据えるのは、新たな食材開発や調理技術、サプライチェーンの構築など多岐にわたるが、戦略のひとつに掲げるのが「日本らしいフードテック」。それぞれの気候や風土に合わせて食材を有効活用するため先人によって編み出された知恵や調理法は各地に眠る。「これらを発掘し、現代風にアレンジするだけで、世界が直面する食の課題解決につながる新たな市場を生み出すことができると考えています」。同チームの井戸萌愛さんはこう語る。
 それは同時に、日本人のメンタリティー、ひいては日本そのものを広く世界に発信することにつながる。