統計は語る

「鬼滅の刃」効果で「映画館指数」は急上昇

ヒット作品の本数が活況のカギ


 2020年10月に公開された、映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」(以下、「鬼滅の刃」)の空前の大ヒットは、記憶に新しいところである。
 以前、ひと言解説「映画離れは本当か?映画、テレビ、インターネット、利用動向に年代差あり」の中で、特に若い世代で映画鑑賞の時間が減少しているということを紹介したが、若い世代にも人気の高い「鬼滅の刃」の記録的なヒットは、新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた映画業界にとっても明るいニュースだったと思う。
 今回は、映画のヒット作品が、映画館の活況度にどのような影響を与えるかをみていきたい。

コロナ禍で大打撃も

 「鬼滅の刃」は、これまで歴代1位の座を守り続けてきた映画「千と千尋の神隠し」(2001年公開)を抜き、歴代1位の興行収入を上げた。
 映画館の活況度は、経済産業省で作成している第3次産業活動指数から、主要映画館の入場者数に基づき作成される「映画館指数」をみることで把握できる。2020年は感染症拡大により、映画館指数は2015年を100とする指数で5月には1.3と、過去に類を見ない程度まで低迷した。その後、緊急事態宣言の解除や入場者数の制限緩和などもあり、回復に向かう中、10月16日に「鬼滅の刃」が公開されたことで、大きく上昇した。
 一方、映画館指数を経年変化で見ると、2011年に大きく低下をした後、回復傾向をみせつつも、2018年に再度、大きく低下した。しかし、2019年は前年の低下幅を上回る上昇となった。ただ、2010年以前の水準にはいまだ回復していない。
 2020年は「鬼滅の刃」効果があったとはいえ、通年では大きく低下したと考えられ、2021年は状況の改善を期待したい。

近年、公開本数は大きく増加

 日本の映画館産業の動向を、映画館で上映された映画の公開本数から見ると、2010年の公開本数716本に対し、2019年が1,278本、感染症拡大の影響で公開本数が減少した2020年でも1,017本と、10年間で1.4倍以上に増加している。
 また、公開本数が増加したことにより、興行収入総額は、2010年2,200億円から2019年2,600億円まで増加している。ただし、2020年は、感染症拡大の影響により1,400億円と落ち込んだ。
 映画1本当たりの興行収入に換算すると、2010年3.1億円/本に対し、2019年2.0億円/本、2020年は1.4億円/本と、映画1本当たりの収益力は減少している。

 映画公開本数と映画1本当たりの興行収入に相関がみられることから、回帰分析(※)を行い、映画公開本数と、興行収入総額の関係を試算してみたところ、以下のような回帰式が得られることから、興行収入総額は、公開本数1,000~1,200本辺りでピークを迎えるという結果になった。2019年の映画公開本数は1,278本であることから、現在、公開本数の単純な増加だけでは、興行収入総額を増やすことには限界がある可能性がある。
 (※)2000年~2019年のデータで回帰分析を実施(2020年は感染症の影響で興行収入が大きく減少したため、外れ値として除外)

 y:映画1本当たりの興行収入、x:映画の年間公開本数
 回帰式 y=-0.2335x+464.14、 決定係数:0.822

公開本数と興行収入の相関

 映画のヒット作品(興行収入が多い作品)が、国内全体の興行収入総額にどのように影響しているかを見るため、興行収入規模別での作品の公開本数と、国内全体の興行収入総額がどの程度相関しているかを分析した。
 その結果、興行収入40億円以上の作品は、国内全体の興行収入総額との高い相関がみられ、このことから、一定水準以上のヒット作品は、国内全体の興行収入総額の底上げにつながると考えられる。

 2010年以降公開の作品で、日本の歴代興行収入上位100位に入る作品(おおよそ興行収入70億円以上の作品がランクイン)は38作品あり、平均すると、1年で3.5本が入っていることになる。
 映画館指数と、歴代興行収入上位100位に入った作品数を比較すると、例外はあるものの、上位100位に入った作品数が多かった年は、映画館指数も高い傾向にある。ここ10年で映画館指数が高かった2010年、2019年のヒット作品をみてみると、下表のようになり、ともにヒット作品に恵まれた年だった。
 また、2010年以降、歴代上位10位に入った作品は、「鬼滅の刃」(1位)を含め3作品あり、2014年公開の「アナと雪の女王」(4位)、2016年公開の「君の名は。」(5位)がある。2014年、2016年は、前年よりも映画館指数が高くなっており、記録的なヒット作品は、映画館に足を運ぶ観客も増やす効果があるようだ。

 「鬼滅の刃」の記録的ヒットは映画産業だけでなく、コラボ商品など幅広い経済波及効果があったとの指摘もある。2020年は、感染症拡大の影響もあり、映画館は大変な苦境に陥り、またヒット作品の本数にも恵まれなかったが、今後、感染状況が改善していくとともに、「鬼滅の刃」に続くヒット作品が生み出されていくことで、映画館や周辺産業の活性化を期待したい。