統計は語る

2019年の鉱工業生産を振り返る

半導体メモリや自動車部品 低下に影響


 1月31日に鉱工業生産指数の12月分速報値が公表されたが、あわせて2019年暦年の原指数も公表している。2019年は海外経済の減速等を背景に、2017・2018年と好調だった輸出が一転、弱さが続き、国内生産・出荷にも影響が出たこともあり、鉱工業生産(総合)は前年比マイナス2.9%と4年ぶりの低下となった。
 業種別でみると、「輸送機械工業(自動車工業を除く)」を除いたすべての業種で低下しており、なかでも「生産用機械工業」、「電子部品・デバイス工業」、「汎用・業務用機械工業」などの低下が大きく影響したようだ。
 さらに細かく品目別でみてみると、鉱工業指数に採用されている代表品目のうち、どのような品目が鉱工業生産のこの一年の動きに影響したのだろうか。12月速報値ベースではあるものの、今回は2019年の鉱工業生産の変動に対する各品目の寄与度を計算し、その順位を確認してみる。

低下に影響した上位10品目

 2019年の鉱工業生産の前年比2.9%の低下に寄与した品目の第1位は「モス型半導体集積回路(メモリ)」(DRAM、フラッシュメモリなどを始めとした記憶回路)だった。
 2018年はデータセンタ関連での積極的な投資による需要拡大などもあり前年比34.5%と大幅に上昇し、鉱工業生産の上昇寄与品目の第1位となった「モス型半導体集積回路(メモリ)」だが、2019年はそれらの投資の一服もあっての減少だろうか。主に国内向けの低下により前年比マイナス16.3%で低下寄与第1位となった。ただ、2019年前半に大きく指数水準を下げたものの最近は持ち直しの動きも見られ、12月の前年同月比はわずかではあるがプラスに転じている。

 第2位は「駆動伝導・操縦装置部品」(自動車部品のうち、駆動伝導に係るクラッチ装置や自動変速装置など、操縦に係るかじ取りハンドルやステアリング装置など)だった。
 世界の自動車生産で使用されている「駆動伝導・操縦装置部品」だが、世界的な自動車販売の低迷を反映しているのだろうか。国内向けは好調だったようだが、中国、米国向け等の輸出向けの低下が大きく影響した。
 第3位は「マシニングセンタ」(数値制御式であって、工具の自動交換装置を備え、穴あけ、中ぐり、フライス削り等の加工ができる複合工作機械)だった。
 輸出向け、国内向けとも低下となった。輸出向けは、特に中国向けが大幅に低下したようである。
 第4位は「産業用ロボット」(繰り返し作業を行うプレイバックロボットや、設定情報に従って動作の段階を進めるシーケンスロボットなど)だった。
 労働力人口の減少等を背景にここ数年は国内向け中心に上昇を続けてきた産業用ロボットだが、2019年は国内向け、輸出向けとも低下となった。輸出向けは、欧州、中国向け等が低下となった。
 第5位は「リチウムイオン蓄電池」(充電と放電の際に正極と負極の間をリチウムイオンが移動して電気エネルギーを発生させる蓄電池)だった。
 車載用の増加により上昇を続けてきたが、2019年は輸出向け、国内向けとも低下となった。輸出向けは、米国の自動車販売の低迷の影響か、米国向けの低下が目立つ。
 第6位は「フラットパネル・ディスプレイ製造装置」(テレビやスマートフォン等に搭載されるフラットパネル・ディスプレイを製造する装置)だった。
 主にスマートフォンなどに使用される「アクティブ型液晶パネル(中・小型)」が前年比マイナス15.6%(低下寄与第15位)だが、この生産低下の影響もあるのでだろうか、2019年の「フラットパネル・ディスプレイ製造装置」は主に国内向けが低下となったようだ。輸出向けも中国、韓国向けの低下が目立つ。
 第7位は「乳液・化粧水類」(化粧水、乳液、モイスチャークリーム、美容液)だった。
 インバウンド需要や輸出向けの好調もあり、ここ数年上昇を続けてきたが、そのインバウンド需要も一服感か、依然高水準とはいえ2019年は国内向けが低下となった。
 第8位は「半導体製造装置」(ウェハ単結晶の製造装置を始め、加工装置、あるいは、露光描画処理、エッチング処理、薄膜形成処理などを行うプロセス用処理装置、組立用装置など)だった。
 2018年はIoT機器の普及拡大、電子機器への半導体搭載率の上昇やデータセンタ向け投資などによる半導体市場の拡大が製造装置の上昇となり、2018年上昇寄与の第4位となったが、2019年は一転して低下寄与でのランクインとなった。国内向け、輸出向けとも低下したようだ。輸出向けは韓国向けが大幅な低下となった。
 なお3、4、6、8位はいずれも「生産用機械工業」の品目で、第3位の「マシニングセンタ」以外は国内向けが低下の主要因だった。このあたりが2019年の国内生産の弱さを物語っているかもしれない。
 第9位以降は、「空気圧機器」(国内向け、輸出向けとも低下)、「水管ボイラ」(国内向け低下)と続いた。
 以下は、2019年の鉱工業生産における主な低下寄与品目の推移である。2018年まで好調が続いた品目が、2019年は一転して低下に転じた様子がうかがえる。

2019年上昇方向に影響した上位10品目

 鉱工業生産全体では低下となったが、一方でこの一年、上昇方向に寄与した品目もある。こちらも見てみよう。
 上昇に寄与した品目の第1位は「ノート型パソコン」、そして第3位に「デスクトップ型パソコン」(サーバ用を含む)とパソコンが2品目ランクインしている。
 OSのサポート期限切れによる買い替え需要の影響も大きいのだろうか。どちらも国内向けの上昇から「ノート型パソコン」が前年比33.2%、「デスクトップ型パソコン」は前年比35.0%と大幅な上昇となった。

 第2位は「普通乗用車」(車の大きさ幅1.7m、高さ2m、長さ4.7mを越えるもの及びディーゼル車以外のものは気筒容量2000mlを越えるもの)だった。
 国内向けの好調等により前年比1.2%と6年連続の上昇となった。これで2018年、2019年と2年連続で上昇寄与第2位となった。
 第4位は「モス型半導体集積回路(CCD)」(電荷結合デバイス及び撮像デバイス。カメラや複写機、スキャナー等に用いられる)だった。
 スマートフォンに搭載されるレンズの数も多くなってきていることやセンサーサイズの大型化などの要因か、主に国内向けが大幅に上昇している。輸出向けは中国向けの大幅な上昇が目立つ。
 第5位は「航空機用機体部品」(機体を構成する部品・付属品やプロペラ・回転翼等)、第6位は「航空機用発動機部品」(ピストン、シリンダ、クランク軸、クランクケース、ファン、圧縮機、排気ノズル、燃焼器、タービン等発動機を構成する部品)だった。世界的な人口増加、経済成長に伴う移動の活発化、LCCの台頭などを背景に、世界的に長期的な需要拡大が期待される航空機産業から2品目がランクインしている。
 「航空機用機体部品」は輸出向けが主に米国向けに上昇、「航空機用発動機部品」は主に国内向けが上昇している。
 第7位以降は「合成洗剤」(主に国内向け上昇)、「ボイラ部品」(国内向け上昇)、「複写機」、「頭髪用化粧品」(シャンプー、ヘアリンス等。主に輸出向け上昇、中国向けが上昇)と続いた。
 以下は、2019年の鉱工業生産における主な上昇寄与品目の推移である。ここ数年の好調な産業や市況の変化などを感じさせる。

 2019年の鉱工業生産は、総合では前年比でマイナス3%近い低下となったが、業種や品目ごとの動向をみると、海外経済の減速や市況の変化などの影響もあったなか、低下した品目もあれば、一方では2018年より生産を伸ばした品目もあることがわかる。
 毎月公表している鉱工業指数では、鉱工業全体だけでなく、業種別、品目別にもその動きをみることができる。品目別などの数値はこちらからご覧いただくことができる。ぜひご活用いただきたい。

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