政策特集デジタルが拓くプラントの未来 vol.6

メンテナンスに新潮流 技術革新が促す「これからの保全」

プラントにもCBMの波

出光興産の徳山事業所(山口県周南市)。高度な保安を実施している「スーパー認定事業所」である

 デジタル技術の進展は、「保全」の発想そのものも大きく変えようとしている。センサーから収集したデータなどから設備の稼働状況を監視、分析し、異常の兆候を事前に発見できるようになれば、一定周期ごとに検査を行う従来手法に代わり、設備の状態に応じてより安全、かつ効率的で柔軟なメンテナンスが実現できるからだ。

開放検査12年超も可能に

 「最大で設備の余寿命に0.5を乗じた期間内とすることができる」。
 2019年11月末、経済産業省は高度な安全対策を施している「スーパー認定事業者」に対し、塔や貯槽といった設備を停止して実施する開放検査の周期を延長できる新たな措置を打ち出した。これら設備の検査周期は最大12年と定められているが、従来の検査記録による評価に加え、データを活用し、設備内部の劣化傾向を把握できれば12年を超えても安全性を担保できると判断した。

必要な時に必要な検査を

 設備の劣化傾向を連続的、もしくは定期的に監視把握しながらその寿命を予測し、次の整備時期を定める手法は、「Condition Based Maintenance(CBM=状態基準保全)」と呼ばれ、設備保有者にとっては、安定稼働している設備の不要な整備や部品交換など画一的に周期を定めて実施する手法を見直すことで保守コストの削減はもとより、定期検査伴う生産機会の損失も抑えることができる。すなわち設備の状態に応じて、必要な時に必要な検査を実施する効率的な予防保全の考え方なのである。

トータルコスト削減の切り札に

 CBMの発想そのものは、1970年代にさかのぼるとされるが、当時は故障診断に用いる機器やデータの分析精度が伴わず、また導入コストも大きかった。ところが今や、IoT機器の普及や精緻なセンシング技術、ビッグデータ解析技術がCBMの導入に拍車をかける。
 とりわけ老朽化が深刻な問題となる社会インフラ分野においては、中長期的な設備の維持管理や更新に伴うトータルコストを低減するうえで有望視されている。CBMを実施するための状態監視や予兆診断をサービスとして提供するビジネスも生まれている。
経済産業省産業保安グループ高圧ガス保安室の小林正幸室長補佐はこうした手法が石油や化学プラント分野に広がる意義をこう語る。
 「設備の老朽化や人材不足に直面する石油精製や化学業界にとってIoTやAI(人工知能)をはじめとする先進技術の活用は喫緊の課題ですが、他業界に比べて導入スピードが遅いのが実情です。定期検査に伴う生産機会の損失や保安コストの大幅削減にもつながるこうした措置は、新たな技術活用の大きなインセンティブになると考えています」。

保安グループ高圧ガス保安室の小林正幸室長補佐


 同時に、データの収集頻度や活用機会が増えればプラントの状態をより精緻に可視化できるだけでなく、これをAIで解析すれば異常予知につなげる効果も期待される。先進的な技術活用を促す制度設計としている背景には「予防保全」から「予知保全」への転換を促す狙いがある。
 民間の取り組みを促す一方で、国が対応すべきこともある。技術進展に歩調を合わせ、保安行政をいかにスピードアップするか、あるいは、技術進展のレベルやプラント事業者側のニーズを反映できる柔軟な制度設計は今後の焦点となる。
 「今回、CBMの発想を制度に導入するにあたっては、経産省と専門家集団である『高圧ガス保安協会』がタスクフォースを立ち上げ、迅速に対応しました。今後、先進技術の導入をさらに加速する上では、官民が連携しながら議論できる場を設けることが大切と考えています」(小林氏)。

 デジタル技術の実装を通じて、日本の産業競争力をいかに向上させるのかー。次回は保安や化学、石油産業政策を担う経産省幹部がその想いを語ります。