統計は語る

ペーパレス化の波も何のその 筆記具の国内生産が大幅上昇

高機能・高品質な日本製 海外でも人気

 皆さんは最近、筆記具を手にしているだろうか。パソコンやスマホなどの普及により、筆記具を手にとって文字を書く、絵を描くといった機会が減ってしまったという方は多いのではないだろうか。このようなデジタル化・ペーパーレス化の進展や人口減少など、筆記具メーカーを取り巻く環境は大変厳しいように思われるが、実際はどうだろう。
 今回は筆記具のうち、代表的なボールペン、マーカーペン、シャープペンシルの動向について確認してみる。

紙、印刷業とは対照的に

 鉱工業指数でもわが国製造業を代表する品目として採用されている、ボールペン、マーカーペン、シャープペンシルで構成された文具指数と、同じくデジタル化・ペーパーレス化の影響を受けているであろう「紙」、「印刷業」の生産指数の推移をみてみよう。

 紙、印刷業についてはさまざまな要因があるだろうが、やはりデジタル化・ペーパーレス化の影響を大きく受けての低下傾向が続いている。それとは対照的に、文具についてはリーマンショックの影響による景気後退のあおりを受けて大きく落ち込みをみせたものの、その後は順調に回復し、大きく上昇していることがわかる。海外需要の開拓や、高機能・高性能な商品の開発の進展による個人需要の喚起などが復調の要因にあげられる。比較的安い価格帯で楽しめ、満足感を得られることやコレクション需要もあるようだ。

販売数量回復のボールペン、マーカーペン

 では生産動態統計年報(繊維・生活用品統計編)と貿易統計(財務省)で筆記具の個々の動きをみてみよう。
 まず、オフィス、学校、家庭など様々な場面で活躍するボールペンだが、最盛期には及ばないものの、リーマンショック前の水準を上回っている。グラフをみると輸出も伸びているが、それ以上に販売数量の伸びも国内需要に貢献していると推測される。消せるペンの大ヒット・定番化、滑らかな書き味、速乾・耐水性に優れる、インク詰まりが少ないなど様々な高機能・高性能な製品が回復に貢献しているのだろうか。
 輸出はリーマンショック後は米国向け主導で回復してきたが、近年は中国向けなどが輸出増加に寄与している。アジアでは日本製ブランドに根強い人気があるようだ。

 次にマーキングペン(蛍光ペン、サインペンなど)は、2010年から8年連続増加を続け2017年は過去最高に迫った。グラフをみると主に外需主導による回復のようである。欧州・米国向けが輸出の4割程度を占めているが、近年増加しているのはやはり中国向けである。
 蛍光ペンでは速乾性に優れたもの、おだやかで優しい色合いのもの、消せるものなど、水性ペンでは鮮やかな発色などの製品があるそうだ。

 シャープペンシルは、数量ベースでは他に比べると回復の動きが弱いようである。ただ、芯の折れないなどの高機能な商品の影響で販売単価は年々上昇している。品質や機能で勝負!といったところだろうか。

 このようにリーマンショック後、国内生産は順調に回復し大きく上昇をみせてきた筆記具だが、2018年は残念ながら販売数量、輸出数量ともすべて減少となってしまった。ボールペンは国内需要、マーカーペンは輸出向け、特に中東向けが大幅に減少したようである。

東京五輪弾みにさらなる需要拡大も

 しかし2019年と2018年の1-9月期を比較してみると、ボールペン、マーキングペンの販売数量は増加している。シャープペンシルの販売数量は大幅に落ちてしまったものの販売単価は上昇しており、回復傾向にあるといえる。

 わが国の筆記具メーカーは、優れた開発力で個人需要を喚起、文具ブームを起こし、また海外にも受け入れられる魅力的なヒット商品を生み出し続けており、厳しい環境において健闘しているといえるのではないだろうか。消費増税引き上げの影響がどうなるか気になるところではあるが、来年はオリンピックを控えており、外国人観光客が日本の多彩な筆記具に触れる機会もあるだろう。それがさらに需要拡大につながるかもしれない。