「つながる社会」が対応迫る
標準化のキーマンが語る「ルールメークの最前線」【後編】
前編では、標準化をめぐる競争環境の変化を語り合った経済産業省基準認証政策課の松本満男国際戦略情報分析官と、産業技術総合研究所人間拡張研究センターの持丸正明研究センター長。ルールメークの新たな潮流をどうキャッチアップするかをテーマに、話はさらに広がっていく。
変わる競争優位性
【松本】 これまでの日本企業は、たとえ標準化戦略で敗北を喫しても、技術力や品質を武器に、これを挽回し、市場で一定のシェアを確保することが可能でしたが、近年、それが通用しなくなってきているー。持丸さんはこう指摘しておられますが、何が背景にあるとお考えですか。
【持丸】 製品に対する経済外部性、ネットワーク外部性が高まっている昨今のビジネス環境が大きいと考えています。携帯電話に例えると分かりやすいかと思いますが、製品そのものの性能以上に、多くの機器やサービスと「つながっている」ことが価値をもたらす時代には標準化を通じて、ひとたび市場を占有されると、これを取り戻すことが容易ではありません。だからこそ標準化の初期段階からこれを主導していないと、いかに製品の性能が優れていても、「ちゃぶ台返し」で勢力図を一変させることが困難なのです。
【松本】 加えて、すでに確立した経済圏の中でデータさえライバル企業が囲い込んでしまえば、将来の収益の源泉まで失うことになりかねない。だからこそ、ルールメークに積極的に関わる意義は大きい。全く同感です。懸念されるのは、こうしたルールメークの力学の変化を、果たして産業界の方々がどこまで認識しておられるかという点なのです。
時に発想の転換も
【持丸】 日本企業の方々は、標準化や品質管理に非常に真面目に取り組んでこられましたし、最新動向についてアンテナを張っておられる。しかし、松本さんと縷々お話してきたように、標準化が果たす役割が生産性や品質の向上から、新市場の創出に広がるなか、従来のように製造部門に直結する品質管理部門などが標準化戦略を担うだけでいいのかという問題意識があります。やはり新規事業開発や企画部門が関わるべきではないでしょうか。標準化は「仕様や互換性を定めるもの」という発想からの脱却、マインドセットの転換が進んでいないように感じます。
【松本】 標準化すると、他社も同じような製品を開発し、差別化につながらないとの印象が強いのかもしれませんが、必ずしもそうではありません。新技術や独自技術をいち早く標準化すれば、それが触媒となって、自ら市場を創り出し、主導できるわけです。その点、海外はビジネスチャンスがあれば、まずは標準化に取り組むといった印象が強いのですが、日本の場合は、練りに練って準備万端の状態で標準化を提案する印象が強い。ちょっともったいないですね。
異なる切り口で捉えると
【持丸】 僕も同じ印象を抱いています。特に国際標準を非常にハードルの高いものと捉えがちですが、アプローチは多々あります。例えば規格策定に向けたワークショップを開催し各国の反応を探ってみたり、標準仕様書のようなものを提示して、意見を参考にしながら規格案を固めていくことも一策です。国内や業界でがっちり固めてしまうと、異なる意見が出た時に軌道修正できない恐れがあります。守るべき骨格部分は明確にした上で、柔軟な交渉姿勢も求められるのではないでしょうか。抱え込んでしまう、あるいは早々に(標準化を)断念する前に、専門家に相談してほしいですね。
【松本】 そうですね。企業の研究開発を標準化戦略に結びつけるなら産総研が後押しできますし、規格開発手順などの課題であれば日本規格協会が支援することができます。
標準化はあくまでも目的を達成するツールですが、これまでと異なる切り口でこれを捉えることで、眼前に広がる世界が違ってくるのではと考えています。経済産業省としては、標準化がビジネスチャンスにつながった具体的な事例を積極的に発信することで、より多くの企業が経営戦略の一環として標準化を捉えるきっかけになればと考えています。