政策特集循環経済が社会を変える vol.2

中部大学の細田衛士教授「日本企業はもっと発信せよ」

サーキュラー・エコノミーの本質とは【前編】


 循環経済(サーキュラー・エコノミー)の構築に大きな一歩を踏み出したかにみえる欧州連合(EU)だが、日本が遅れをとっているわけではない。2000年には、循環型社会形成推進基本法を制定し、廃棄物の削減やリサイクル推進に一定の成果を上げてきた。これまで日本が進めてきた循環型社会の推進と、EU発の概念はどう異なるのか。さらにはこうした世界的な潮流の中で、日本がとるべき行動とはー。中部大学の細田衛士教授に聞いた。

経済と環境が「ウィンウィン」

 ー2015年に欧州委員会が発表したサーキュラー・エコノミーに関する政策パッケージをどう受け止めましたか。
 「率直に言って、またぞろ循環型社会かという部分と『おっ』と思わせる部分の両面がありました。この政策は、廃棄物問題からリサイクル、シェア経済まで幅広い概念を包含していますが、環境保全に資するだけでなく、経済の活性化につながる、すなわち『経済と環境を『ウィンウィン』の関係と位置づけている点では新鮮味を感じます」

 ー日本企業は優れた技術を持ち、しかも循環型社会の実現に地道に取り組んできたにも関わらず、欧州流のビジネス戦略に飲み込まれる懸念はありませんか。
 「大いにあります。だからこそ、自社の立場や方針を明確に発信することが必要だと感じます。とりわけ社会的にも大きな関心を集めるプラスチックごみをめぐる問題ではコカ・コーラやネスレ、ユニリーバといった欧米の大手企業は、環境負荷の低減策を自社のビジネス戦略の中に組み込んで、具体的な目標を宣言しています。ところが日本企業はこうした動きが鈍いと言わざるを得ません」

 ーご自身は、かねてより廃棄物などの静脈資源を有効活用するには、法体系を抜本的に変える必要があると主張してこられました。サーキュラー・エコノミーに対する関心の高まりを機に、リサイクルをめぐる課題に再び目が向けられる効果が期待されるのでは。
 「そうですね。資源から素材が生産され最終商品として使用されるまでの取引を『動脈連鎖』、一方で、生産活動や消費活動から排出される使用済み製品や素材、残渣物などを再資源化して動脈連鎖に再び投入することを『静脈連鎖』と称しますが、欧州では、制度的なフレームワークをうまく活用しながら動静脈をつなげる戦略が奏功していることを実感します。日本も廃棄物政策の延長ではなく、企業のビジネスモデル変革を後押しする発想で、効率的な動静脈連鎖の接合に取り組むべきです」

カギは「パートナーシップ」

 ー企業が取り組む上でカギとなるのは「パートナーシップ」とか。
 「静脈市場の構築はリサイクルを手がける事業者だけでは実現しません。例えばサントリーホールディングス(HD)は、プラスチックリサイクルを手がける協栄産業と共同で、使用済みペットボトルを原料に再びペットボトルを成型する技術を開発し、すでに生産ラインを稼働させていますが、こうした連携こそ重要になるのです。取り組みを広げる上では、流通企業やNGOとの連携協力もカギを握るでしょう」

サントリーが協栄産業および海外の設備メーカーと共同で技術開発したFtoP成形機

ビジョンが目指す姿とは

 -ところで経産省では循環経済ビジョンの策定作業を進めています。研究会の座長としてどのような絵姿を目指しますか。
 「経済政策として資源循環を考える視点は明確に打ち出したいと考えています。それだけではなく、日本人が持ち合わせている美意識や精神性のようなものを見つめ直した上で、欧米とは異なる日本流の循環経済が新たな付加価値を生み出し、経済成長につながる-。そんな未来社会を描きたいですね」

 ※ 次回はサーキュラー・エコノミーは市場競争の座標軸をどのように変えようとしているのか、東京大学大学院の梅田靖教授に聞きます。