政策特集アフリカビジネスの新戦略 vol.7

政府も新機軸 官民あげて成長市場に挑む

進出ブームではない経産省の本気度

6月初め、都内で開催されたアフリカビジネス協議会の初会合

 8月末に横浜で開催されるアフリカ開発会議(TICAD)。7回目となる今回は、日本企業がアフリカでの成長機会をつかみ、現地の経済社会の構造改革に貢献する「スターティングポイント」となりそうだ。政府もこれまでの施策の延長線にとどまらない新機軸を打ち出す。

新たな3つの施策

 「皆さんが直面する課題やニーズを、ぜひお聞かせ頂きたい」ー。6月初め、世耕弘成経済産業大臣は企業経営者らを前にこう呼びかけた。
 民間のアフリカビジネスを後押しする新たな枠組みとして発足した「アフリカビジネス協議会」。商社や自動車、消費財メーカーなどに加え、現地で事業展開するスタートアップや中小企業も参加。いくつかのワーキンググループを立ち上げ、ビジネス機会の拡大や投資環境整備につなげる狙いだ。
 同協議会の開催に先立つ5月初め、都内で開催されたシンポジウムで世耕経産大臣は、民間企業のアフリカビジネスを後押しする新たな施策を打ち出した。
 アフリカへのインフラ輸出に伴う民間の資金リスク低減策として、創設するのは貿易保険の新たな枠組み。日本貿易保険(NEXI)がアフリカ貿易保険機構、イスラム開発銀行グループといった国際金融機関と連携し、機械の輸出やインフラ建設などに伴う融資の全額を保険でカバーする。今回のTICADではNEXIがそれぞれの金融機関と覚書を締結する計画だ。
 日本企業とアフリカのスタートアップとの連携の促進も進める。デジタル革命の進展を背景に、アフリカでは決済や物流といった分野で新たな事業を手がけるスタートアップも誕生していることから、ベンチャーキャピタル(VC)などを通じ日本企業のパートナーとなりえる現地企業を育成しつつ、マッチングも進める。
 さらに日本企業がアフリカでシェアを拡大するにつれ、直面するのは、メンテナンスやアフターサービスを手がける人材をどう育てるかといった課題である。これらすべてを日本人の手で行うことは困難であることから、人材育成の発想も大きく転換。人材育成の対象をこれまでの製造現場だけでなくサービス分野にも拡大するとともに、第三国での研修や、第三国からの専門家派遣も可能にする方針だ。

市場をどう開拓

 一方で、これまでの日本企業によるアフリカビジネスは、一部の大企業が中心で、中堅・中小企業の進出が進んでいないのが実情だ。
 しかし、特集記事の第4回でアフリカビジネスパートナーズ梅本氏が指摘するように、現地の工場や企業に対して日本の産業資材や機械を販売するBtoB分野は、「日本プレミアム」が通用し、日本企業が商機を見いだしやすい分野。実際、第5回第6回で紹介した、アフリカインキュベーターやエヌエスコーポレーションのように、実際に現地で活躍する企業も存在する。

ナイロビ市内のカフェ(2018年12月、朝倉氏撮影)


 具体的な現地ニーズを掘り起こし、そこから得られる情報を中堅・中小企業につないでいく。あるいは現地の事業を徹底的にサポートすることこそ、より多くの日本企業がアフリカでのビジネスチャンスをつかむための第一歩となるのではないか-。
 こうした問題意識の下、経産省ではこれからのアフリカビジネス支援策として、具体的な現地ニーズを足で稼いで掘り起こし、販売網の構築などの営業面でも側面支援できる民間事業者をの役割を重視している。これら事業者の後押しを通じて、アフリカに挑戦する中堅・中小企業などのすそ野拡大を目指す。

施策担当者 狙いを語る

【貿易経済協力局・技術・人材協力課 朝倉大輔課長補佐】

 当課は、途上国の事業環境整備や人材育成を通じた、日本企業の海外展開支援を行ってきました。これまで、日本企業にとって途上国と言えば中国、ASEANやインドといったアジア諸国を主に指してきましたので、私たちの施策も多くはアジア中心で検討され、実行されてきました。
 しかし、10年、20年単位で将来の新興国市場を考えた場合、いまこそアフリカを重点的に手がけるタイミングではないのかとの結論に至り、昨年、アフリカ向けの新たな施策をゼロベースで検討し始めました。
 産業や社会の発展のあり方がアジアと全く異なるアフリカでは、中国やASEANで成功した海外進出モデルは通用しません。そのため、アフリカ市場に本気で向き合うことは、私たちの施策のあり方を根本から考え直すことでもありました。
 この1年あまり、私たちのチームは100社を超える企業や有識者の方々にお時間をいただき、アフリカ市場の見方、アフリカビジネスの方法論について議論をさせていただきました。私自身もジャカルタでの駐在経験がありますが、知れば知るほどアフリカでのビジネスはアジアと全く異なると思い知らされ、とりわけ経営資源が限られる中堅・中小企業に対しては、潜在的な魅力をアピールするだけで踏み出していただけるほどたやすい市場ではないと認識させられました。
 アジアであれば、その国に根を張り、日本企業の現地進出をきめ細かくサポートする日本人の姿も珍しくありません。しかし、アフリカにはこうしたプレイヤーが極めて少ないのが現状です。これまで疎遠だったアフリカだからこそ、「現地にどんなニーズが眠っているのか、どんな商材が売れるのか、どんな方法であれば売れるのか、そうした現地進出をサポートできる民間支援者を増やしていく必要もあるのでは」と考え、中堅・中小企業向けの新たな施策を打ち出すことにしました。
 アフリカを自社の現実的なビジネスチャンスとして捉えるためのきっかけとなる施策を展開し、いかに参入する企業のすそ野を広げるか、アフリカは私たちにとっても新たな挑戦なのです。(談)

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