データ覇権主義に抗う
デジタル時代のルールづくり どう主導
「21世紀の石油」と称されるデータをめぐるルールづくりも今回のG20(主要20カ国・地域)会議の焦点のひとつである。
貿易収支の不均衡を焦点に、報復関税の応酬を繰り広げる米中の貿易摩擦。その背景には経済や安全保障をめぐる覇権争いがある。急速に進む技術革新を背景に、新たなデジタル経済圏が形成され、そこから新たなイノベーションが生まれる大きなうねりが押し寄せるいま。データが価値創造の原動力となる新たな時代のルールづくりはどうあるべきか、議論の行方が注目される。
もとよりデータガバナンスは国家戦略であり、一筋縄ではいかない多様な論点を含んでいる。ITの巨人がひしめく米国やデジタル保護主義を強める中国は過度な規制に反発。他方、欧州は個人情報の取り扱いや移転に厳しい規制を課す。国内で収集されたデータの国外移転を制限するのか、もしくは自由なデータ流通を原則とするのか、各国スタンスは大きく異なる。
日本発の概念、議論の弾みに
こうした中、日本が提唱するひとつの概念は、議論の突破口となる可能性を秘めている。
DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)。信頼に基づく自由なデータ流通をイノベーションの源泉と捉えるこの発想は、ものづくりに強く、現場から得られる「リアルデータ」を有する日本ならではのアプローチといえる。こうした発想に基づき、健全な競争環境が整備されれば、データ独占を防ぎ、企業は生産効率化などの恩恵を享受しやすくなる。生産性向上を通じた経済成長と社会課題の解決を目指す「Society5.0」の理念にもつながる。
2019年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)。安倍晋三首相は、6月に大阪で開かれるG20首脳会議(サミット)を「世界的なデータガバナンスが始まった機会として長く記憶される場としたい」と述べ、個人情報の安全性確保やデータ管理の高度化に向けたルールづくりを主導する考えを示した。世界貿易機関(WTO)加盟国による交渉の枠組みを設けることも提案し、交渉開始の合意形成を目指す。首脳会議に先立ち6月8日、9日に開催されるG20貿易・デジタル経済大臣会合では、これら議論の皮切りとなる。
経済成長につなげる
「日本と世界の経済成長につなげていくことが重要」(経団連の中西宏明会長)。経済界もこうした方針を支持。ダボス会議で、世耕弘成経済産業大臣や五神真東京大学総長らとメディアブリーフィングを行った中西氏は、「(データ流通の分野で)日本が主導権をとることへの期待が高まっている」との感触を得たという。
経済界は、新たなルール形成に向けたモメンタム(機運)を、より多くの国・地域が参加する議論につなげ、高いレベルの規律を実現できるかに関心を寄せている。
高いレベルの規律を
日米欧の電子情報産業を代表する民間団体がG20貿易・デジタル経済大臣会合に先駆けて、5月8日に公表した共同提言では、国境を越えたデータフロー促進の意義をあらためて強調した上で、コンピューター関連設備の自国内設置要求やソース・コードなどの開示要求の禁止、さらにはデジタル貿易の潜在力を活性化させることで、幅広い企業が世界のバリューチェーンに組み込まれ、経済成長を促進させるよう求めている。
提言づくりに関わった電子情報技術産業協会(JEITA)通商委員会の中谷淳委員長はこう語る。
「デジタル時代の競争環境整備は企業にとって喫緊の課題。今回のG20が建設的かつ継続な議論の弾みになることを期待します」。