政策特集首脳会合だけじゃない「G20」 vol.2

自由で公正なデータ流通の実現主導

世耕弘成経済産業大臣に聞く【前編】


 日本はG20(主要20カ国・地域)会議で、自由貿易の推進やイノベーションを通じて世界経済の成長を牽引する姿を示すとともに、デジタル分野におけるルールづくりや気候変動・エネルギー分野で政策協調を呼びかける構えだ。課題は山積、かつ複雑化する世界を前に議長国として、どう議論を集約し、問題意識の共有を図るのか。関係閣僚会合の開催を前に世耕弘成経済産業大臣に聞いた。

イノベーションの源泉はデータ

 -まず、貿易をめぐる世界情勢や課題をどう見ていますか。

 「世界がインターネットでつながり、経済活動がグローバル化していく中で少し格差が発生し、グローバル化に対して不満や反発が出てきた。そこに政治的なポピュリズムも絡み、保護主義が台頭し拡大しているのが現状だ。特に世界の2大経済大国である米国と中国が貿易制限的措置を打ち合っており、それが世界経済に不透明感を醸し出し、実質的に成長も減速している。また保護主義的な動きだけでなく、鉄鋼の過剰生産問題など歪(いび)つな産業構造も世界経済に影響を与えている。日本が自由貿易の旗手として力を尽くす必要がある」

 -米中対立が世界のリスクとなる中、日本はどんな役割を果たすべきですか。

 「世界的には、日本がリード役となって(米国を除く)環太平洋連携協定(CPTPP)や日・欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)をまとめ、高い評価を受けている。その日本が自由で公正なルールに基づく通商枠組みを維持し発展させていくことが極めて重要だ。保護主義的な動きをしても貿易摩擦の根本的な原因を絶つことにはならない。市場歪曲的な産業補助金を撤廃させていくことなどにより、公平な競争条件を確保していく。それが問題解決の王道だと思う」

 「一方で第4次産業革命の進展でイノベーションが急速に起こっている。今回のイノベーションの源泉はデータだ。データがネットを通じて集められ、データがネットを通じて流通していくこと自体が源泉になっている。そういう意味でデータ流通が爆発的に増加しているが、一方でプライバシーやセキュリティーに関する不安が高まっている。またデータを囲い込んだり、データ流通を認めなかったりする動きが出てくる可能性がある。こうした新しい課題が貿易の中で起きているため、私が議長を務めるG20の貿易・デジタル経済大臣会合で議論が活発に行われるようリードしていく」

WTO改革、「3極」で挑む

 -多角的貿易体制を担う世界貿易機関(WTO)の機能低下が懸念されます。

 「WTOがなかなか機能していないというのも貿易上の大きな課題だ。日本が自由貿易の旗手としてWTO改革にもコミットしていくことは極めて重要であり、そのためには世界最大の経済大国である米国にしっかりコミットして頂くことが重要だ。ただ、残念ながら米政権は基本的にマルチ(多国間)の交渉を否定し、バイ(2国間)で問題を解決する姿勢を取っている」

 「日本政府としては米国にコミットしてもらうべく、日米欧の3極貿易大臣会合を大きなきっかけにしている。米国は、この会合だけは積極的に参加してくれており、現在までに5回開催した。その中で産業補助金、強制技術移転、デジタル経済化に対応するルール形成などの議論を行ってきた。この議論の延長の中でWTO改革も3極がリードしようと言うことで米国も一定程度、積極性を見せている。例えば産業補助金などの通報制度の改革については米国と日・EUが共同提案を行った。貿易・デジタル経済大臣会合の機会も活用しながら、WTO改革に他国も賛同してもらえるよう努めていく」

 -WTOの枠組みにおける電子商取引(EC)の取り組み状況について教えてください。
 
 「貿易ルールもデジタルに対応したルールを作らないといけない。そこで2017年12月のWTO閣僚会合の際に日本と豪州とシンガポールが共同議長となって有志国会合を立ち上げた。19年1月には世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で交渉開始の意思を確認する共同声明を有志国で出し、米国や中国を含む77カ国が署名してくれた。WTOの枠組みの中でデジタルやECに関する貿易ルールを作っていこうとするモメンタムが非常に高まっている。安倍晋三総理大臣がダボス会議でのスピーチで、G20大阪サミットの機会にデジタル貿易の国際的なルール作りに向けた『大阪トラック』の開始を表明すると宣言した。その首脳会議に先立つ閣僚会合でもWTOにおけるECの交渉を後押ししていく」

DFFT、まずは共通理解を

-そのダボス会議では、安倍首相が自由で公正かつ安全で信頼性の高いデータ流通「データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT)」の概念を提唱しました。実現に向けて、日本の役割をどう考えますか。

 「安倍首相によるDFFTの発言は、ダボス会議で最も注目を浴びたと思う。第4次産業革命や『ソサエティ5.0』を目指すには、イノベーションを続けないといけない。その基礎となるのが、やはりデータだ。信頼に基づく自由なデータ流通は、まさにイノベーションの基盤になる。しかも今までの情報革命の世界はデジタルに閉じた世界だったが、最近はデータに人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)が合流していくことにより、いよいよリアル(現実)とデジタルが融合し、垣根がない世界ができつつある」

 「日本はモノづくりの現場にリアルデータが蓄積されており、世界的に見ても特異な強みがある。経済産業省が提唱する第4次産業革命に向けた戦略『コネクテッド・インダストリーズ』のコンセプトは、現場のリアルデータとAI、IoTを結び付けて世界に先駆けて現場初のイノベーションを起こすものだ。その前提としてデータは自由に流通でき、盗まれたり政府が検閲したりすることがあってはならない。ただ、そういう動きも出ているので、DFFTの概念が非常に重要になる。まだ概念的ではあるが、ECの貿易ルールなど、いろいろと整理しながらバージョンアップさせないといけない。ぜひ貿易・デジタル経済大臣会合の場でもDFFTの概念を各国に説明し、まずは共通の理解を作っていく」

 -日本の製造業におけるデータ活用や生産性向上の考え方について教えてください。

 「モノづくりの強みを持つ日本がコネクテッド・インダストリーズの考え方を取り入れ、現場に蓄積されたリアルデータを活用することにより、勝ち筋を切り開いていきたい。現在、コネクテッド・インダストリーズでは五つの重要分野を定めて集中的な取り組みを実施しており、その中の一つとしてモノづくり・ロボティクスを位置付けている。バリューチェーン全体を見据えてデータを活用したり、ロボットの導入によって製造現場を自動化したりすることにより、新たなビジネスモデルを構築するなど付加価値を作って生産性を向上させることが極めて重要だ」

 「日本は精緻なモノづくりを行ってきており、その背景には良質なデータがある。これまで残念ながら現場に放置され、活用されていなかったが、今後は企業の垣根も越えながら、競争相手であっても協調領域を広げて、なるべく大きなデータとして良質なデータを共有し流通させることが重要だ。経産省も2018年度から、データを流通する仕組みを構築する実証プロジェクトをスタートさせた。すでに具体的な動きが出ており、例えばファナック、DMG森精機、三菱電機といった工作機械大手などが参画し、違うメーカーであってもデータを共有できる仕組みを作ろうとしている。世界に類を見ない、メーカーを越えたスマート製造の最先端を走る取り組みだ。これをロールモデルとして他の分野でもメーカーや業界を越えたデータの共有・流通が進むことを期待する」

 ※後編に続く