地域で輝く企業

社会インフラから住環機器まで

安心・安全・快適を提供する 旭イノベックスの独自ビジネス

旭イノベックスを象徴する技術「オートゲート」(千葉県矢挿川)


 旭イノベックスを語るうえで欠かせない製品に「オートゲート」がある。河川などからの取水や雨水などの排水用に堤防に設置する逆流防止の通水路だ。電気などの動力や人手がなくても、水位の変化に応じて自動的に水門が開閉するのが特徴で、豪雨や津波の際に浸水を防ぐ社会インフラとして全国約2000カ所に設置実績がある。

ロングセラー技術の秘密

 旭イノベックスは1952年に札幌市で創業して以来、金属加工を軸に事業を拡大してきた。現在は土木鉄構、建築鉄構、住環機器の3事業を展開する。もともとは各事業とも別会社として独立採算で活動していたが2007年に統合した。間接部門などを共通化する一方、各事業が協働、補完、そしてシナジー効果を生み出す体制にすることで経営の安定化と利益の最大化の実現を目指している。
 3事業のうち、土木鉄構事業は創業時の旭鉄工所時代から続いている祖業といえる。代表製品であるオートゲートは無人無動力でハイテクを上回る機能を有する。「ローテクかつシンプルであるがゆえに、確実で壊れにくい」(星野幹宏社長)ロングセラー技術だ。洪水から人命を守るという社会的意義が高く評価され、2013年に第5回「ものづくり日本大賞」の内閣総理大臣賞を受賞した。
 市場投入から早20年あまりが経過するが、さらなる機能向上と用途の多様化へ向け、いまなお開発に取り組んでいる。「大型化あるいは小型化や既存構造物を生かした『オートゲート化』(同)することが狙いだ。

後工程の作業効率まで勘案

 一方、建築鉄構事業は、炭鉱の衰退によって経営破綻した地元企業を再生するため事業に組み入れた経緯がある。最近は北海道内の建築需要が活況を呈しているのを反映し、繁忙を極めており、旧知の顧客や懇意にしてきた得意先のニーズにさえ応えきれない現状に頭を悩ませているほどだ。
 同事業において、重視するのは品質、価格、納期にこだわったモノづくりである。「後工程の作業のしやすさまでを勘案した品質」(同)を意識。「納期通りに正確な製品を納めて工期遅延を起こさないことでトータルコストを削減。結果としてリピーターになっていただく」(同)ことを目指し、鉄骨を容易に現場で組めるよう「鉄骨のプラモデル化」を実現。高精度の加工は、そんな経営姿勢を体現している。

北海道新幹線・新函館北斗駅の建設にも携わった


 他方、住環機器事業は顧客の要望からパネルヒーターを開発したのをきっかけに立ち上げた事業。パネルヒーターの設計から製造、販売までを手がけており、現在はハウスメーカーと共同で居住性や施工性を考慮した製品開発に取り組む。

パネルヒーターは新千歳空港にも採用された


 ヒートポンプと組み合わせて、暖房だけではなく冷房機能も備えた製品を4年前に市場投入。星野社長は「パネルヒーターだけでみると、当社は国内シェア首位クラスにあるが、空調市場全体となると、まだまだ存在感は薄い。日本メーカーならではの製品で、日本独自の無風暖冷房の文化を創造していきたい」と意気込みを語る。

星野幹宏社長


 市場も技術ニーズも全く異なるかにみえるこれら3事業だが、根底にあるのはモノづくりへの強いこだわりだ。新たな価値創造による「差別化」と、本来あるべき製品の姿である「最良」を追求する。
 星野社長は「ただ価格が同じ、あるいは多少安いだけで機能は同等であれば、後発で市場参入する意味はない」と差別化を徹底する。一方、最良についてはこう説明する。「本来、商品がどうあるのが一番望ましいのか。例えば土木鉄構事業で水門を考えた場合、そもそも自然災害そのものを防ぐことはできない。しかし、1人も死者を出さないことをあきらめたら最良とは言えない。死者をゼロにすることをゴールに据え、あきらめないところにさらなるイノベーションの可能性がある」と語る。

地域のためにできること

 さらに、製品+サービスによる「コトづくり」を意識したモノづくりも推進中だ。「コトづくりを進めればモノづくりが変わらざるを得ない。おのずと多角化していく。前工程、後工程、隣の分野も興味を持って研究する。ここに新たなビジネスの芽が潜んでいるかもしれない」(同)からだ。
 こうした意識は単に製品開発だけでなく、日々の業務でも取り入れ、全社員で共有するよう心を砕いている。星野社長と父・恭亮会長はともに家業を継ぐ前、トヨタ自動車での勤務経験があることも少なからず影響を及ぼしているのかもしれない。12年前、星野社長が入社と同時にトヨタ生産方式を社内に導入。それも「旭流」にアレンジして社内に浸透させている。
 社会インフラに深く関わる事業を展開するだけに、持続可能な地域経済のこれからについても特別な思いを抱く。本業そのもので地域に貢献することはもとより、豊富な自然や食に恵まれた北海道の魅力をさらに高めるうえで、製造業として何ができるかを絶えず意識しながら経営に邁進する日々である。
【企業情報】
▽所在地=札幌市清田区平岡9条1の6▽社長=星野幹宏氏▽設立=1952年5月▽売上高=102億円(2018年3月期)