政策特集ダイバーシティ2.0 vol.9

グーグルの人材開発で活躍したピョートル氏「多様性で常にユーザーを上回るべき」

モティファイ ピョートル・フェリークス・グジバチ取締役


 グローバル化、産業のデジタル化が進展する中、企業にはダイバーシティ経営など、これまでの価値観にとらわれない取り組みが求められている。元グーグル人材開発担当で現在は人事ソフトベンチャーのモティファイ(東京都千代田区)などを経営するピョートル・フェリークス・グジバチ氏に、人材や組織の“あるべき姿”を聞いた。

キーワードはグローバル化

 -まず企業におけるダイバーシティの重要性について、見解をお聞かせ下さい。
 
 「キーワードの一つが、グローバル化です。多くの業界で国内市場が縮小する中、今や企業にとって国を越えて戦う力は不可欠です。訪日外国人による“インバウンド”の市場が膨らんでいることも無視できません。企業に多様性がないと、ユーザーに満足を与えられなくなっている。かつて在籍していたグーグルでは、多様性の面で常にユーザーを上回るべきという理念がありました。女性や外国人など外見で分かる違いは分かりやすいですが、目に見えない多様性も意識すべきです。同じ日本人でもバックグラウンドはさまざまで、職場で摩擦の原因になることもある」

 「多様性と生産性を両立させるのは簡単ではない。人材が多様化することで暗黙のルールなどが成立しにくくなるからです。だからこそ、周囲に価値観や信念をはっきり伝えるコミュニケーション能力が、重要になる。働き手一人一人がダイバーシティを強く意識することが重要です。例えば、『私は20代の女性だから、こんなことはやらせてもらえない』といった具合に、偏見の下に決めつけてしまうのは、よくない。挑戦、そして摩擦は、成長やイノベーションの源になるからです」

「目に見えない多様性も意識すべきです」(ピョートル氏)

 -ダイバーシティ社会で求められるリーダーの役目とは。

 「チームや個人が最大限に力を発揮するための“場”を作ることです。まず、いかに多様性が大事かを、チームに浸透させないといけない。皆が認め合う関係が構築される前に異なる価値観が衝突すると、けんかになる恐れがあるからです。このためグーグルなど極めて多様な人材が集まるシリコンバレーの企業では、プロジェクトの初期段階でのチーム作りがとても重要視されています」

 「相互理解のために必要なのは、各メンバーが情報開示し自分のことを知ってもらうことです。リーダーが手本をみせながら、皆が自己開示できるような“心理的安全性”のある環境を、つくるべきです。加えて、最適な仕事の進め方が人によって違うことも、認識すべきでしょう。例えば、具体的な行程表がないと仕事をしにくい人もいれば、なくても大丈夫な人だっています」

デジタル世代の意見を聞く経営者は少ない

 -大企業をはじめ、日本の組織は変わりきれていない面があります。
 
 「確かに多くの大企業で女性の割合はまだ低く、給与の格差もある。それから、個人的に残念に思うのは、若者の能力が十分に発揮されていないことです。30歳以下の人は、複雑なスマートフォンアプリやクラウドなどを日常的に利用する“デジタル世代”だが、企業に入るとクラウドも動画サイトもあまり活用しない職場を目の当たりにし、カルチャーショックを受けてしまう。一般向け製品の開発においても、若者がどう使っているかはとても重要なのに、若手社員の意見を積極的に聞こうとする経営者はあまり多くない」

 「世代間のコミュニケーションを活発化するため、トップダウン中心のピラミッド型構造を見直すべきではないでしょうか。現状だと、現場の社員は“上司が聞きたい内容”しか報告しない傾向にあります。上司と部下という利害関係の影響力が、強すぎるのではないでしょうか。それから、日本企業では一対一でのコミュニケーションが少ないのも問題。この辺りが変わると、若手がもっと本音を言い、能力を発揮できるようになるはずです」

「若手がもっと本音を言い、能力を発揮できるようになるはず」(ピョートル氏)

多種多様な働き方が地域活性化にも

 -社会全体のデジタル化は、働き方や組織をどう変えていくのでしょうか。
 
 「サイボウズが“複業採用”を始めたことは非常に興味深い。今やインターネット、クラウドなどにより、副業をはじめ多種多様な働き方が可能になっています。我々の会社でも、会ったことのない人と仕事をするケースは少なくない。あまり気づかれていませんが、とても大きな変化だといえます。この流れは、地域活性化に向けても追い風になるはずです。現状だと“地方創生”というと各地域ごとに何か新しいことを始めるイメージが強いが、クラウドソーシングなどで地方と大都市が連動することの意義も、もっと注目されて良い」

 -若い働き手にとって必要なことは。

 「大企業という“良い家”に入り、ずっと住み続けたいと思っている人が多いと思います。しかし、今は変革期です。木造の家でも鉄筋コンクリートの家でも、関係なく大きな波に流される可能性がある。良い家に入ることよりも、自分の足で走る力が必要です。例えば、コミュニケーション能力やプログラミングのスキルなど、変革期で勝ち残る術を身につけるべきでしょう」

何のためのダイバーシティ?

 「学生がインターネットで検索する言葉の傾向をみると、興味深いことが分かる。『○○株式会社 働き方』『○○株式会社 ブラック』など社名を基に検索する人がほとんどです。会社の知名度などにとらわれず、どんな仕事に就いてどう生きていきたいかをもっと明確に考えるべき。失敗もあると思いますが、“打たれながら”自信を持って進んでいってほしい」

 -ダイバーシティ、働き方改革、人材育成については、政府も非常に力を入れています。どんな印象を持っていますか。

 「経済産業省の方々と話をした後、ある意味とても安心した。我々とも共通するさまざまな問題意識を持ちながら、実効的な施策を打ち出しています。一方、課題を言えば、女性の活躍促進や働き方改革といったメッセージが、時には誤った解釈をされてしまうことです。例えば企業が単純に女性管理職の数だけを目標にすることは、良くない。管理職のレベルにまだ達していない女性が起用され、仮に失敗するとその人のキャリアに傷がついてしまいます。ダイバーシティや働き方改革が何のための取り組みかを、一度原点に立ち返って考え直すことも必要でしょう。“根本に戻る”ことを企業に伝えるのが、経産省の重要な使命だと思います」

「打たれながら自信を持って進んでいってほしい」(ピョートル氏)

【略歴】ピョートル・フェリークス・グジバチ モティファイ取締役、ポーランド生まれ。2000年に来日。ベルリッツ、モルガン・スタンレーを経て、2011年グーグルに入社。アジアパシフィックにおけるピープルディベロップメント、2014年からグローバルでのラーニング・ストラテジーに携わり、人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。現在は独立し、モティファイ株式会社で新しい働き方と良い会社作りを支援する事ソフトを開発・提供。『0秒リーダーシップ』『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法』著者