産業用途へ広がるドローン ビジネスの裏に知財あり
エアロネクスト影山剛士さんvsDRONE iPLAB中畑稔さん 注目スタートアップが語る未来
スタートアップの挑戦を、知的財産面から後押しする特許庁。独自の技術やサービスで新たな地平を切り拓こうとするスタートアップ経営者は実際にどんな知財戦略を描くのか。「ドローンビジネス×知財」をテーマに10日、ベンチャーカフェ東京(港区・虎ノ門)で開催されたトークイベントの中から最新事情を探る。
根底にあるブランド戦略
ドローン(小型無人機)をビジネスに活用する動きが広がっている。エアロネクストの開発機はプロペラが揺れても機体がぶれないのが特徴で、耐風性や安全性といったドローンが直面する長年の課題を克服したとして注目されている。同社でライセンスを担当する執行役員・影山剛士さんと、ドローンにまつわるスタートアップの知的財産戦略を請け負うコンサルティング企業「DRONE iPLAB」代表の中畑稔さんが、新たな産業分野に知財がもたらす可能性について語り合った。
エアロネクスト 影山剛士さん(以下、影山)
当社の強みは『4D Gravity』という重心制御技術です。ドローンの産業利用を進める上で、軸がぶれないことは極めて重要になります。産業用ドローンとして、これまでに3機種を開発していますが、いずれもこの技術が根底にあります。まずは搭載したカメラに機体が映り込むことなく、360度VR撮影できるタイプ、もうひとつは重量物を傾けず高速かつ遠距離まで輸送するタイプ。さらに長いアームの先にカメラやセンサーを付けることでドローン本体を対象物に接近させることなく狭い領域や気流が乱れた領域での点検や測量を可能にするタイプです。当社は創業当初から知財重視の経営戦略を打ち出しており、約80件の特許が出願・登録されています。
進行役・特許庁松本要氏(以下、松本)
特許だけでなく、ロゴや「4D Gravity」も商標登録されていますよね。狙いは。
影山 コンピューターの世界で米インテルが「インテル・インサイド」でブランド訴求する戦略を展開したように『4D Gravity』を広く世界に技術ライセンスするための戦略のひとつです。
松本 開発や資金調達が優先され、知的財産は後回しにせざるを得ないスタートアップも少なくない中で、創業当初からここまで明確に知財を意識されたのはなぜですか。
影山 創業者の田路圭輔は電通出身でプロダクトのブランディングを重視していることはひとつです。ロゴと技術を一体化しライセンスする経営姿勢は、2017年の創業当時から変わっていません。田路本人はちょうど今、(米ラスベガスで開催中の世界最大の技術見本市)CESに参加しています。
DRONE iPLAB 中畑稔さん(以下、中畑)
出資者の一人としてもエアロネクストさんのビジネスに関わる私の目から見ても、明らかに経営者の知財意識が根底に貫かれていると感じます。田路さんは、創業当初から知財を熟知した人材を採用し、どのタイミングで権利化するかも戦略的に行っています。
技術革新にどう挑む
松本 ドローンの分野において知的財産の機能や効果はどのようにお考えですか。
中畑 すでにドローンはスマートフォンのような多機能化が進みつつあり、自社ですべての特許情報を調べることは困難です。しかし、自らも適切に権利取得することは万が一、特許侵害などで訴えられた場合に防衛的な効果を発揮します。技術革新のスピードが速い時代だからこそ、経営資源としての知的財産が大きな意味を持つと考えます。
影山 当社では「4D Gravity」という要素技術はもとより、その他の機体部分においても産業別にカスタマイズし、特許保有を進めています。ドローンをめぐる国際標準化の先行きは不透明な部分もありますが、だからこそ、標準化の「土台」に上がる上でも特許ポートフォリオが重要になると考えています。
松本 昨年は中国・深圳で開催された国際ピッチ大会では知的財産賞を受賞されたそうですね。中国で先行してこうした賞があるのは、特許庁としては悔しい気もしますが(笑)。ドローンの本場と言われる深圳の話が出たところで、ドローンの世界における知財戦略の最新動向を教えて頂けますか。
中畑 (ドローン最大手である)中国のDJIは日本でも積極的に特許出願しており、しかも特許だけでなく、意匠の登録件数も数多いことからもデザイン重視の開発姿勢がうかがえます。機体全体のデザインだけでなく、特徴的なデザインを対象とする「部分意匠」も少なくありません。バッテリーやプロペラなど、およそ取り外し可能なパーツについては網羅的に権利取得している事実は注目すべき点でしょう。創業者の父親が弁理士だったとも聞いています。
スタートアップは何から取り組むべきか
松本 仮に経営者の知財意識が高くても投じられる資金や人材が限られているというのが多くのスタートアップの実情ではないでしょうか。まずは何から取り組むべきですか。また知財戦略を構築することは、資金調達面でどんなインパクトがありますか。
中畑 親身になって相談に乗ってくれる弁理士や弁護士など専門家とつながることが第一歩です。加えて一回の資金調達で数%程度の知財予算を確保しておくことも必要と考えます。それだけでコアの特許を数件出願することができます。さらにこうした知財戦略の大前提として、社名や主要プロダクトのネーミングを商標登録することも忘れてはなりません。すでに権利化されていた場合の変更には多大な労力を費やします。これは一弁理士としての意見でもありますが、起業の際に定款作成するタイミングで社名や商品名を商標登録することをおすすめします。
影山 資金調達面において投資家が知財をこれまで以上に重視する姿勢に転じていることは実感しています。単に特許の出願件数だけでなく内容も吟味している印象があります。知財を武器に資金調達が実現し、それが新たな知財戦略につながる-。そんな好循環が生まれつつあります。