地域で輝く企業

産業を、そして地域を支える熊防メタルの底力

「負けんばい」精神で熊本地震を乗り越えて

困難を乗り越えて従業員の団結力はさらに高まった

 「メッキ産業はモノづくりにおける縁の下の力持ち的存在。我々は熊本地域のさまざまなモノづくり企業と共に成長してきた」―。熊防メタルの前田博明社長はこう語る。その言葉に象徴されるように、同社はこれまで半導体や自動車、液晶部品など、熊本に進出してきた企業や地場企業を表面処理の技術で下支えしてきた。

多様な顧客ニーズに応える

 熊防メタルの前身「前田めっき工業」の創業は1933年。この分野では地域におけるパイオニアだ。以来、アルミや鉄などへのメッキ加工やアルマイト加工、電解研磨などの化成処理といった数多くの技術開発に取り組み産業界の要望に応えてきた。
 転換となったのは、高度経済成長真っ只中の1960年代。大手電機メーカーが県内に進出し、IC(集積回路)生産が本格化したことで同社の成長も加速。半導体関連部品の表面処理を行う『熊本防錆工業』として、現在の熊本総合鉄工団地(熊本市東区)に移転。地場企業や地域に進出した自動車産業や装置メーカーの要望に応える多様な表面処理加工を手がけてきた。
 2001年には液晶分野をはじめとする新たな表面処理分野への参入を視野に、熊本防錆工業から分社独立し、今年は20年の節目を迎える。現在は“兄弟会社”熊本防錆工業とともに表面処理技術における挑戦を続けている。

国内最大級の生産ライン

 熊防メタルは5つの主要生産ラインを持つ。中でも特筆すべきは、アルミ素材でアルマイトや硬質アルマイト、無電解ニッケル、導電性アルマイトといったさまざまな表面処理を可能にする国内最大級の生産ライン「コスモライン」だ。半導体部品や大型液晶関連向けなどあらゆる顧客ニーズに対応。最大処理寸法は3800×3200×300ミリメートルに達する。
 さらなる品質向上にも挑んでいる。耐摩耗性に優れ、しかも軽量化も実現した『イーマイトUH処理』は2012年に中小企業優秀新技術・新製品賞に輝いた。
 こうした独自技術の裏にあるのは、耐熱性や耐腐食といった顧客ニーズに応じて、既存技術をカスタマイズし積み上げてきた地道な開発姿勢。そのバリエーションは顧客の数だけ存在し、新たな付加価値を生み出す競争力の源泉だ。
 製造に直接携わる人員に比べ、研究開発部門や品質管理部門の技術者と、営業を担う間接人員の比率が高いことも同社の顧客対応力を象徴している。これら人材は、熊防メタルとして分社独立した時期に、企業としての足腰を強めるための戦略として意識的に取り組んだという。「当時、採用した人材がいま、会社の中核となりたくましく成長している」(前田社長)ことも明るい将来展望につながっている。

前田博明社長

 2016年12月には、2億1000万円を投じて、IoT(モノのインターネット)に対応した次世代型アルマイト大型加工ラインを導入。スマートフォンなどを通じてリアルタイムで加工状態をモニタリングすることが可能になった。加えて最大製品処理重量は従来設備比約4倍の400キログラムに高まった。前田社長は「独自開発の超硬質処理などを搭載し、加工能力はトータルで5割向上した。高付加価値の表面処理に挑み新たな顧客を獲得したい」とさらなる事業拡大に意欲を示す。

技術力だけではない強み

 実は、熊防メタルの企業としての強みは技術力や設備だけではない。およそ170人の従業員の団結力が困難を乗り越える原動力となっている。2016年4月の熊本地震では、同社も設備が損壊するなどの被害を受けたが、震災直後から“負けんばい熊防メタル”をスローガンに掲げ一致団結。復旧、復興に取り組んだことが、「結束力をさらに高めることになった」と前田社長は感じている。
 そんな苦難を乗り越えて2018年2月に完成した鉄骨3階建ての新管理棟は、復興を遂げた同社の象徴にしたいとの思いが込められている。これを機に、熊本総合鉄工団地内に分散していた生産管理や業務部門を集約。部門間の意思疎通が一層緊密となり、情報共有が進み課題により迅速に対応できるようになった。
 熊本地震によって、事業継続計画(BCP)の重要性を身をもって感じたという同社。地震の翌日、倒壊を免れた建屋に対策本部を設置。各部門の責任者を毎日招集し、復旧の進捗(しんちょく)報告と対策会議を行った。現在も定期的な訓練を通じ、経験を伝承、常に見直している。
 同社の取り組みは、業界の垣根を越え知られるところとなり、問い合わせや講演依頼が舞い込むようになった。他県の企業グループからの依頼をきっかけに始まった社内見学会とBCPセミナーは今も定期的に開催。担当者が県外の異業種交流会などに出向きBCPや防災意識の重要性についての講演も行っている。
 2019年年明け早々には再び震度6弱の地震に見舞われた熊本。大きな被害に至らなかったのは幸いだったが、地域にとって同社のような取り組みの意義がますます問われることになる。
【企業情報】
▽所在地=熊本市東区長嶺西1の4の15▽社長=前田博明氏▽設立=2001年1月▽売上高=15億5000万円(2018年9月期)

コンシェルジュの目

【九州経済産業局 岡田竜太郎氏】
 
 地域未来牽引企業の皆さまは、地域特性を生かした高付加価値の創出や経済的波及効果など、地域の経済成長を力強く牽引する事業を積極的に展開されています。それらの取組を支援するため、各地の地域未来コンシェルジュは、地域未来投資促進法などの支援施策の活用や、関係機関等との情報交換・交流の場の提供などの事業を推進しています。
 熊防メタル社は、熊本の基幹産業である半導体・自動車部品等の表面処理を地場企業として担い、最近ではIoTを活用した高付加価値生産のネットワーク化や、航空機の内装分野への展開など、新たな事業に果敢にチャレンジされています。また、熊本地震での被災では、グループ補助金を活用した早期復旧を実現し、BCP策定のみならず、団結力の強化と定期的な訓練も実施されています。熊本地震からの創造的復興と、新分野展開等さらなる飛躍のために、継続的な支援を行っていきたいと考えております。(談)