
キャッチコピーから画像、タレントまでAIで自動生成、サイバーエージェントが革新する新たなウェブ広告

サイバーエージェントの「AIタレント」は広告配信の効果実績に基づいて広告効果の高いAIタレントを選定・自動生成できる。
「生成AI」を活用する動きが、ビジネスの様々な分野で急速に進んでいる。新たなデータや情報を作り出すことができる生成AIによって、作業効率が飛躍的に向上するだけでなく、既存の業務プロセスを革新し、新たな価値を生み出すことも期待される。経済産業省では、2024年6月より、情報セキュリティを確保した環境で全職員が生成AIを利用できるようになった。これまでに翻訳や要約、議論の「壁打ち」など、業務の補助ツールとして多く活用されてきている。目まぐるしく進化する生成AI時代において、利活用の最前線を走る企業はどのような取り組みをしているのか。インターネット広告の制作、配信効果の予測などに幅広く生成AIを導入している、国内トップのインターネット広告代理店「サイバーエージェント」(本社・東京)の取り組みから、業務効率化や新規事業創出のヒントを探ってみよう。
広告効果の高いクリエイティブの大量制作、生成AIが可能に
従来のAIがデータ分析やパターンの認識に強みがあるのに対し、生成AIは専門的なスキルを必要とせずに、新たなテキスト、画像、音声、動画など様々な形式の高品質なコンテンツを自動的に生成することができる。業務のデジタル化を加速させる重要な技術として注目されており、企業にとっては、生成AIをうまく業務に取り入れられるかどうかが、今後の市場における競争力を左右することにもなる。
サイバーエージェントは、2016年から生成AIの研究開発を始め、広告主の広告効果最大化を実現すべく、2020年には広告クリエイティブ制作を支援するシステム「極(きわみ)予測AI」の提供を開始した。
インターネット広告は、クリック数や商品購入数などの効果をリアルタイムに確認しながら出稿金額や媒体などを調整する「運用型広告」が主流となっており、ネット閲覧者に対して最適な広告を出し続けるために、運用を絶えず見直す必要がある。そのため、ネット広告会社には大量の広告素材を制作する能力が欠かせないという。
AI事業本部AIクリエイティブDiv.総括の毛利真崇さんは「一般的に広告代理店は広告のデザインを外注していますが、サイバーエージェントでは8割以上を内製し、1クオーター(3か月)で約10万本を制作しています。この量を外注すれば膨大なコストがかかります。効果の高い広告を大量にコストを抑えて作ることが経営的に非常に重要であり、それを生成AIが可能にします」と話す。

「生成AIによって業務効率アップだけでなく、プロセスの再構築も実現できた」と話す毛利さん
「極予測AI」は、デザイナーが作った新しい広告クリエイティブをアップロードして、「予測ボタン」を押すと、数秒でAIが効果予測値を表示する。配信中で最も効果が出ている既存の広告に対して新しい広告の効果予測値を競わせ、AIによる効果予測値が既存1位よりも上回った広告のみが広告主に納品される。効果予測値が既存1位の広告を上回らない場合は、画像やコピーを修正して、アップロードを繰り返すことでブラッシュアップしていく。
広告はデザイナー1人で制作、業務プロセスを再構築
生成AIによって、ネット広告が質、量ともに向上しただけでなく、業務プロセスの再構築も可能となった。
これまでの広告制作は、クリエイティブディレクターを中心にアートディレクター、コピーライター、フォトグラファー、イラストレーター、デザイナーがチームを組んで制作していた。広告主との打ち合わせやロケ地での撮影などを経て制作を進め、完成に近づくとデザイナーはアートディレクターなどに確認を依頼し、チーム内でやりとりを何回も繰り返す作業が必要だった。
ところが「極予測AI」など生成AIの導入より、広告制作はデザイナー1人でできるようになった。AIを導入する前は、広告の制作本数はデザイナー1人あたり1か月で約30本だったが、AI導入後は約170本が可能となり、効率は5.6倍アップしたという。
自動生成したAIタレント、起用が1,000人突破
さらにサイバーエージェントは、架空のタレントをAIで自動生成して広告にキャスティングする「AIタレント」の提供を開始した。AIタレントの活用は世界中で増加しており、新たな広告表現の手段として注目されている。
広告に人物タレントを起用する際は、モデルの選定、スケジュールの調整、撮影スタジオの用意などに時間がかかるうえ、企業は衣装や髪形、ポーズや背景が異なる広告を大量に制作しづらい現状がある。また、万が一、タレントが不祥事を起こした場合などには、配信を停止しなければならないリスクもある。「AIタレント」は静止画広告、動画広告のほか、パンフレットなどの印刷物にも幅広く活用されており、AIタレントを起用する事例が既に1,000人を超えている。AIタレントを起用した広告は、通常の広告と比較してクリック率(CTR)が396%改善する事例も出るなど、高い広告効果が確認されているという。
また、AIによる音声生成技術の研究も進めており、生成AIで自動生成した特定のAIタレントのイメージに合わせた自然な音声を生成することも可能だ。ある広告では、登場人物や背景だけでなく、CMソングの歌詞も歌声も自動で生成している。

媒体の特徴に合わせたAIタレントを自動生成することができる(プレスリリースより)
生成AI徹底理解リスキリングを全社員が受講
こうした生成AIの活用が進んでいる背景には、社員全体の生成AIへの理解とスキルの向上への連綿とした取り組みがある。サイバーエージェントは2016年、デジタルマーケティング全般に関わる幅広いAI技術の研究開発を目的に「AI Lab」設立、約100人の研究者が生成AIの実用化に積極的な大学・学術機関と連携して研究開発している。ディープテック※のVCファンドが毎年公表している「AI Research Ranking 2022」で、サイバーエージェントは「AI研究をリードするトップ1000企業」として日本4位、世界49位の評価を得ている。
※ディープテック…社会課題を解決して生活や社会に大きなインパクトを与える科学的な発見や革新的な技術。
さらに、2023年11月から全社員を対象に「生成AI徹底理解リスキリングfor Everyone」を開始した。生成AIによる業務効率化や新規事業の着想ができる状態を目指し、ChatGPTや独自の日本語LLMの活用、生成AI活用における法務・セキュリティ知識といった生成AIの基礎知識を学ぶ、eラーニング形式のプログラムだ。学習後にオリジナル試験の合格を必須としたところ、執行役員を含む約6,300人の99.6%が合格している。
経営陣の意思が重要。「業務フローをゼロから作り直す心構えで」
サイバーエージェントが生成AIを活用した成功事例を次々と生み出している理由について、毛利さんは「経営判断として生成AIを業務プロセスに取り入れ、積極的に活用することで業務効率の向上を図りました。もう一つは、リスキリング講座などで『会社はAIを取り入れる方向に進むのだ』という社内全体の空気を作っていったことです」と説明する。
企業がこれから生成AIを活用していくにはどうすればよいのだろうか。毛利さんは「やはり経営陣が『生成AIで成果を出す』という強い意思を示すことが必要です」と強調。「生成AIの登場は、パソコンがなかった時代から、今や業務に不可欠になったことと同じくらいの激しい変化です。どうすれば業務改善できるかではなく、生成AIがあることを前提にして業務フローをゼロから見直す心構えで臨めば、大きな成果が得られるのではないかと思います」とアドバイスしている。