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Web3の世界戦に勝ち目あり。日本発のプラットフォーム構築へ奔走中!

スターテイルグループCEO 渡辺創太氏

「Web3(ウェブスリー)」と呼ばれる分散型の次世代インターネット技術が注目されている。Web3は、取引データの塊(ブロック)を鎖(チェーン)のようにつないで記録する「ブロックチェーン」を基盤とすることから、データや価値の改ざんが難しい。この特性を生かし、デジタル上の資産であるトークンで価値を共有・保有・交換するビジネスや経済圏の創出などが期待されているからだ。

シンガポールに拠点を置く「スターテイルグループ」の創業者でCEOの渡辺創太さん(29)は、Web3分野における日本の旗手で、世界に通用する日本発のプラットフォームの構築に取り組んでいる。「Web3 for Billions(数十億人が使うWeb3を構築する)」をモットーに、世界を股にかけて飛び回る渡辺さんの目にはどんな未来が映っているのか。仕事に賭ける情熱とあわせて聞いた。

新技術 数十億人が当たり前に使う世界へ

――― 次世代技術のWeb3は今、どのくらい使われているのでしょうか。

正確なデータを把握するのは難しいのですが、Web3は現在、世界人口の1%から3%ほどの人たちに使われています。これを、今のインターネットでは主流の「Web2(ウェブツー)」のように、数十億人の人たちが毎日、当たり前に使うような世界にしたいと思っています。

――― インターネットは、サイト閲覧など一方通行のコミュニケーションだった「Web1(ウェブワン)」に始まり、動画サイトやSNSの普及で双方向コミュニケーションが可能になったWeb2に進化しました。Web3は分散型で、データの改ざんが難しいことから、新しいデジタル経済圏の創出や個人によるデータや価値の管理を可能にする点などで注目されていますよね。

Web3は新しい技術なので、X(旧Twitter)やLINEのようにみんなが当たり前に使うアプリケーションはまだありませんが、いずれ出てくるでしょう。そのとき、こうしたアプリを扱うプラットフォームが必要になります。今、我々が力を入れているものの一つは、ソニーグループと一緒に取り組んでいる「Soneium(ソニューム)」というプラットフォームの開発です。「Googleストアやアップルストアのようなもの」と言えば、イメージしやすいでしょう。

一方、アプリとしては、秋元康さんや日本を代表するエンタメ企業4社と「YOAKE entertainment」(東京)を設立、ファンの熱量を可視化して価値にする「推し活」アプリを、ブロックチェーンを用いて作っています。今年3月に東京で開催されたイベント「IDOL RUNWAY COLLECTION(アイドルランウェイコレクション)」で実際に使ってもらいました。ファンが「どのアイドルを、どの順番でステージに登場させ、どんな曲を歌ってもらうか」といったことをデジタルで投票できるアプリで、1万2000人規模の参加がありました。

――― 一般にはなかなか難しそうな分野ですね。

Web3が社会に浸透していくときに、Web3の技術的な仕組みをみんなが知る必要はありません。Web2も、一般の方はプロトコル(通信規約)まで理解して使っているわけではないですよね。意識せずに使うツールの裏側の仕組みや、新しい体験や便利さを僕たちが作っています。Web2も便利ですが、現在のインターネットではデータが主に国家や大企業に集中し、中央集権的に一括管理されています。AIが進化してくると、「AIのためのインターネット」になる可能性もあります。僕たちが作りたいのは、「人間のためのインターネット」です。そのためにはデータの管理に個人の選択の自由があるべきです。個人のデータには本来的に価値があり、自分でコントロールしたい人たちに対して、選択肢を与えられるようになるのもWeb3の素晴らしい点です。

――― スターテイルグループについても教えてもらえますか?

スターテイルグループは、シンガポールを拠点に、日本、アラブ首長国連邦、韓国、クロアチアにオフィスがあります。ニューヨークにも近く開設します。従業員は20か国に80人ほど。そのうち日本人は15人ぐらいですから、やり取りは全て英語です。

Web3が実現する未来を熱く語る渡辺さん

吉田松陰に触れ、世界を歩き、起業を決意

――― 日本の大学で経済学部に進学されました。その後、世界に目を向けるようになったのはなぜですか。

僕が一番好きな偉人は、世界史だと古代ローマの将軍で政治家のユリウス・カエサルで、日本史では明治維新で名をはせた吉田松陰と坂本龍馬です。経営者ではソニー(現ソニーグループ)創業者の盛田昭夫さんを尊敬しています。その吉田松陰は、今の僕と同い年の29歳で、坂本龍馬も31歳で亡くなりました。しかし、彼らは没後150年近く経っても、現代の若者たちをエンパワーしている。すごいですよね。

大学入試後に、自分のルーツを探そうと、自分の本籍地である山口県を訪れ、吉田松陰の松下村塾(しょうかそんじゅく)があった萩市にも立ち寄りました。そこで、地方から日本のあり方を考えた吉田に改めて感銘を受けました。吉田が萩から日本を考えて行動したことは、現代に置き換えると、日本から世界を考えて行動することと同じではないかと考え、学生時代に一人で中国やインド、ロシアに出かけ、現地のNPOなどで働きました。当時、中国で大気汚染を、インドでは貧困を目の当たりにし、ロシアでは社会主義について考えさせられました。世界に一人で出ると、とても孤独です。その中で自然と「自分はなぜ生きるのか」を真剣に考えるようになりました。本もたくさん読みました。思想家・内村鑑三の「後世への最大遺物」、京セラを創業した稲森和夫さんの「生き方」などに大きく影響を受けました。偉人であれば尊敬する吉田松陰や坂本龍馬のように、経営者であれば最も尊敬しているソニー創業者の盛田昭夫さんのように、「生き方を後世に残したい」と思ったのです。

――― そして、Web3に着目されました。

「世の中で影響力がある人物を10人挙げて」と聞かれたら、政治家やIT起業家を思い起こす方が多いでしょう。トランプ大統領、石破首相、イーロン・マスク氏、ビル・ゲイツ氏…。政治の道なら、トップに上り詰めるまでにかなり長い時間を要するでしょう。一方、日進月歩のITやディープテック業界では、その時間を大幅に短縮し得るのです。Google共同創業者のラリー・ペイジ氏が「技術をテコにして世界に大きなインパクトを与えられる機会がそこらじゅうに転がっている。君たちみんながそのことに興奮するべきだ」と語ったように。それで、IT分野で起業しようと決めました。

ただ、既に完成している産業では、既存の会社が大きな地位を占めており、インターネットで言えばGAFA、AIでは米エヌビディアなどが存在感を示しています。これからの20年、30年を考えたときに、今はまだ発展途上のWeb3やデジタル資産であれば、チャンスがある判断しました。

ソニー・故出井元会長のメッセージを胸に

――― 勝算をどう見ていますか。

単に「日本だから」という理由だけで勝てるとは思っていません。現在のWeb3業界を総括すると、技術は進化していますが、誰もが使うようなアプリを流通させるためのチャネルが少ないのです。その点、僕たちは様々な企業と合弁を組ませてもらっているので、世界でもトップレベルの位置にいるのではないかと思っています。

実は学生時代に起業してほどなくして、ソニー元会長兼グループCEOだった出井伸之さんに出資していただきました。出井さんや初期投資家の方々には、「世界でプラットフォーム事業をやりなさい。目指す目標が高ければ失敗する可能性も高いが、倒れる時は守りに入るのではなく挑戦をしきって前に倒れなさい」と言われました。この言葉を今も時折、思い出します。

――― 2019年の創業で、22年には日本発のパブリックブロックチェーン「アスターネットワーク」のサービス提供を開始。その後も日本、韓国、東南アジアを代表する企業から相次いで出資を受けるなど、事業の展開が早いですね。

他の業界では10年かかるようなことが1年で、3年かかることが1ヶ月で起きても驚きません。僕が挑んでいるのは最初から「世界戦」。トップレベルのエンジニアや天才たちが寝る間も惜しんで取り組んでいます。僕自身は残念ながら天才ではないので、彼ら以上に頑張らないといけないのです。

それは、当たり前にできることを、当たり前じゃないぐらいとことんやる、ということです。例えば、週末もただ休むのではなく、経営力や見識を高めるために、一見無関係に思えるアートを見たり、ジャズを聴いたり、座禅をしたりと、何かをやっている自信があります。経営者である以上、社運をかけた決断を求められることは日常茶飯事。覚悟と自信を持って決断を下すには、日ごろから、誰でもできることを誰もできないくらいこなして、「これでだめなら仕方がない」と思えるまで突き詰めておくことが大事だと思っています。

何事にもとことん取り組む姿勢が、世界に挑む経営者の自信と迅速な意思決定につながっている

先人が築いた日本の存在感を引き継ぐ責任

――― 仕事にそこまで情熱を傾けられるのはなぜですか。

学生時代に厳冬のロシアを一人で歩いていて心が折れそうな時に、トヨタ車が走っているのを見かけました。我々のオフィスがあるクロアチアでは、ソニーのゲーム機「プレイステーション」の広告を見ました。厳しい時代を乗り越えて海外に進出した日本企業の製品が、現地で高く評価されている様を見て、日本人として誇らしくなりました。自分もそういうものを作らなければ、と鼓舞しています。今の20代、30代の僕らの世代は、先人達のおかげで、海外から尊敬されたり、評価されたりしています。その日本のプレゼンスを、僕より下の世代に引き継いでいく責任があると思います。日本の存在感が失われていくのは悔しいじゃないですか。スタートアップから現代のトヨタやソニーグループのような存在になる企業を、誰かが作らなくてはなりません。全くもって簡単ではありませんが、それが僕たちでありたいと思っています。

経営者として、会社の売り上げを伸ばすことは重要ですが、僕自身がお金持ちになって散財したいとか、フェラーリに乗りたいといった欲望はありません。それは、僕にはどうでもよいことです。そもそも僕はミニマリストで、車の免許も持っていません。やっぱり、日本のためになる仕事をしたいのです。100年後、200年後に自分たちに影響を受けて頑張ろうと思う若者が一人でもいれば、これ以上嬉しいことはないですね。

――― Z世代に向けて、アドバイスをお願いします。

僕らより若い人たちには、もっと海外に出て視野を広げてほしいと思います。海外に出て、他と比べて初めて理解できる日本の良さや悪さはいっぱいあります。パスポート一つをとっても、日本に対する信頼はとても厚いことに気付かされるでしょう。

世界に出なくてもネットやAIで瞬時に様々な情報が得られる時代で、物事を効率的に、合理的にこなし、経験を過小評価して知識だけが増えていくと、小さくまとまってしまいがちです。しかし、それでは、世界に真のインパクトを与えられるような仕事はできないでしょう。「合理的に、非合理に生きる」。そんな考え方で物事に挑戦してもらえたら、と思います。

【プロフィール】
渡辺 創太(わたなべ・そうた)
スターテイルグループCEO

横浜市出身。慶應義塾大学経済学部卒。大学在学中に米シリコンバレーにあるブロックチェーンスタートアップ企業に就職。帰国後、東京大学大学院ブロックチェーンイノベーション寄付講座共同研究員を経て2019年、現在のスターテイルグループの前身となる「ステイクテクノロジーズ」を日本で創業。22年1月に日本発のパブリックブロックチェーン「アスターネットワーク」のサービス提供を開始した。経済誌「フォーブス」アジア版で、「世界を変える30歳未満30人」に選ばれ、1年のうち10か月以上を海外で過ごす多忙な日々を送りながら、Web3の普及に力を注ぐ。日本ブロックチェーン協会理事。