
女性活躍が企業価値を高める!「なでしこ」「Nextなでしこ」企業が目指すダイバーシティの姿とは
女性活躍は「ダイバーシティ経営」の一丁目一番地だ。
政府は、2030年までにプライム上場企業における女性役員比率を30%以上とする目標を掲げ、有価証券報告書で「女性管理職比率」「男女間賃金格差」「男性育児休業取得率」の公表を義務づけるなど、女性登用の加速化を促す政策を推進している。
経済産業省も女性活躍を推進している優れた上場企業を「なでしこ銘柄」「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」に選定し、取り組みの促進と底上げを図っている。3月の政策特集最終回は、2024年度の「なでしこ」「Nextなでしこ」に選ばれた企業の取り組みを通じて、女性活躍の現在地とこれからについて探った。

東京証券取引所の大型チッカーに映し出された令和6年度「なでしこ銘柄」選定を祝うメッセージ
ジェンダー・ギャップ指数118位。現状打破目指し政策次々と
女性の社会進出は着実に進んでいる。民間企業などで活躍する女性の割合は上昇傾向にあり、就業者に占める女性の割合も諸外国とほぼ同程度の水準となっている。一方で、管理職に占める女性の割合は諸外国に大きな遅れをとっている。男女格差を示す指標である「ジェンダー・ギャップ指数2024」は146か国中118位というのが、日本の現在地だ。
経済産業省では、次世代の女性リーダー養成を目指し、様々な研修などを行う「WIL(Women’s Initiative for Leadership)」を2015年度から実施しており、2024年度までに295人が参加。そのうち約70人が執行役員以上のポジションで活躍している。また、女性のライフイベントと仕事の両立を図るため、フェムテックなどの製品・サービスを活用した実証事業への支援や、地域における女性起業家支援ネットワークの構築も全国で続けている。

令和6年度「なでしこ銘柄」選定発表会より
女性の活躍を推進する政策の中でも重要なものの一つがなでしこ銘柄だ。「なでしこ銘柄」は経済産業省と東京証券取引所が2012年度からスタートさせた。「女性活躍推進」に積極的な上場企業を、投資家にとって魅力ある銘柄として紹介することで、こうした企業への投資を促進し、各社の取り組みを加速化させることを目指している。
具体的には、東京証券取引所のプライム、スタンダード、グロースの各市場に上場している全ての企業を対象に、キャリア形成支援、両立支援の推進状況などを調査し、選定している。2023年度からは、女性活躍のためには、男女を問わない両立支援が重要であるという観点から、「男女を問わない共働き・共育て(両立支援)」に関する調査項目を拡充。新たに「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」の選定も始めた。
役員報酬の評価ポイントにも。トップが引っ張る三井金属鉱業
三井金属鉱業は2024年度、初めて「なでしこ銘柄」に選定された。執行役員 人事部長の杉元晶子さんは「社内の約20%を占めている女性に十分能力を発揮して活躍してもらうことは経営戦略そのものです」と強調する。
三井金属の取り組みを支えているのはトップや経営陣の強い意志だ。2021年4月に納武士氏が代表取締役社長に就任すると、専任組織の「ダイバーシティ推進室」を設置。第一歩として「女性活躍」の推進を強く打ち出した。「背景には、納社長がマレーシアの子会社社長時代、取引相手の海外企業で多くの女性が活躍しているのを目の当たりにした経験があります」と、杉元さんは語る。
具体的な取り組みとしては、管理職直前の女性社員全員をリストアップし、昇格の意思、能力、実際のパフォーマンスをチェック。部門長の責任で、必要な研修を実施しながら管理職登用を進めている。さらに若手社員についても、男女によらず人材の「パイプライン」を形成するため、各部署にどのような人材がいるのか、将来の幹部登用も意識しながら把握に努めている。その結果、特に女性社員については、ここ数年、各等級での昇進・昇格数が明らかに増えているという。
2023年度から、役員報酬のKPI(重要業績評価指標)に女性活躍推進の指標を加え、「譲渡制限付株式報酬」の評価ポイントにしたことも、取り組みを加速化させる原動力となっている。

「女性に十分能力を発揮して活躍してもらうことは経営戦略そのもの」と語る杉元さん
男性の育休取得に注力。業務の「属人化」排し製造現場にも広がる
女性活躍と表裏一体の関係にある、男性の育児休暇取得にも力を入れている。社内要所には社長自らが育休取得を促すポスターを掲示。ポスター内に添えられたQRコードを読み取れば、社の育児休業制度の詳細が見られるようになっている。特に三交代制で夜勤もある製造現場には、「人員が減ることによる恐怖感」(杉元さん)があったというが、いつ頃何人が取得しそうかということを明確にすることで具体的な対応のイメージができたり、育休取得の障害となっていた「業務の属人化」を解消して具体的なカバー体制を構築していったことで、ここでも男性社員の育休取得が広がりつつある。
こうした取り組みが功を奏し、2024年度に育休を取得した男性社員は62人となり、2021年度比で48人増加。平均取得日数も2021年度の16.1日人から24.3日に伸びている。
情報公開、育休充実など更に。女性比率を意識する必要のない職場目指す
表面上の数字を達成すればいいという消極的姿勢や「女性優遇策ではないか」といった不満の声もある。杉元さんは「ダイバーシティ推進の目的は、男女によらず全ての人がその人らしく生き生きと働けること。現在は女性活躍を中心に取り組んでいますが、『女性比率○%』などとあえて意識しなくても良くなるように、これまで進めてきたことを愚直に地道に続けて行きます」と強調する。
三井金属鉱業は来年度から、従業員と企業の信頼性を数値化した「エンゲージメント指数」など、新たに情報公開していくことを検討しているほか、育休を取得した際、給与だけでなく期末手当についても減額分の補填(ほてん)を開始するなど、女性活躍を中心に更にダイバーシティ経営を前に進めていく方針だ。
企業理念、経営戦略と密接に……。三越伊勢丹HDSの挑戦
「Nextなでしこ共働き・共育て支援企業」に選ばれた三越伊勢丹ホールディングス(HDS)は、経営戦略と「人財戦略」を密接に結びつけた形でダイバーシティ経営を進めた好例だ。
三越伊勢丹HDSは2023年4月、1万4000人にアンケート、1600回以上の対話集会を実施した上で、新たな企業理念を定めた。「お客さまの暮らしを豊かにする、“特別な”百貨店を中心とした小売グループ」を目指すビジョンを打ち出し、これを土台に「百貨店業」から「個客業」へと、ビジネスモデルを大きく転換してく経営戦略を掲げた。
「元々、長い歴史を持った伊勢丹と三越が一緒になり、それぞれ制度、仕組みを持っていましたが、企業理念や経営戦略と紐(ひも)付けた形で、『人財戦略』を整備する必要があると考えました」と執行役員・人事統括部長の白藤淳さんは語る。

企業理念や経営戦略と紐付けた形で、『人財戦略』を整備する必要性を強調する白藤さん
従業員、上司、会社が三位一体。「生涯CDP」に取り組む
大きな転換を実現させるために、「人財戦略」の基本方針である「人と組織の基本的な考え方」を策定し、従業員、上司、会社それぞれの責任を明確化した。従業員はそれぞれ自発的な成長を目指し、会社は一人ひとりのキャリアに沿って仕組みを整える。上司は対話によって部下のキャリアを支援していく。こうした「三位一体」の取り組みを、「生涯CDP(Career Development Program)として整理した。
白藤さんは、「『生涯CDP』は社長・細谷敏幸の造語です。上司の都合で部下を囲い込むのではなく、人生を長い目で見た時に、今その従業員にとって何が大切なのか、本人自らが考えるとともに、上司や会社もしっかりサポートし、一緒に考えていこうという構想です」と説明する。
「生涯CDP」の推進にあたっては、出産、育児、介護などライフステージに合わせた制度を整え、合わせて「適正な労働時間管理」「ハラスメント・ゼロ」に向けて行動指針を示した「労使共同宣言」を発信し、一人ひとりの異なるキャリアフェーズに寄り添う仕組みや環境を更に整備した

三越伊勢丹HDSが目指す「生涯CDP」の概念図
「チャレンジキャリア制度」で新業務に挑戦。「働きがい」にもつながる
また、自己研鑽や自らの希望を実現するために、自己申告で新しい職場に挑戦する「チャレンジキャリア制度」を導入。2024年度には271人が手を挙げて成就率25%だったが、数字以上に、自分のキャリアはどうあるべきか自発的に考える機運が社内に生まれるなど、企業風土にポジティブな効果があった。
こうした取り組みの結果、HDS傘下の三越伊勢丹で、2024年度の従業員エンゲージメント指数(5段階)が「働きがい」3.77(前年比0.05増)、「働きやすさ」3.92(同0.07増)といずれも向上。有給休暇取得率も85.9%と高く、休みを取りやすい職場環境から男性の育休取得率も100%を達成した。従来から、「働きやすさ」の数字は高いものの、「働きがい」が上がってこない傾向があったが、取り組みが功を奏して少しずつ上昇しているという。
前向きな企業風土を築き上げ、自然と女性が活躍する企業に
こうした取り組みは、結果として女性活躍にもつながると、白藤さんは強調する。
「私たちは女性が7割の会社です。女性向けの政策も大事ですが、やはり従業員全員が腹落ちして、前向きに取り組める企業風土を積極的に作り上げていく必要があると思っています。それを進めていけば、採用数、女性の管理職登用数など、女性の比率が高い分、自然と女性が活躍する機会が増えてくると思っています」
三越伊勢丹HDSは2030年、グループ全体で女性管理職比率を37%に引き上げるという目標を掲げている。
※本特集はこれで終わりです。次回は「AIに愛を」を特集します。