地域で輝く企業

【山梨発】挑戦を絶えず続け、「奇蹟の事業」を成し遂げる

山梨県北杜市 株式会社ミラプロ

八ヶ岳や甲斐駒ヶ岳などに囲まれ、ダイナミックな自然が国内外から多くの人をひきつける山梨県北杜市。ミラプロはその地で1984年に創業し、「ベローズ」と呼ばれる蛇腹状になった伸縮管や医療機器、そして高精度の検査装置などの製造販売を幅広く手がけてきた。「ミラクル・プロジェクト」、すなわち「奇蹟の事業」という想いを社名に込め、挑戦し続けることで、不可能と思われてきた事業を次々と実現。昨年創業40年を迎え、「奇蹟の創造」「たゆまぬ努力」「豊かさの追求」という創業時からの経営理念を再確認し、AIなどの最先端技術も貪欲に取り入れながら、新しい市場を切り拓いている。

広大な敷地に広がるミラプロの工場群。近くには社員寮や社員の子弟優先の保育園などもある

中学教師から一転、工場を起業

ミラプロを創業したのは、津金洋之社長の父の津金洋一会長。津金会長は地元の山梨大学を卒業してから20年間、中学校で数学教師を務めていた。それに区切りをつけて起業したのが1984年。当初は複写機などの基板の組み立てを手がけ、下請けの仕事が中心だった。ところが受託業者の限界を感じ、「自らモノを作り出し、提案できるメーカーになりたい」と思っていた。そんな時に出会ったのが現在の主軸事業のベローズ製造だったという。本格的に製造を始めたのは1995年から。

長年培われた溶接技術は国内でも高いレベル

ベローズは産業に不可欠の部品

もっとも、門外漢にとって「ベローズ」と言われてもピンとこない。「蛇腹になった管だと思ってください」とミラプロ取締役で技術開発本部長の矢代昌彦さんに教えてもらった。それを何に使うのか? ベローズは自動車のエンジンから航空機、原子力発電、半導体製造、そして石油・ガスパイプラインまで幅広く使われている。ベローズは機密性が高く、伸縮性もあり、気体や液体の封止や衝撃吸収や熱収縮の吸収などに役立つため、矢代さんによると、モノづくりの世界では「ネジ」と同様、必要不可欠な存在だ。

様々な形状の溶接ベローズ。触ってみると伸び縮みする

技術の高さが評価され、KAGRAにも参画

ベローズは溶接や成形によって作られるが、いずれも高度な精度を要し、ミラプロは国内でトップシェアを誇る。その技術が評価され、岐阜県飛騨市に設置され2022年から観測が始まった大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」のための長さ3キロ、直径800ミリの真空ダクトとベローズなどの製造をミラプロが手がけている。

KAGRAに使われた大型のパイプをミラプロが手がけた

世界初の商品を独自に開発し、海外市場を開拓

2002年以降、海外展開も本格的に行い、医療分野にも進出。2012年には事業承継が行われ、津金洋一氏が会長に、津金洋之氏が社長にそれぞれ就任。以来、半導体や医療、食品など様々な分野で組み立て、加工、検査を行うFA(工場の自動化)の開発にも取り組んでいる。そうした中で新しく取り組んだ事業も形を見せ始めている。

今年2月、イタリア・ミラノで開かれた国際眼鏡見本市でドイツの企業と協業。現地の代表と握手をする津金社長(左)

AIを活用して眼鏡レンズを検査する「HAWKAEYE(ホークエーアイ)Lシリーズ」

2022年に発表した、AIで眼鏡レンズを検査する「HAWKAEYE(ホークエーアイ)Lシリーズ」はその一つ。HAWKAEYEは自社ブランドの検査装置で、光を遮断した専用装置の中で眼鏡レンズに照明を当てて撮影し、画像をAIで分析。様々なサイズ、形状のレンズに対応していて、微細な傷やレンズの中の気泡などを検出できる。運用を続けることでAIが傷の特徴などを学習し、判定精度がさらに向上していくという。今年2月には眼鏡レンズのコーティングなどを手がけるドイツの企業と戦略的協業をすることになり、ヨーロッパでの販路拡大を目指す。

水素液化システムの開発にも取り組む

また、科学技術振興機構の未来社会創造事業「磁気冷凍技術による革新的水素液化システムの開発」にも参画。脱炭素のエネルギー源として注目される水素を効率的に液化するシステムの開発に取り組んでいる。水素ガスを液化すると約800分の1に圧縮でき、運搬などが格段にしやすくなるという。「やがて訪れる水素社会に貢献すべく、エネルギーの研究開発に引き続き取り組んでいきたい」と矢代取締役は話す。

失敗を恐れず、挑戦する気風を多くの社員が共有する

ミラプロの大切にする企業哲学を全社員で共有

実際、ミラプロの事業はベローズ製造を中核に多岐にわたる。それに合わせて企業としても成長を続けてきた。2024年度は売上高約330億円を見込む。2008年度と比較すると約3倍の伸び。社員も800人近くになり、創業40年を迎えた昨年、津金会長がことある毎に話してきた言葉を『ミラプロフィロソフィー』という一冊の本にまとめた。「ミラクル・プロジェクト」実現のために、失敗を恐れず、果敢に挑戦し続ける「ミラプロフィロソフィー」を全社員で共有するのが目的だ。

 

創業40年を機にまとめられた『ミラプロフィロソフィー』

ミラプロの今後について矢代取締役はこう話す。「次の節目となる創業50周年に向け、本当の意味での人々の豊かさと、持続可能な社会への貢献を高めていきたい。テクノロジーの重要性が加速する今だからこそ、グローバルな視点で社会課題に向き合い、世界に誇る技術力と実現力でモノづくりのイノベーションに挑戦していくつもりです」。地域で輝き続けるため、失敗を恐れず、挑戦を絶えず続けるミラプロが次にどんな事業を打ち出すか、その「ミラクル」から目を離すことができない。

【企業情報】▽公式企業サイト=https://www.mirapro.co.jp/▽代表者=津金洋之社長▽社員数780人(2024年4月現在)▽資本金9750万円▽創業=1984年6月30日