
買物困難者を救え!経済産業省が「新たな流通事業コンテスト」で目指すものとは

ウエルシア薬局の移動販売車「うえたん号」(埼玉県横瀬町にて)
少子高齢化が深刻な過疎地を中心に、日常的に買物に行くことができない「買物困難者」が増えている。人口減で地元店舗が閉店したり、路線バスなど公共交通機関が廃止されたりしたことが原因だ。農林水産政策研究所の試算によると、国内の買物困難者は2020年時点で約904万人。地域の事情に沿って、多様な取り組みが求められている。
そんな中、経済産業省は2024年度、買物困難者対策につながる民間の取り組みを表彰する「買物困難者対策に資する新たな流通事業コンテスト」を初めて開催した。様々な業種の企業から29件の応募があり、2025年2月26日に都内で開催された表彰式では、5社の取り組みが優秀賞を受賞した。
ウエルシア薬品、移動販売車「うえたん号」を運行
大手ドラッグストア「ウエルシア薬局」(本社・東京都)は移動販売事業で優秀賞に選ばれた。軽トラックを改造した移動販売車「うえたん号」に、洗剤、マスク、紙おむつなどの生活日用品や化粧品のほか、生鮮食品や弁当、菓子などの食料品、顧客からの事前注文があれば医薬品も載せ、スーパーマーケットなどの商店がない地域を巡る。車には冷蔵庫や冷凍庫に加えて、大型モニターも備え、拠点店舗にいる薬剤師や管理栄養士らとオンラインでつないで健康相談も実施する。
商品は、500~600品目と、移動スーパーと比べても遜色ない。車にない商品はオンラインカタログから注文することができ、次回の巡回時に受け取れる。販売価格は店舗と同額で、クレジットカードやキャッシュレス決済が可能。公共料金等の支払いもできる。

埼玉県行田市内で運行する移動販売車「うえたん号」
「近い将来の黒字化を目指す。地域のためのツールに」
ウエルシア薬局地域包括推進部の星晶博部長は「コロナ禍で地域コミュニティーが希薄になったという背景があり、地域との協働の取り組みの一環としてコミュニティーの創出・醸成をしていこうと始めました」と話す。2022年5月に静岡県島田市で第1号車を走らせ、2025年1月現在では埼玉県の16か所を筆頭に30市町で32台を運行している。当初は中山間地を中心に進めてきたが、最近は埼玉県川口市、東京都町田市といった都市部にも広げている。
ただ、現時点で移動販売事業は、あくまでCSR(企業の社会的責任)の一環。単月単体で黒字になることはあっても、継続的な利益を確保するビジネスとして成り立つには至っていないのが実情だ。星部長は「買物困難者の問題は今後間違いなく加速していく。工夫して収益性を上げ、近い将来には安定的な黒字化を目指し、地域活性のためのツールにしていきたい」と意欲を示す。
ローソン、過疎地に「地域共生コンビニ」を出店
コンビニエンスストア大手「ローソン」(本社・東京都)は、地元スーパーマーケットが閉店するなどした過疎地に「地域共生コンビニ」を7店舗展開し、優秀賞を受賞した。
第1号店は2023年12月、千葉県銚子市の銚子市立病院に出店した。周辺にはスーパーや食品小売店がない地域。病院内の売店が撤退したのに伴って、市からローソンに出店の打診があった。
ローソンでは収支を試算した結果、ビジネスとして成り立つと判断。撤退した売店の内装をそのまま使ったり、陳列棚をリユースしたりして、出店コストを大幅に下げた。土日祝日や平日夜間は病院職員専用とし、セルフレジによる無人営業で人件費も抑制している。

ローソン銚子市立病院店(ローソン提供)
コインランドリー併設、生鮮品を充実…地域の実情に合わせ黒字化
2024年には北海道、長野県、和歌山県などで計6店を出店。撤退した店舗の内装をそのまま使ったり、自治体の補助金を活用したりして、いずれも出店コストを低く抑えた。それぞれの地域の実情に合わせた店舗運営により、おおむね黒字化を達成している。
例えば、北海道厚真町の上厚真店ではコインランドリーを併設し、地域住民のコミュニケーションの場となっている。最寄りのスーパーまで車で30分以上かかる和歌山県龍神村の龍神村西店では、生鮮品の品揃えに力を入れた。秋田県由利本荘市の由利本荘鳥海店では、地元スーパーと連携し、ローソン提供のものだけでなく、地元スーパーの商品も販売している。

鳥取県八頭町ではオープン初日に平井知事も駆けつけた(ローソン提供)
ローソンによると、地域共生コンビニは規模、品揃えとも通常のコンビニ店と同様ながら、売り上げは想定以上。周辺に他の店舗がないため、欠かせない存在として客単価が高くなるためだ。コンビニはスーパーと比較して人口の少ない地域でも採算が確保できる。ローソンとしては全国的な物流網を持っている特性を生かし、地域と連携して買物困難エリアへの出店を進めていく方針だ。
開発本部 法人ビジネス部の新沼秀樹部長は「ただ単に買物をする場所ではなく、住民同士のコミュニケーションの場になるような工夫が必要です。売上高が少なくても成り立つ仕組みができれば、出店できる地域は広がります。地域ごとのニーズに応える店作りをしていきたい」と話す。
「買物機能をいかに維持していくかは地域創生のコア」
今回開催された「買物困難者対策に資する新たな流通事業コンテスト」の狙いは、業態として多様化する流通業の中で買物困難者の課題を解決しようという取り組みを発掘し、光を当て、全国的な横展開につなげることだ。いまは高齢者であってもスマホやキャッシュレスが昔よりも普及し始めており、各社の取り組みも多種多様。さらに、ただ商品を供給すればよいということだけではなく、買物という行為自体の楽しみ要素といったヒューマンタッチの部分を残している事例も多くあった。書面による1次審査で10件が最終審査に進出。最終審査ではオンラインによるプレゼンテーションが行われ、75インチのデジタルディスプレイに表示された実物大の商品を見て買物ができるサービスや、ドローン配送による食料品の提供など多岐にわたる事業が紹介された。提供価値や実用性、新規性・革新性の3つの観点で審査が行われた結果、5件が優秀賞に選出された。
審査委員長を務めた経済産業省消費・流通政策課の平林孝之課長は「甲乙つけがたく、可能性を秘めた事業ばかりでした。買物の場所がなくなると、コミュニケーションの場がなくなり、地方崩壊につながる一つのきっかけになると感じました。買物機能をいかに維持していくかは地方創生のコア。流通業にとって、ますます重要な課題になると考えています」と話していた。
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