今どきの本屋のはなし

書店と図書館、手を携えて前へ! 店頭で蔵書返却、館内で購入注文…

本を借りて読むのか、買って読むのか。

読者にとっては単に選択するだけのこの問題によって、書店と図書館はライバル関係にあると見られていた。しかし近年、本を読む人自体が減っている中で、この関係が大きく変わろうとしている。本好き、読書好きの人を増やそうと、ともに手を携えて新たな取り組みを展開するケースを紹介する。

地域の書店、図書館の本の受け渡しサービス

東京都町田市の住宅街にある久美堂(ひさみどう)本町田店が2023年5月に始めたのが、店頭で図書館の本を借りたり、返したりすることができるサービスだ。

受け渡しの対象となるのは、市立図書館計8館と市民文学館が所蔵する書籍や雑誌。借りたい本がある場合は、インターネットで予約し、本が図書館から届くとメールやはがきで連絡が入る仕組みだ。一方、返却時は店内のカウンターに返してもいいし、入り口外にある専用ポストに入れてもOKとなっている。

久美堂本町田店のカウンター内の棚。手前が予約が入っている図書館の貸し出し本

図書館の本の返却は本町田店入口前の専用ポストでもOK

久美堂は1945年12月、JR町田駅近くの商店街で開業した。当初は2坪しかない店舗だった。モットーは「地域に根ざした書店」。地域密着型の企画を数多く手がける。

例えば、「サンタさんがおうちにやってくる」。これは、毎年12月24日、25日の2日間、本を3000円以上買ってくれた町田市内の家庭に、書店員がサンタの衣装で本を届けるサービスで、地元のクリスマス会などでも利用できる。

地元の桜美林中学校の生徒が、自分の好きな本について作ったPOPを本とともに久美堂店舗内などで展示する「魂のPOPフェア」も毎年好評だ。このほか、「ペイ・フォワードBOOK in Machida」の活動にも積極的に関わっている。これは、地元の青年会議所出身者が中心となって行っているもので、18歳以上の大人に呼びかけて自身が読んで影響を受けた本を1冊挙げてもらい、見ず知らずの町田市内の中高生にメッセージとともにプレゼントしてもらう取り組みだ。

図書館運営で「市民と本との接点増やす」

そんな久美堂の転機となったのが、2022年から町田市の鶴川駅前図書館(能ヶ谷)の指定管理者を受託したことだ。

市が指定管理者を募集していることを知った久美堂の井之上健浩社長(42)は「町田市で本にかかわることなら、すべて引き受けたい」とすぐに運営参画に手を挙げた。その時、井之上社長は市の担当者にこんな説明をした。「図書館を運営することで儲けようとは思っていません。市民と本とのタッチポイント(接点)を増やすためにいろいろ努力したい。それが、長い目で見れば本業の書店のメリットにつながります」。冒頭の図書館の本の受け渡しサービスも、この思いを元に始めたものだ。

ただ、実際に図書館の運営を始めてみると書店経営との違いを改めて実感することになった。書店は1冊1冊、売り上げを積み重ねていけばいい。しかし、図書館は来館者数と貸出冊数が評価の基準で、市から年間の予算を受け取り、そこから必要な費用を引いていく。「光熱費や人件費が上がったら、何かを削減しなければならない。書店なら人気のある本をたくさん並べればいいのですが、図書館ではそうはいかない」と井之上社長は語る。

町田市立鶴川駅前図書館の館内。蔵書は約11万冊

来店者増 児童書など売り上げアップ

本町田店で図書館の本の受け渡しのサービスを利用する人は1か月にのべ約400人、本の受け取りは800冊強、返却は約1500冊に上る。毎月の来店者が400人以上増えたことで、思わぬ効果も表れている。児童書や学習参考書の売り上げが前の年に比べて1割から2割アップしたのだ。貸し出し中のため図書館で借りることができなかったり、本を返却した後も子どもが「また読みたい」と思ったりした児童書のほか、図書館に置いていない参考書が買われているのだ。井之上社長は「自分の本を買うのは我慢しても、子どもの本は買ってあげたいという親が多いのでは」と推測する。

久美堂本町田店の店内。図書館の本の店頭受け渡しサービスを始めてから児童書や学習参考書の売り上げが1~2割アップした

図書館の運営を始めて考えることもある。

書店で本が売れれば、著者に印税が入る。一方、図書館で貸し出された場合は著者には一銭も入らない。ならば、1冊貸し出しがあれば著者にいくらか入るような仕組みができないだろうか。著作権料をめぐる作曲家・作詞家とカラオケのような関係を作れないだろうか。

図書館の利用者にお金を払ってもらうわけにはいかないから、支出元や支援元が必要になる。井之上社長は「本を書く著者がいないと、書店も出版社も立ち行かなくなってしまう」と話し、何らかの方法で著者を育てることが書店業界を元気にすることにつながると指摘する。

人材の確保も課題だ。「例えば書店に社員として10年間勤めたら何か資格を得られるというような仕組みを作れないでしょうか。経験豊富で知識がある書店員なら、図書館の仕事も十分こなせることが受託事業で実証できました」と井之上社長。

書店の本業を安定させながらの図書館の運営は大変だ。今後、ほかの図書館の運営の話があったらさすがに断りますか?

すぐに答えが返ってきた。

「地元のためになる形であればやりたいですね。市民と本のタッチポイントを増やせますから」

「市民と本のタッチポイントを増やしたい」と語る井之上社長

館内の購入注文票に記入、受け取りを地元書店で

書店が図書館を運営する話の次は、図書館が書店を支援する例を紹介したい。

2011年に開館した福島県白河市の「白河市立図書館~りぶらん~」は、利用者が購入したい本の注文を窓口で受け付け、市内の書店に発注している図書館だ。「地元の書店の支援という意味と、書店と一緒に歩いていきたいという思いから始まりました」と中沢孝之館長(56)は話す。

図書館には注文票が備え付けてあり、ほしい本の名前と連絡先を記入すればOK。注文票には市内の三つの書店名が記載されていて、受け取りをする書店にマルをつける。本が入荷すれば、書店から注文者に連絡が入る仕組みだ。

地元書店との協力を進める福島県の白河市立図書館(白河市立図書館提供)

図書館によると、利用者からの注文は月に2、3冊程度。図書館で借りて心に残った本、手元に置きたい本などジャンルは様々だという。図書館で借りようとしたが人気で予約がかなり先まで埋まっているため、書店に注文する利用者もいるという。

本を購入したい場合には、注文票に記入して窓口に出す(白河市立図書館提供)

白河市書店組合の代表を務める「昭和堂」の鈴木雅文社長(67)は「図書館の利用者からの注文は売り上げとしては大きくはありませんが、図書館で借りることが多い人が書店に来てくれるのはありがたい。次は書店で買おう、注文しようというきっかけになる」と語る。

蔵書購入も地元書店から 「地域の文化守るため」

図書館の蔵書も、すべて市の書店組合が納入している。週に一度、図書館の司書が選書会議を開いて、注文する本を決める。「書店側も納品する本にフィルムコーティングしたり、バーコードを付けたりする装備などで協力しています。地元の書店をまったく介さずに本を仕入れる図書館も増えていますが、白河市の書店と図書館はウインウインの関係。これを続けていきたい」と鈴木社長。

中沢館長も「図書館と書店は、どちらか一方でいいということにはなりません。地域の文化を守っていくためには協力していくことが大切だと思っています」と話す。役どころは異なるが、手を携えれば双方にメリットがある――白河市の取り組みは、その好例と言えそうだ。

白河市立図書館の館内。市立4図書館の蔵書数は計約40万冊(白河市立図書館提供)

「図書館と書店は協力していくことが大切」と語る中沢館長(白河市立図書館提供)