今どきの本屋のはなし

中学生「店員」受け入れ、よろず相談所化… 地元の暮らしと濃密に生きる書店

福島市の西沢書店には毎年6月になると、新顔の店員さんがお目見えする。新人の従業員ではない。様々な職場を体験してもらうために福島市が行っている「中学生ドリームアップ事業」で書店を希望した生徒たちだ。9月上旬までの間、中学2年生の生徒が毎週2人ずつ、3日間から5日間書店の仕事を体験する。体験学習は2001年から続いていて、初々しい中学生店員の姿を見て、「今年も、この季節になったんですね」と笑顔を見せる常連客もいるという。

創業116年の西沢書店(福島市大町)

中学生店員の仕事は午前9時の朝礼からスタートする。まずは、新聞の書籍広告の確認だ。広告を見て「この本がほしい」と店を訪れる客も多いからだ。店内の掃除をして9時30分に開店。カウンターでの接客のほか、入荷した本を並べたり、返品する本を箱に詰めたり。POP作製も手がける。

職場体験で本を売る仕組みも知ってもらう

西沢書店取締役支店長の古川博さん(52)は、職場体験の初日に生徒たちに必ず話すことがある。

「お弁当屋さんとか、お総菜屋さんだったら、夕方になったら値引きすることもあるよね。でも、本は売れ残ったから3割引きにします、なんてチラシ見たことないでしょう。だから日本のどこに行っても同じ値段で本が買える。そこが書店と他の店と一番違うところです」

職場体験では、様々な作業を通じて再販や委託販売など、「本を売る仕組み」自体も理解してもらうようにしているという。

2024年に西沢書店で職場体験をした市立渡利中学校の生徒はこんな感想を寄せてくれている。

「作業の一つ一つ、自分たちが当たり前のように利用していたもの全て、お客様の快適を考え、大変な作業をしていたことが分かりました」

職場体験をした福島市立渡利中学校の生徒が作った報告新聞(上)と職場体験用の青いエプロン

中高生が作る「推し本」POP コンテスト好評

1909年(明治42年)創業の西沢書店は、福島市内の公立・私立の小学校、中学校、高校計約80校の4割に教科書を納入していることもあり、これまでも学校の教員や図書館司書とは接する機会は多かったが、児童・生徒と接することはまれだった。職場体験は、書店側にとっても次世代の若者と触れ合う貴重な機会になっている。「中学生に人気がある本や、授業が始まる前の朝の読書活動で読んでいる本を教えてもらうこともあります」と古川さん。コロナ禍で職場体験ができなかったときは、中学校に招かれて書店の仕事について話をした。

2024年は「わたしの【推し本】POPコンテスト」を実施した。福島市内の中高生を対象に、おすすめの本のPOPを作って送ってもらい、優秀なPOPを書いてくれた人に著者のサイン入りの本をプレゼントする企画だ。入賞作品は本と共に店頭に展示した。応募作品は728点。古川さんは「想像を超える応募があって驚きました。出版社が作ったPOPは、売りたいという気持ちが透けて見えるものが多いんですが、中高生のPOPは、自分の感性をストレートに表現していて、審査員にもそこが好評でした」と振り返る。

西沢書店の1階売り場

参加型がカギ 街の文化と情報発信の拠点に

POPコンテストを通じて、古川さんが実感したのが「参加型」というキーワードだ。

「これまでの書店の品ぞろえには、書店員が選んだ本だから面白いというおごりに似た気持ちがあったと思います。お客さんを含めていろいろな人が面白いと思う本を加えた売り場づくりをしていく必要がありますね」

地元の教員や著名人などによるおすすめ本のコーナー。2024年12月には、福島市在住の詩人・和合亮一さん、歌人・齋藤芳生さんのおすすめ本が並んだ

西沢書店の店内には地元の学校の教員や図書館司書、文化人、企業トップらの「おすすめ本」の棚もある。これも地元の様々な人に参加してほしいという理由で設けたコーナーだ。営業部長の松本照実さん(44)は「いかに本好きの人を増やすか、本を読む習慣を定着させるか、そのきっかけ作りのための努力を続けたいですね」と語る。

西沢書店の入り口を入ったすぐの柱には、「文化情報発信館」と大書してある。書店は書籍や雑誌を売るだけではなく、街の文化の拠点、情報発信の中心となるべきだとの思いが込められているからだ。「買わなくてもいいですから、10分間だけ、売り場を眺めに来てください。いまの社会、世相がわかり、アンテナ感度のよい人になれます」。古川さんは、そう話した。

入り口近くの柱にある「文化情報発信館」の文字

「書店の売り場を見ると、社会や世相がわかります」と語る古川さん

超多彩サービス! 過疎地域住民の声に応え

本や雑誌、文房具だけではない。化粧品、コインランドリー、コーヒーショップ、精米、そして美容院……。

過疎地域にある「ウィー東城店」(同店提供)

広島県庄原市の「ウィー東城店」で扱っている商品、提供しているサービスは多岐にわたる。業種で言うと、いくつになるだろうか。「うーん。どのくらいあるだろう。20じゃきかないですね」。店を経営する佐藤友則さん(48)は首をひねりながら、「でも、『こうしたい』『ああしたい』と僕が思いついて始めたことはほとんどありません。地元のお客さんと話しているうちに、『こんなのがあったらいいな』『あんなのはどう?』と言われて対応しているうちに、今の形になったんです」と語る。

庄原市は、全域が過疎地域に指定されている。国勢調査によると、2005年は人口43,149人だったのが20年は33,633人で、これに伴って商店数(事業所数)も1994年から2016年までの22年間に438事業所(45.2%)減った。ウィー東城店は、身近な商店がなくなって不便を感じている地元の人たちの期待を背負いながら営業を続けてきた。

ウィー東城店に行けば、あれも買える、これもやってもらえるとなれば、ますます頼りにされる。パソコンの使い方から、年賀状のあて名書きまで、よろず相談所のようだ。ただ、ひところに比べてパソコンについての相談は減ったという。「会社でパソコンを使って仕事をしていた人たちが定年を迎えて、パソコンに強い人が身近にいるケースが増えているようです」と佐藤さん。一方で、何十年も前に購入したというヘッドホンステレオや扇風機の修理の相談に訪れる人が目立つという。

ウィー東城店の店内(同)

新規開店を楽しく 手伝いに150人駆けつける

佐藤さんは2024年5月、庄原市の中心部に新しい書店「ほなび」を開店した。

「森でマイナスイオンを感じて癒されるのと同じように、本を浴びて人々の心を癒す場所でありたい」との思いを込めた造語を店の名前にした。

開店準備のおもしろさを体験してもらおうと、フェイスブックや地元紙で呼びかけたところ、庄原市の内外から3日間で延べ150人以上の人が駆けつけてくれた。愛知県、奈良県から来てくれた人もいた。「一般的には書店の開店準備には、取次会社の人や系列の店の人たちが応援に来てくれます。ただ、そのときのテンションがあまり高くないんです。もちろん、仕事ですから仕方ないんですが、『本を棚に詰めて本屋ができていくなんて、こんなおもろいことない』というのが僕の気持ちです」と佐藤さん。だから、あえて一般の人に参加してもらったという。佐藤さんは「全国どこに行っても同じような書店ばかりになってしまっているなかで、棚に本を詰める人の気持ちがある程度入ってもいいんじゃないか。これは本屋だからできるんです」と話す。

ウィー東城店とは違い、「ほなび」には基本的に書籍や雑誌、文具以外は置かない。佐藤さんは「ウィー東城店は、僕が店に入って24年間、進化し続けてきて、どういう書店が地域に必要なのか、ひとつの答えが出ています。でも、全国で真似するところはありませんでした。だったら、『ほなび』は本だけでいこうと思っています。日本各地の書店のモデルになれば」と挑戦を語る。

本の力を信じ、地域課題解決へのアイデアも

書店には、ありとあらゆるジャンルの本がある。

「人生で本当に困ったときに周りに相談できる人がいなかったら、本屋に来ると、本に救われることもあるはずです」。ネットの検索では、自分が「こう答えてほしい」と思う答えばかりが見つかる。本では、思いもかけなかった言葉や考えに出会うことがある。だから書店が必要なのだと佐藤さんは信じる。

佐藤さんは今後、地域の空き家や空き店舗を活用した取り組みも考えている。例えば、空き店舗に中学生や高校生の自習室を作り、そこに学習参考書を売るコーナーを設ける。自習室に限らず、様々なバリエーションが考えられるだろう。「こうした実験がうまくいけば、空き家問題が少しずつ解決していく、そして無書店地域も減っていくのではないでしょうか」

書店が地元を大事にすれば、地元も書店を盛り上げてくれる。地域と書店とのパートナーシップがお互いを元気づけていく。佐藤さんの書店経営のアイデアは尽きない。

「ほなび」の店長に抜てきされた原田彩花さん(23)。「地域の方々とのつながりを大切に、必要とされる本屋さんにしていきたい」と語る(原田さん提供)

「ほなび」の人気のコーナーの一つ、書店に関する本を集めた「書店本」の棚(同店提供)