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物流効率化へ4月から新制度、荷主の意識改革で「荷待ち・荷役時間」短縮へ
トラック輸送は国内貨物輸送量の9割を占めており、日本の物流はトラック輸送がなければ成り立たない。物流を支えるトラック運転手の長時間労働是正を目的に、2024年4月から、年間の残業時間を960時間以内とするよう規制が強化された。しかし、運転手の拘束時間は短くなったものの、トラックが倉庫などで順番を待つ「荷待ち」や、荷物を積み降ろす「荷役」などの作業時間は減っていないのが現状だ。結果的に運転する時間が減ることにより、輸送力の低下が懸念されている。政府は、2025年4月に一部を施行する「改正物流効率化法」で、企業の規模を問わず全ての荷主に「荷待ち・荷役時間の短縮」と「トラックの積載率の向上」の努力義務を課し、物流の効率化を図っていく方針だ。
ファミリーマート、ローソンは東北地方で共同輸送
物流業界の危機感は強く、企業の枠を超えた共同輸送など、効率アップに向けた取り組みが始まっている。コンビニ大手のファミリーマートとローソンは2024年4月から東北地方の一部で、アイスクリームや冷凍食品などを同じトラックに混載する共同輸送を始めた。
配送ルートはファミリーマートの物流拠点(宮城県多賀城市)からファミリーマート用商品を積載して出発し、ローソンの物流拠点(盛岡市)でローソン用商品も積載する。その後、秋田市にあるローソンとファミリーマートの物流拠点でそれぞれの商品を降ろす。物流が比較的安定している4〜6月と9〜11月の一部の曜日で実施しており、1回でトラックの移動距離を120キロメートル減らして、CO2排出量を約60キロ削減できるという。
パレット積み、トラック予約システム…導入に努力義務
トラック運転手の働き方に関する現状を見ると、年間の労働時間は全産業の平均(2124時間)よりも約2割長く、大型トラック運転手は2568時間、中小型トラック運転手では2520時間となっている(2022年)。年間の所得額は近年、微増傾向にあるが、全産業の平均に比べ5~10%程度低い水準となっている。また、貨物量などの変化では、貨物1件あたりの貨物量が直近の20年で半減(2021年で1件あたり0.83トン)する一方、物流件数はほぼ倍増しており、物流の小口多頻度化が急速に進行している。物流が切迫してきた背景には、企業(荷主)が物流をコストとしてのみ捉え、安価に抑えようとする傾向が続き、しわ寄せがきたためと言われている。
統計によると、2010年以降、トラックの積載率は平均40%以下の低い水準で推移しており、政府はこれを44%に引き上げることを目指している。また、現状約3時間と推計されている「荷待ち」「荷役」の時間を2時間以内に収めることを目標に掲げている。
物流の停滞が懸念される「2024年問題」の解決に向けて、国は2023年、「物流革新に向けた政策パッケージ」を策定した。荷主、物流事業者(運送・倉庫等)、消費者が協力して我が国の物流を支えるための環境整備に向けて、(1)商慣行の見直し、(2)物流の効率化、(3)荷主・消費者の行動変容、について抜本的・総合的な対策を挙げた。このパッケージに沿って、具体的な取り組みを盛り込んだのが「改正物流効率化法」だ。
2025年4月に一部が施行されるこの法律では、荷主、物流事業者に対し、物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務を課し、それぞれの措置について国が具体的に取り組むべき事項として判断基準を策定する。
荷主(発荷主・着荷主)には「荷待ち時間の短縮」「荷役等時間の短縮」「積載効率の向上」が求められる。具体的には、「荷待ち時間の短縮」では、トラックが一時に集中して到着することがないよう、トラック予約受付システムの導入や、混雑時間を回避した日時指定により、貨物の出荷・納品日時の分散に取り組む。「荷役等時間の短縮」では、パレットなどの輸送用器具の導入や検品を効率化することにより荷役作業の効率を図る。「積載効率の向上」では、トラック事業者が複数の荷主の貨物の積み合わせに積極的に取り組めるよう、実態に即した適切なリードタイム(商品発注から納品までにかかる時間)を確保し、荷主間の連携に取り組む、などの措置が求められる。
日清食品・JA全農、「ラウンド輸送」で運転手の拘束時間7%減少
経営層同士が「外交」によって手を握り、原材料と製品を扱う取引先同士での「垂直連携」を実現したのが日清食品とJA全農が2023年7月に開始した共同輸送だ。積み込んだ荷物を目的地で降ろした後、別の荷物を積み込んで出発地まで戻ることで、空車回送区間を減らし車両の配送効率を高める「ラウンド輸送」を、「岩手-茨城間」と「福岡-山口間」の2エリアで実施している。
「岩手-茨城間」では、岩手にあるJAおよびJA全農の米穀倉庫から関東の精米工場へ米穀を輸送した後、同じトラックで茨城にある日清食品の生産工場から岩手の製品倉庫へ即席麺を運ぶ。これによりトラック実車率は12%高まった。「福岡-山口間」では、福岡にあるJA全農の精米工場から山口にある日清食品の生産工場に原料米を輸送した後、同じ工場で生産した即席麺などの製品を福岡にある日清食品の製品倉庫に運ぶ。「荷降ろし」と「積み込み」が同じ場所でできるほか、空きパレットなどの物流資材を商品と一緒に福岡に戻せるメリットもある。トラックの積載率は9%アップし、ドライバーの拘束時間は7%、CO2排出量は17%削減できたという。
危機感をテコに、経営層の理解が後押し
一般的に取引関係がある企業同士では、「売り手」と「買い手」、「発荷主」と「着荷主」という立場の違いがあり、いざ共同輸送を進めようとしても取引条件に影響することが障壁になると言われる。では、両社はどのように実現したのか。
日清食品では5年ほど前、物流体制の構造的な問題から顧客に商品が届けられない事態が起こりかけたという。これをきっかけに「物流クライシス」への危機意識が高まり、社内に物流構造改革チームが結成された。
日清食品とJA全農との米の取引は古く、「日清カレーメシ」などカップライス向けの加工用米の多くをJA全農が供給してきた。こうした取引関係をもとに、物流の課題について意見交換を始めたのが2022年。以降、様々な切り口から検討を進め、現場でのトライアルを繰り返し、2エリアでの共同輸送にこぎつけた。
日清食品アライアンス推進室の安藤康輔係長は「運行頻度、ルート選定、積載量、車両手配など調整すべき課題は山ほどありました。しかし、共同輸送の実現に向けた双方の協議の中で、効率的で持続的なサプライチェーンを構築していくという共通認識のもと、双方の経営層が手を握ったことで、担当者もスピード感を持って積極的に取り組めました」と振り返る。
また、資材戦略室の福島慎也係長は「今回の事例は、我々は原材料を受け取る立場の『着荷主』の側面もあります。物流の効率化を発荷主に任せず、着荷主の立場からも関わる必要があると考えて行動してきたことも実現につながった理由です」と、従来の商慣習にこだわらない姿勢の大切さを強調した。
日清食品とJA全農は、輸送手段をトラックから船舶や鉄道による輸送へ転換する「モーダルシフト」も進めている。関東-九州間では海上輸送、関西-東北間では鉄道コンテナ輸送による共同輸送を拡大するなど、今後も連携を強化していく方針だ。