今どきの本屋のはなし

なぜ書店の振興をするのか――「今どきの本屋のはなし」企画会議発足

「今どきの本屋のはなし」は、経済産業省の「書店振興プロジェクトチーム」が発足させた有識者による企画会議の編集議論を経て取材・掲載されている。2024年10月に行われた第一回会議の様子を一部ご紹介しよう。

「今どきの本屋のはなし」企画会議メンバー
▽上智大学教授 柴野京子さん(座長)
▽作家、書店経営者 今村翔吾さん
▽女優、作家、歌手 中江有里さん
▽講談社社長 野間省伸さん

日本の書店は情報センター、公共装置として機能してきた

柴野座長 研究者になる前は、出版取次で仕事をしていました。出版流通から始まり、デジタルや図書館といった知識基盤の社会でのあり方について考えています。日本の書店は、情報センター、公共装置として長らく機能してきた部分があります。

日本では公共図書館が増え始めるのが1980年以降ということもあって、本に触れる身近な場所は本屋でした。現在は状況が変わってきており、書店の意味を考え直す時代になっています。

現在、もう一つの仕事として「本の学校」というNPO(非営利活動法人)に携わっています。1995年に鳥取県米子市で地元の今井書店が始められた活動がもとになっているのですが、知の地域づくりをテーマとして、書店や出版業界、図書館、市民活動を横断する活動を続けています。

企画会議の座長を務める上智大学の柴野教授

柴野京子座長(しばの・きょうこ) 東京都生まれ。出版取次会社勤務を経て、2022年より上智大教授。専門は出版論、メディア論。著書に「書物の環境論」「書棚と平台」など。NPO法人本の学校理事長

業界の色々なメッセージを外にもっと発信すべき

今村委員 ベースの仕事としては作家をしています。ほかに、書店を佐賀と大阪、シェア型書店を東京でやっています。本を書き、読者に届けるという出版流通における上流と下流の両方を経験し、色々なことを勉強させていただいています。

ほかに一般社団法人「ホンミライ」という団体を立ち上げて、本の普及活動を行っています。作家ではないけれども本好きな人、アナウンサーなど発信力のある方に参加してもらいました。出版界ではない業種の方々の意見を取り入れることで、これまで変わらなかった業界の変革のきっかけになるのではないかなと考えました。業界の色々なメッセージを外の人にもっと発信していくうえでも、様々な業界や企業の方とつながることに意味があると考えています。

今村翔吾委員(いまむら・しょうご)1984年、京都府生まれ。2020年に「八本目の槍」で吉川英治文学新人賞。「塞王の楯」で22年に直木賞。東京・大阪・佐賀などで書店経営

北海道・留萌市で見た「書店の大切さ」

中江委員 本との関わりとしては、私は読者としての時間が一番長く、今も一読者として書店を利用しています。一方で読書の推進について話す講演を全国で行っています。柴野先生がおっしゃっていましたが、かつては図書館が立ち遅れて、書店が文化の拠点になっていました。今は、非常に立派な図書館が地方にたくさんできまして、そういったところに呼んでいただいて話すことも増えました。一方で書店は本当に少なくなったなという実感を持っています。

以前、テレビ番組の企画で、北海道留萌市に行ったことがあります。ここは書店のない自治体の一つだったのですが、住民の呼びかけで書店を誘致しました。ここを訪れた際、書店がなくなって初めて書店の価値に気づいたという住民の声を聞きました。今はまだ頑張っている数少ない書店が閉店してしまった時、どれだけの人が本当は得られるはずだった書店での経験や情報を失うのかと危惧しています。

中江有里委員(なかえ・ゆり) 1973年、大阪府生まれ。数多くのドラマ・映画に出演。最新作の小説は「愛するということは」(新潮社)。読書に関する講演や、小説、エッセイ、書評を手がける

疲弊する書店のためにできること

野間委員 仕事柄、全国の書店を訪れる機会が非常に多いのですが、一言で言って、書店は疲弊しています。先日の文化庁の調査で、国民の6割以上が月に1冊も本を読まないということを知り、日本の危機だと思っています。今後、我々は国際社会で活躍していく必要がある。またAI(人工知能)の発展の中、「機械ではなく人として何が出来るのか」といった人間力を磨いていかなければいけないと考えています。

読書はそのために有用な方法です。読書を通して、読解力や想像力、共感力、交渉力、表現力といったものを身に付けることができる。まさに人間力を高めるために役立つものだと思っています。

書店が疲弊し、読書する機会、本との接点がどんどん減っている中で、出版業界としてできることを進めています。なかなか全て上手くいっているわけではありませんが、今回のプロジェクトで困っている書店の一助になればと参加させていただいています。

野間省伸委員(のま・よしのぶ) 1969年、東京都生まれ。91年慶大法卒、三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。99年講談社入社、取締役。2011年から社長。読書推進運動協議会会長も務める

「今どきの本屋のはなし」で取り上げるべきこと

今村委員 「今どきの本屋のはなし」では、ささやかなトピックであっても幅広く取り上げればいいのではないかと思います。画期的な書店の取り組みがあるのと同時に、どういうことが苦しいのかということを具体的に見せるトピックとか、現状の写真などをもっと盛り込むといいのではないでしょうか。

中江委員 特に大手の書店は色々な作家が新刊を出すたびにイベントを開いています。本が書店に並ぶまでどんなことがあるかなど、一般の方が知らないことを知ることができるイベントや文化祭的なこともしてはどうかなあと思います。ただ本を売るだけではなく、書店に行けば自分の刺激がもらえたり、違う考え方がひらめいたりするかもしれないという期待を抱かせるようなものが、オンライン書店との一番の違いだと思います。

野間委員 なぜ書店は大事なのかということをきちんと知らせる必要があると思います。どうすれば書店にもっと人を呼ぶことができるのか、本を読まない、書店に行かない人に、そもそもなぜ書店を振興する必要があるのかという説明をすることも必要だと思います。

柴野座長 デジタルを否定する必要は全くなくて。本を読む、本にふれるインターフェースをどのように整えるか、という大きな枠組みから書店の意味を位置づけ直す。今の時代に必要な知識や教養と出会う、育てる場としての本屋として振興策を考えるのがいいのかなと思います。

会議はオンラインで行われた