今どきの本屋のはなし

「ビブリオバトル」は本好きを増やす知的ゲーム。地場書店も熱く運営・支援

愛読書を紹介しあって一番読みたい本を投票で決める知的書評合戦「ビブリオバトル」を取り入れる書店が増えている。ビブリオバトルは、すでに中学、高校、大学の全国大会が毎年開催され、各県でも教育委員会などが中心となり地方大会が多数開催されている。

「ビブリオバトルを通じて未来の読者を増やさなければ書店の未来はない」「地域の教養レベルを高めることも地場の書店の役割」――。多忙な書店の日常業務に追われながら、このイベントに取り組む茨城と広島の地場書店の活動を追った。

まずは全社員が体験、大盛り上がり!

「全国大学ビブリオ2024関東Cブロック決戦を開始いたします」。2024年11月10日、水戸市の茨城県立図書館視聴覚ホールで行われた「大学ビブリオバトル茨城決戦大会」。地元書店のブックエースや協力会社の社員ら十数人が早朝から、受付の設営、音響装置の設置、YOUTUBEで同時配信する映像機器のセッティング、来場者への配布資料の準備などに追われた。

配信機器の調整などに追われるスタッフ(2024年11月10日、水戸市の茨城県立図書館視聴覚ホールで)

ビブリオバトルは①参加者が5分間で愛読書を紹介②聴衆との質疑応答③参加者全員が読みたくなった本に投票し、最多票を集めた本がチャンプ本になる――という3つのルールで行われるもので、2007年に京都大学大学院の研究室で考案された。

ブックエースが大学生のビブリオバトル大会に関わるようになったのは2016年のことだ。奥野康作社長(53)が取次会社から「ビブリオバトルという愛読書を紹介するゲームを知っていますか」と声をかけられたのがきっかけだ。大学生や高校生の全国大会が行われていることを知り、奥野さんは「ゲーム感覚があり、若い人たちに読書の楽しさを知ってもらうツールになりうるのではと思った」と言う。

手始めにパート社員も含め全社員120人を5人ずつのグループに分けてビブリオバトルを実施してみたところ、「あなたがこんな本を読むとは意外!」「説明の仕方が上手くて驚いた」など、ビブリオバトルが終わってからも社員たちの間の会話が絶えなかった。奥野さんは「ビブリオバトルが社員同士のコミュケーションを活性化するのにも向いていると感じた」と振り返る。

地元・茨城の予選会がない、なら自分たちが

奥野さんは2016年末、ビブリオバトルの発祥地でもある京都大学百周年記念ホールで開催された「第9回全国大学ビブリオバトル京都決戦」にも足を運んだ。ステージ上で熱っぽく愛読書の魅力を語る学生のいきいきとした表情が目に飛び込んできた。しかし、地元・茨城県の学生の姿が見えない。主催者に尋ねたところ、「残念ですが、茨城では予選会が行われていないのです」と告げられた。茨城の学生たちが本の魅力に触れる格好の機会を逃していると痛感した。

「ビブリオバトルの全国大会に代表を出すための茨城県予選を一緒にやりませんか」

京都から戻ると、奥野さんは県内の大学の図書館を訪ねて回った。その熱意が学生の本離れを憂えていた大学の教職員たちに響き、大会開催のメドがたつまでは時間はかからなかった。翌2017年度から茨城での予選会が始まった。事務局はブックエースが担当。現在は県内の筑波大、茨城大、常磐大、茨城女子短期大、茨城キリスト教大の5大学による一次予選会も開かれるようになり、各予選会の勝者が毎年11月、県立図書館で開催される茨城決戦大会に出場している。決戦大会会場では出場者の紹介した本を即売し、大学生の発表を聴いた観覧者がすぐに本を購入できるようにしている。

決戦大会会場入り口では出場者が紹介する本の即売も行われる(左から3番目が奥野社長。2024年11月10日、水戸市の茨城県立図書館)

書店の役割は地域の教養レベルを高めること

1986年に創業したブックエースは、水戸市に本社を置き、県内に14店舗、福島や埼玉、都内などにも出店している。奥野さんは大学卒業後にカルチュア・コンビニエンスクラブ(CCC)に入社、同社直営事業部長、FC事業部東関東支社長などを務めた後、2014年に資本関係のあったブックエース社長に就任した。

ブックエースは元々、レンタル、ゲーム、トレーディングカード、文房具なども扱う複合型書店として出発した。現在は発達障害児向けの支援スクールを県内や都内、栃木、神奈川に10教室を展開するなど新規の事業にも力を入れている。ただ、奥野さんは経営の軸を書店に置くことは変えたくないという。全国チェーンのCCCから転身した時に「地域の知識教養レベルを高めていくことが地域の発展につながる。そのために地場の書店が果たす役割があるはずだ」という思いがあったからだ。

奥野さんが掲げる経営理念は「文化、教育を通じて地域社会の繁栄に貢献する」。

ビブリオバトル以外にも、県内の高校の図書委員会とコラボして図書委員によるオススメ本を店舗で紹介する企画、小学生を対象にした「小学生読書マラソン」、学校図書館の図書購入費に充ててもらうために、研究学園都市として人口が増えているつくば市に「企業版ふるさと納税」を利用した寄付を行うなど教育現場と関わる様々な企画を展開している。

奥野さんは「お客さんに向けて買いたいと思ってもらう本をフェアなどで仕掛けていくことはもちろん大切ですが、それは短期的な視点での話。中長期的には読者を増やしていかなければいずれ書店は衰退します」と力を込める。その根底には、「書店という看板は私たちが考えている以上に信用価値がある」という思いがある。

「学校には必ず図書館がある。ビブリオバトルにはすでに全国大会という舞台装置も準備されている。トップの熱意、続けていく覚悟さえあれば十分です」。奥野さんは、各地の地場書店に向けてビブリオバトルなど学校現場とつながる機会を大切にしてほしいと呼びかけている。

司書教諭らが手弁当開催…企業協賛集めお手伝い

「本の甲子園」とも呼ばれる全国ビブリオバトル高校生大会は、47都道府県すべてで全国大会への代表を決める地方大会が行われ、参加校も年々増えている。

中でも、広島県大会は県内に11店舗を展開する「廣文館」が支援する「書店が応援するビブリオバトル大会」として有名だ。廣文館取締役の丸岡弘二さん(61)自らが地元企業に呼び掛け、県大会への協賛企業集めに奔走している。2024年7月に行われた県大会には、廣文館のほか、広島銀行、地元の銘菓もみじ饅頭の製造販売「にしき堂」が協賛社として名を連ね、参加した高校生に贈る図書カード、記念品を提供した。

広島大学で行われた高校ビブリオバトル広島県大会には100人の高校生、教諭、司書らが参加した(2024年7月28日)

多くの地方大会が教育委員会や公共図書館が中心となって運営される中、広島は高校の司書教諭たちが実行委員会を組織して実施しているところに特徴がある。

ある時、実行委員会のメンバーの司書から、司書教諭たちが手弁当で大会を支えているという経緯を聞いた丸岡さんは、「高校生たちが本にふれるきっかけになっているイベント、私たちも何かお手伝いをできることがあるのでは」と考えるようになった。

「広島の代表を決める大会なら、地元の企業に応援してもらうのがいいのではないか」と、取引先でもある広島銀行やにしき堂に相談を持ちかけて協力の輪を広げることにも成功。県大会の会場に足を運んで初めてビブリオバトルを見学した広島銀行本店営業部融資第2課担当課長の黒川恵吾さん(37)は「高校生の発表スキルもさることながら、質疑応答のコミュニケーション能力の高さに驚きました」と振り返る。東京の大学に通っていたころ、品川駅構内の書店で3年間アルバイトをし、「多読派」を自任する黒川さんでも、高校生たちの発表を聞いて、「そういう着眼点があるのか」と新鮮に感じることが多かったという。大会支援をきっかけに、広島銀行本店ロビーには、県大会で紹介された本や高校の図書委員会が持ち回りでオススメの本を紹介するコーナーが設けられるようになった。

広島銀行本店ロビーで展示されている高校生のオススメ本を眺める丸岡さん(右)と黒川さん(右から二人目)(広島市中区で)

総務省の人口移動報告によると、広島県は4年連続で転出超過が全国最多となり、人口の県外流出に歯止めがかからない。丸岡さんは「教育環境も移住者を呼び込む大切な要素。時間はかかるかもしれないけれど、本が好きな子供たちを増やしたい。そのためには本と子供たちが出会うタッチポイントを作っていくことが大切だと思います」と意気込んでいる。