地域で輝く企業

【栃木発】グローバルニッチを見据え、世界相手に航空ビジネスを展開

栃木県足利市 AeroEdge株式会社

日本のモノづくりのインパクトを、ここ足利から世界へ向けて発信していきたい――。航空機エンジン部品の製造・販売を手がける「AeroEdge(エアロエッジ)」(本社・栃木県足利市)を2015年に創業した森西淳社長(57)はそう話す。実際、フランスの航空エンジン製造大手と直接取引を行うなど、「世界」を相手に航空宇宙ビジネスを展開。2023年には株式の上場も果たした。昨年6月には新工場も完成し、エンジン部品用の新材料やeVTOL(電動垂直離着陸機、いわゆる空飛ぶクルマ)部品の製造などにも取り組む。グローバルニッチを冷静に見据え、他社を寄せ付けない圧倒的な技術力と、リスクを恐れない機動的な組織力を発揮しながら、地域で輝き続けている。

自動車の歯車製造などを手がける老舗からスピンアウト

AeroEdgeは「新しくて古い」会社だ。創業は2015年9月と新しいが、母体となった菊地歯車は1940年、同じ足利市内で創業し、自動車の歯車製造などを幅広く手がけてきた歴史のある会社だからだ。その菊地歯車の航空宇宙部からスピンアウトするかたちで創業した。

AeroEdgeの本社。右側が昨年完成した新工場

最寄り駅はJR両毛線の富田駅。そこから歩くと20分ほどかかるという。取材は2月初旬の厳寒期。正直、徒歩はきつい。ところが、駅前にタクシーは常駐してないとのこと。そこで、東京方面から北上して小山駅で乗り換え、富田駅の手前となる佐野駅で下車。そこからタクシーで県道67号線を西へ15分ほど進むと、AeroEdgeがある。

運転手に住所を告げても要領を得なかったので社名を伝えると、「ああ、エアロエッジさんね」と安心した声が返ってきた。訪問客が多いらしく、「足利や群馬県の館林周辺で営業しているタクシー運転手なら、『エアロエッジまで』と伝えれば、大抵行ってくれるはず」。地元の観光地として有名な「足利学校」や「あしかがフラワーパーク」、そして「佐野プレミアム・アウトレット」のような存在なのかもしれない。

新型エンジン「LEAP」に最先端の部品を納入

現在は航空機エンジンを製造開発するサフラン・エアクラフト・エンジンズ(本社・パリ)と長期契約を結び、仏エアバス製の「A320neo」と米ボーイング社製の「737MAX」に搭載されている新型エンジン「LEAP(リープ)」の部品となる低圧タービン用のチタンアルミブレードを納入している。

展示用のチタンアルミ製ブレード。羽根の長さは約20センチで、手に持つと驚くほど軽い

航空機のエンジンは、主にファン、低圧コンプレッサー、高圧タービン、そして低圧タービンから構成されている。低圧タービンは燃焼したガスのエネルギーをファンに伝える役割を担っており、AeroEdgeの手がけるチタンアルミブレードは低圧タービンの重要な部品。従来はニッケル製だったが、LEAPでは軽量化を図るため、重さがニッケルの約半分のチタンアルミを使う仕様になっていた。ところがチタンアルミは、安定して加工するのが難しい。森西社長によると、それを量産できる会社は世界を見回しても数社しかなかった。

ロビーには、AeroEdgeが部品を提供する航空機などの模型が並ぶ

技術と提案力が評価され、グローバル企業と直接取引

2000年代の半ば、菊地歯車で働いていた森西社長は、ジェットエンジンの部品製造を国内メーカーから請け負い、チタンアルミ加工の経験を重ねながら、航空ビジネスへの本格的な参入を狙ってきた。自分たちの強みを生かせる部品加工の仕事を獲得するため、東京で行われた国際航空宇宙展に出展。それがLEAPの製造を手がけるサフラン社の関係者の目に留まり、パリでプレゼンテーションを行うことに。技術の高さと納期の短さや提案力が評価され、2013年末に長期契約にこぎ着けた。

中小企業の多くが大手からの受託事業が多い中、AeroEdgeが、海外のグローバル企業に部品を直接納入する「ティア1(1次請け)」であることでも業界の注目を集めた。サフラン社とティア1として契約した初の日本の中小企業で、部品を大量生産する体制を確立するためにAeroEdgeを創業。現在、LEAPに使われているブレードの約4割を手がける。

工作機械が整然と並ぶ工場内。効率的な生産ができるよう工作機器のレイアウトにも気を配っているという

失敗を恐れず、フラットな組織作りを心がける

創業に当たって、森西社長は技術者を菊地歯車からの公募で確保し、技術開発や財務などを担当する経営陣の多くを外部から募った。「技術の進化や成長に失敗はつきもの。ですから失敗を恐れないフラットな組織にしたいと心がけています」と森西社長は話す。役員も社員も仕切りのない同じフロアで仕事をし、ユニセックスでデニム調のジャケットを着て仕事をする。社内のあちこちで社員同士が議論をする風景が見られ、実際、風通しはよさそうだ。人材に対する投資も惜しまず、社員が博士号取得をするための資金を援助したり、各種資格試験の受験料などを負担したりしている。

昨年4月に行われた「新入社員歓迎セレモニー」。新入社員を従業員みんなで歓迎したいという気持ちを込めて「入社式」から名称を変えた。前列中央が森西社長

「自分自身、様々な失敗を重ねてきた」と話す森西社長の経歴もユニークだ。高校を中退後、美容室チェーンなどを経て、モノづくりを志して群馬県にある町工場に入社。当時見たガス・ヴァン・サント監督の『ドラッグストア・カウボーイ』(1989年)という映画に影響されたという。主演したマット・ディロンが町工場で旋盤工として働くことで、荒んだ生活から更生しようとする真摯な姿に憧れた。「実際、工場で働き始めて、金属の塊を加工することで、全く違う形になって世の中の役に立つことが面白くてしかたがなかった」。その後、1994年に菊地歯車に入り、同社の航空宇宙部長を経て、2015年から現職に。一見何もなさそうな足利を心の底から気に入っていて、「空港もなければ、海もありません。でも、ここの自然や人柄が大好きなんです。足利を拠点に活動することに意義を感じています」

経済的な理由から大学進学を諦めなければならない学生を支援する奨学金バンクのサポーター企業に登録するなど、社会貢献にも力を入れる

ナローボディの流れ見逃さず、一点突破で商機をつかむ

「航空機にも流行があって、ほぼ10年周期でトレンドが変わります」と森西社長は話す。近年の主流は、機内の通路が1列のナローボディの航空機だという。いわゆる中型機で軽くて小回りが効き、燃費もいいため、コスト面を重視する格安航空会社の主力機材として人気がある。中でも典型的な機材が、「A320neo」と「737MAX」。両機に搭載されているのがLEAP。「コロナ禍が終息し、航空機需要はこの後も拡大すると見られ、ナローボディが主流になる」と森西社長は踏んだ。そこにグローバルなニッチを見出し、一点突破することでビジネスを拡大。「私たちのような小さな企業が世界に挑むにはそれしか方法はありませんでした」と森西社長は話す。

金属の3Dプリンタを活用し、チタンアルミの粉で複雑な形状を成形。いずれも展示用の模型だが、頭蓋骨模型の欠損部分にはめ込んだり(写真上)、大きな球の中に小さな球の入ったオブジェを作ったりして、応用の可能性を探る

意義ある挑戦続け、日本の製造業に一石を投じたい

2023年7月には東京証券取引所グロース市場に上場。さらなる成長を目指す。昨年6月には本社敷地内に鉄骨2階建てで延べ床面積約3100平方メートルの工場を新設。新工場ではLEAP以外の航空機関連部品の量産化など、事業ポートフォリオの多角化も目指す。2024年(6月期)の売上高は前期比14.7%増の33億5千万円で、さらなる成長を目指す。「厳しい要求や条件に対し、諦めずに挑戦を続けてきました。それが我が社のDNA。これからも世界で意義のある挑戦を続け、日本の製造業に一石を投じていくつもりです」

AeroEdgeに向かう途中で降りたJR佐野駅前で見かけた「 さのまる」像。ソウルフードの佐野らーめんのお椀をかぶり、腰にはいもフライの剣を差す。いもフライの正体がわからなかった

 

【企業情報】▽公式企業サイト=https://aeroedge.co.jp/▽代表者=森西淳社長▽社員数146人(2025年1月1日現在)▽資本金4億8244万円▽創業=2015年