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【CX企業インタビュー企画】グローバル化を支えるHR改革(カゴメ 有沢正人氏)―後編

地域や事業の多角化が進み、経営の複雑性が高まっている企業がグローバルで戦っていく上で求められる変革を指すCX(コーポレート・トランスフォーメーション)。本企画では、CXに関する先進的な取組を行っている企業にスポットを当て、紹介していきます。

今回は、re-Designare合同会社代表・日本CFO協会/日本CHRO協会 シニア・エグゼクティブであり、CX研究会座長を務めた日置圭介氏が、カゴメ社長付執行役員(特命担当)の有沢正人氏にインタビューした内容の後編をお届けします。

ジョブ型の導入は万能薬ではない

――― 日本の人事制度に、欧米のプラクティスをそのまま導入すれば済むわけではないと思いますが、どのように仕組みを構築するべきでしょうか。

欧米と日本では労働市場が違うので、単純にジョブ型を導入しても上手くいくはずがありません。人事は投資だ、という意識をもっと持つべきです。

アメリカのジョブ型は、基本的に自分のファンクションのスペシャリティを上げればよく、例えば、人事は人事の領域でスペシャリストとしてキャリアを重ねていくので、転職するたびに大きな企業に入って出世をしていきます。一方で、日本は様々な部署で経験を積んでいくので、欧米型のジョブ型をそのまま導入すると失敗します。その企業に合う形をよく考えるべきです。

――― 新卒一括採用のメンバーシップ型雇用の対義語として、ジョブ型という言葉が使われることが多くなりましたが、日本ではジョブ型に対する理解不足も見られます。メンバーシップ型やジョブ型をどのように捉えていますか。

私は年功序列が悪いとは思っていないし、必ずしもメンバーシップ型が悪いとも思っていません。企業の規模や業種によっては、その方が良い会社だってたくさんあります。例えば、製造部門の熟練の人たちが集まっている会社では、年功序列の方が遥かに機能的です。ジョブ型で何でも解決すると考えるのは大間違いとよく言っています。

ただし、中途採用が少ない企業は、ダイバーシティが発生しません。いろいろな価値観や考え方を持つ人が入ってこないと、社員はどうしても同質化します。異質な人を集めることによって議論が生まれて、そこからイノベーションが生まれるのです。

さらに、基本的な問題点に立ち返ると、給与計算などの事務作業だけに従事する、いわゆる人事屋さんのようなオペレーションであるがために、人事を事業戦略の域まで高めることができないことが問題なのではないでしょうか。

人事を戦略にするために求められるデリゲーション

CHROには中途採用の方が多いですが、これには必然性があります。外から来た人の方が「おかしいんじゃないか」と思えるのです。

ただし、私のように外から来たCHROが大事にしなければならないのは、会社の「DNA」です。その会社が大事にしているDNAや企業理念は、絶対に曲げてはならない。何でもかんでも変えればいいわけではありません。どうしたらステークホルダーに満足していただき、従業員のエンゲージメントが上がり、みんなが働きやすくなるかを考えることが、CHROの仕事です。私は、これまで所属した会社でそれを身につけてきました。マーケットを意識しながら、会社のDNAをしっかり守っていく。一見すると二律背反ですが、調整すれば良い話であり、それが戦略なのです。

人事を戦略にするために企業にやっていただきたいことは、「デリゲーション(権限移譲)」です。その場で決裁するスピード感が非常に大事です。欧米企業には圧倒的にスピード感があるので、「本国に聞きますから3日ください」では負けてしまいます。

人に任せることは、勇気が必要です。それでも私は、部下の部長や課長にデリゲ―ションしています。それはカゴメがどんどん進めてきたことで、社長や私の決裁は極端に減っています。デリゲ―ションは勇気と決断。意思決定が早ければ早いほど、勝ちにつながります。

大切なのは選ばれる会社であり続けること

キャリアの決定も会社から個人にデリゲ―ションするべきです。その会社で働き続けたいかどうかを本人に決めさせることがまさに権限委譲であり、究極の選択なのです。

――― 「キャリアを決める権利は個人にある」という考え方は当たり前のようで、従来の日本企業にはない発想でした。その上で長期的な雇用関係が続いたら、一番幸せですね。

おっしゃる通りです。この会社で働き続けることを常に選び続けてもらうことが、私たちの仕事です。例えば、本人が「こういった仕事をやりたい」と言った時に引き止めるのではなくて、元従業員を再雇用する「アルムナイ制度」を作って、いつでも戻ってこられるようにしてあげるべきです。

副業も同じです。「せっかく育てたのになぜ他の会社に行かせるのか」という意見もありますが、そういう制度のある会社に優秀な人は集まります。他の世界を見に行くという機会を与えることは、当たり前のことです。本業とシナジー効果が望ましいという意見もありますが、それもそうでなくていいと思います。何をしたって自由。そういったステージを用意することは、会社の責務です。

選ばれる会社になることは非常に大事です。中途採用をしていると、テレワークや副業制度があるかを聞かれます。それらがないと、選ばれない会社になってしまう。その結果、社内にいる人たちだけで価値を作ることになるので、マーケットから遊離し、世間の常識からどんどんずれていく可能性があります。制度や仕組みは誰でも作れますが、ちゃんと運用できるかが非常に大きなポイントで、それらを実のあるものにすることが肝要です。

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経済産業省 製造産業局 製造産業戦略企画室