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【CX企業インタビュー企画】グローバル化を支えるHR改革(カゴメ 有沢正人氏)―前編

地域や事業の多角化が進み、経営の複雑性が高まっている企業がグローバルで戦っていく上で求められる変革を指すCX(コーポレート・トランスフォーメーション)。本企画では、CXに関する先進的な取組を行っている企業にスポットを当て、紹介していきます。

今回は、CXを進めていく上でカギとなるHRに注目。re-Designare合同会社代表・日本CFO協会/日本CHRO協会 シニア・エグゼクティブであり、CX研究会座長を務めた日置圭介氏が、カゴメでHR改革の旗振り役を務めてきた社長付執行役員(特命担当)の有沢正人氏にインタビューした内容を前・後編に分けてご紹介します。

カゴメのHR改革の始まり

――― カゴメに入られてからいろいろな改革をされていますが、どのような問題を認識し、解決していったのでしょうか。

私が入った12年半前のカゴメは、まだグローバル化がそれほど進んでいませんでした。当時の西秀訓社長から「カゴメのグローバル化を人事から進めてほしい」と言われ、人事から変えるという発想に驚きました。

当時は「ジョブ型雇用」という言葉は浸透していない時代でしたが、似たような概念として「職務等級制度」がありました。ポジションに給料がつく形の方が理に適っていると考えて、カゴメでも職務等級制度を導入することに決め、海外拠点から始めました。

――― 西社長(当時)はなぜ人事から変えようという発想をお持ちだったのでしょうか。

彼には人事の経験があったことに加え、先見性がありました。コーポレートの機能を充実させなければ、プロダクトアウト型の企業になってしまうという危機意識です。売上の伸びの一方で、グローバルの人事を把握できていなかったため、まずは人事からやらなければと、海外を回りながら感じていたようです。

――― グレードとポジションが明確でなければ、グローバルで人事制度は統一できませんよね。

海外にいる人材をいきなり日本に呼んで、「若いから年収が下がる」とは言えません。年齢を関係なくするために、仕事に値段を付ける。少なくともそこから着手しないと、評価や報酬といった制度が回らないと思いました。

――― グローバルと言えど、いろいろな国の集まりなので、反応はそれぞれ違ったのではないでしょうか。

当時は、アメリカとオーストラリア、ポルトガルに海外の拠点があったので、この3拠点の合意が得られれば推進できました。3人とも現地の人がCEOでしたが、皆「日本でもやっとそういうことを考えるようになったのか」という反応でした。

転換点にある日本の人事制度

――― 日本の従来型の人事制度は、なぜ限界を迎えたのでしょうか。

日本の人事は、どうしてもオペレーションとして捉えられてきました。銀行など中央集権型の人事を採用している一部の企業を除いて、多くは事業部の要望を取り入れることを主としたオペレーションとしての人事となっています。

オペレーショナル・エクセレンス(オペレーションの効果・効率を高めることにより、競争優位性を獲得すること)を高めるには、日本型人事制度は良いシステムだったかもしれません。しかし、これだけ世の中が変わり、人事戦略が叫ばれる状況においては、日本の従来のやり方では戦略にまでは高められません。人事戦略と経営戦略は基本的に同一であり、そういった意識まで高める必要があると思います。

――― 人事においても戦略を立てなければいけなくなったのはなぜでしょうか。

日本企業がグローバル化を進めていく中で、海外で勝つことが難しくなってきました。私が1980年代に海外に行った時には、日本のモノは良いという、プロダクトアウトが通用しました。しかし、グローバル化が進むと、ソフト化が進み、モノだけでは勝負できなくなっていきました。ソフトに対抗するのは“頭”。そうすると人なのです。ハードからソフト、モノからコトに変わっていったことが大きな転換点だと思います。

――― CX研究会のレポートでは、なぜCXをしないといけないのかという問いに対する論拠として、グローバル化とデジタル化を挙げています。カゴメについて言うと、まさにそのグローバル化が大きかったのだと思います。
モノからコトへという現象はもはや全世界的に起こっています。そうするとグローバル化していない会社でも今までのやり方では駄目で、年功序列やメンバーシップはいずれ変えていかなければならないのでしょうか。

一定数残ると思います。伝統工芸品に代表されるような日本のモノづくりは日本でしかできない繊細なものであり、これを支えている年功序列やメンバーシップといった仕組みは変わらないと思います。

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経済産業省 製造産業局 製造産業戦略企画室