大阪・関西万博特集

【万博60秒解説】「火星の石」に出会えるという奇跡

まもなく開幕する大阪・関西万博。会場には、ここでしか見られない「現代のお宝」とでも言うべき特別なものも展示されます。その一例が「火星の石」です。先日、日本政府館(日本館)に展示されることが発表されたばかりですが、奇跡としか言いようのない、この石の出自と背景について解説します。

南極観測隊が採取した世界最大級の火星隕石

万博会場内の日本政府館で、現存する世界最大級の「火星の石」が展示されます。これは、日本の南極観測越冬隊が昭和基地から約350km離れたやまと山脈で2000年11月に採取した火星から飛来した隕石。日本が定期的に南極に観測隊を派遣していたからこそ得られた科学的に重要な試料なのです。

隕石内部の組成を分析し、これまでの火星探査機の実測したデータを照合して、「火星由来」であることは科学的に断定されています。ラグビーボール大で、重さは約13キロ。人類は火星から実際に石を持ち帰るミッションは実現できていませんので、地球上で火星由来の石は、隕石として飛来したものだけ。貴重な学術研究用試料として、これまで国立極地研究所で保管されてきました。広く一般に公開されるのは、大阪・関西万博の場が初めてです。

幾重にも折り重なる「奇跡」を経た邂逅

この隕石、火星を離れたのは、約1000万年~1300万年前。火星に小惑星が衝突した衝撃で宇宙空間に飛び出したと推測されています。宇宙空間を漂い続け、何らかの偶然によって、今から数万年前に、火星から平均2億キロ以上離れた地球へと飛来します。もし海に落ちていたら誰も見つけられず、温暖な土地に落下していたら風や雨で風化してしまっていたでしょう。たまたま南極に落ちて自然の冷凍保存状態で保管されたことも、日本の観測隊が発見できたのも、すべてが偶然の産物です。幾重もの奇跡が重なって、万博会場で私たちはこの石に出会えるのです。

火星に水があった証拠?

この隕石の特徴は、「粘土鉱物」を伴っている点です。これは、水に隣接しなければ存在しません。つまり、この隕石は、かつて火星に水が存在した直接的な証拠になっているのです。生命の起源を探求する「アストロ・バイオロジー」の面からの学術的価値も高く、地球上の生命の源が遠く星くずに連なっている—そんな想像をかき立ててくれます。アポロ計画で月を目指した時代精神の象徴が70年万博の「月の石」ならば、これから火星を目指す人類のフロンティアの先を示すのが「火星の石」。万博のテーマである「いのち」の起源にも深く関わる、象徴的な展示の一つになるはずです。

経済産業省 博覧会推進室

【リンク先】
日本館について
月刊日本館・特集記事「火星隕石が私たちにささやく、宇宙といのちのつながり」