政策特集グローバルサウスとの新結合 vol.4

グローバルサウスの成長力を日本に取り込め!企業の新興国進出を強力後押し

グローバルサウスの国々が抱える課題を解決するために、日本の技術やノウハウを生かした事業の海外展開を支援しているのが、経済産業省が主導する「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」(グローバルサウス補助金)だ。

グローバルサウスの課題解決と同時に、その成長力を取り込むことで、日本国内のイノベーション創出やサプライチェーンの構築・強化につなげることを目指している。

半導体用多結晶シリコンの世界大手、ベトナムへ

山口県周南市に本店を構える化学メーカー「トクヤマ」。1918年に「日本曹達(ソーダ)工業」として徳山町(現周南市)で創業以来、総合化学メーカーとして様々な化学製品を製造・販売してきた。近年は電子・健康・環境分野に力を入れており、半導体に使われる多結晶シリコンの世界大手として知られている。

そのトクヤマがベトナムに100%子会社を設立したのは2024年8月。南部バリアブンタウ省に先端半導体用シリコンウェハーの主原料となる多結晶シリコンのエッチング工場を新設し、多結晶シリコンの製造・販売事業を展開していくためだ。この事業は、グローバルサウス補助金の交付対象として採択された。

トクヤマが世界市場で2割強のシェアを握る半導体用多結晶シリコン

生産拠点の分散へ。補助金が躊躇する企業の背中を押す

「1か所で製造していてBCP※(事業継続計画)は大丈夫ですか」――トクヤマは、多結晶シリコンを購入してもらっている顧客から、こんな声が度々寄せられたという。

「製造拠点の分散を検討していました。しかし、新しいところに拠点をつくるのは大変難しい仕事になるため、ずっと躊躇していました」

執行役員経営企画本部副本部長の伊藤剛史さんは、初のベトナム進出までの経緯を振り返る。

「徳山製造所(周南市)で製造することについては自信を持っています。しかし、他の工場でつくる、しかも海外、開発途上国でとなると、なかなか踏み出せなかった。補助金の話をいただいたことが、当社の背中を押してくれました」

※BCP…自然災害などの緊急事態が発生した時、損害を最小限にとどめ、事業の継続、早期復旧を図るための計画。

「グローバルサウス補助金が背中を押してくれた」と話す伊藤さん

勤勉な国民性、クリーンエネルギー…。ベトナムは理想的な進出先

なぜ、ベトナムだったのか。伊藤さんは、①政治的中立性②国民性③クリーンエネルギー④地元政府の意欲――の4点を挙げる。

「米中対立などの問題もある中、商売に政治の影響を受けたくない。そう考えたときベトナムが候補の一つに挙がりました。しかも当社徳山製造所ではベトナムからの技能実習生が働いていて、とてもきめ細かく丁寧な仕事をしてくれています。ベトナムは石炭火力発電のイメージがありますが、私たちが進出するバリアブンタウ省は天然ガスがメインで、風力発電にも力を入れています。クリーンなエネルギーでビジネスが展開できることも魅力でした。加えてベトナム政府が半導体産業の誘致に非常に熱心で、ビジネスライセンスの取得もスムーズでした」

サプライチェーンの構築・強化へ。「親日的な国に拠点をつくる意義は大きい」

トクヤマでは新設するベトナム工場に最新の設備を入れ、200人程度を現地で雇用し、事業を展開していくことにしている。雇用や人材育成などを通じて、現地ベトナムに貢献していきたい考えだ。

「最先端製品の製造技術は引き続き日本に残すことになると思います。ただ、高品質の製品を顧客に安定的に供給するという意味では、国外、しかも親日的な国に拠点をつくる意義は非常に大きいと思います」

伊藤さんは、サプライチェーンの構築・強化の観点から、こう強調する。トクヤマとしては、インドなど発展著しいグローバルサウスの国々への橋頭堡(きょうとうほ)としての役割もベトナムでの事業に期待している。

トクヤマが工場を建設する予定のフーミー3特別工業団地(ベトナム)

インフラ整備、義足の供給不足解消…。世界各国で動き出すプロジェクト

グローバルサウス補助金は、グローバルサウス諸国にとっては産業基盤の構築や技術育成、社会課題解決に、日本にとってはイノベーションを通じた産業構造の高度化や高度技術の海外展開、サプライチェーンの強靱化に、と両者に恩恵がある事業に対し、設備投資などに最大40億円を補助するというもの。「大型実証」と「小規模実証・FS(事業可能性調査)のカテゴリーで事業者の選定が進み、すでに約150案件が採択され、動き出している。

愛媛県松山市に本社を構え、道路などインフラ整備事業を行っている「愛亀」(西山周代表)は、「道路維持補修一体化システム実証事業」が採択された。道路舗装率が低く、かつ気候条件などから舗装道路の維持管理も難しい西アフリカのナイジェリアとガーナで、路面の調査・点検から補修工法の提案・施工までを一体的に実施する道路維持補修工法の普及・標準化を目指している。

西アフリカで、道路維持補修工法の普及・標準化を目指す「愛亀」

また、低価格・高品質な3Dプリント義肢装具の製造・販売をしている「インスタリム」は、インドの義足供給不足を解消するため、インド国内で義足製造している主要な組織に対してDX(Digital Transformation)による、製造工程や組織運営の改革を通じて、供給不足という課題を解決しようと実証事業を進めている。

「インスタリム」が製造・販売している低価格・高品質な3Dプリント義足

政府の全力サポート。現地での日本企業主導のルールメイクを後押し

経済産業省の担当者は、「どれだけ相手国の役に立っているか、日本にどのくらいフィードバックできているかを、我々としてもしっかり見ていく。現地でルールメイクを主導し、デファクトスタンダード(事実上の標準)となれるよう、企業には頑張ってほしい。政府としても関係方面とコンタクトをとりつつ、できる限りのサポートをしていきたいと思います」と話している。