政策特集グローバルサウスとの新結合 vol.3

アジアの脱炭素化へ日本独自のアプローチ。AZECの挑戦とは

カーボンニュートラルと経済成長の両立は、世界にとって大きな課題だ。特に、成長著しいグローバルサウスの国々の前には、先進諸国以上に様々な困難が横たわっている。

経済成長、豊かな生活の実現に欠かせないエネルギーの安定供給と、どうバランスをとりながら脱炭素化を進めていくのか――。東南アジア各国の取り組みを支援し、協力する枠組みとして日本が提唱したのが「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」だ。

各国の実情に沿って、「現実的な解」を示すことができるか。日本のイニシアティブが問われている。

CO2排出量は世界全体の半分超。アジア諸国へ日本の知見と技術を提供

国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、今やアジア地域のCO2排出量は世界全体の半分超を占めており、アジア各国の脱炭素化への取り組みは急務となっている。

「日本と多くの東南アジア諸国は、GDPに占める製造業の割合が高く、かつ電力の大半を化石燃料由来の発電に依存しているという経済構造の中、いかに脱炭素化を進めていくかという、共通の課題を抱えています。日本がこれまで積み重ねてきた脱炭素化に関する知見、技術が十分生かせるのではないでしょうか」

経済産業省地球環境対策室の松尾隆弘室長補佐は、脱炭素化に向けた日本と東南アジア諸国との連携の意義について、こう強調する。実際、東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々を中心に、様々なプロジェクトが動き始めている。

2024年10月11日、ラオスの首都ビエンチャンで開催されたAZEC首脳会合で

再生可能エネルギー、地熱発電、SAF……。動き出すプロジェクト

カンボジアでは、機械部品大手「ミネベアミツミ」が地元電力事業者の「SchneiTec」と協働し、50メガワット規模の太陽光発電事業を計画している。ミネベアミツミは2011年からカンボジア国内の工場で精密電子部品などの生産を行っており、現地の雇用、人材育成に貢献してきた。新たな太陽光発電事業は2025年末に操業開始を予定しており、これによりカンボジア国内のミネベアミツミの工場は100%再生可能エネルギーで賄われることになる。

ミネベアミツミのカンボジア工場

インドネシアの西スマトラ州では、住友商事とINPEXが現地の民間発電事業デベロッパーと合同で「ムアララボ地熱発電事業」に参画し、2019年12月から1号機(約85MW)の商業運転を開始している。AZECの支援の下、2027年の商業運転開始を目指して2号機(約83MW)拡張の計画を進めており、2024年12月には現地国営電力会社と売電契約も締結、本年1月には国際協力銀行を中心とする銀行団からの協調融資も決定した。2号機完工後は、1号機と合わせてスマトラ島の約90万世帯に相当する電力の供給が可能となる。

2019年12月から商業運転を開始した「ムアララボ地熱発電事業1号機」

サプライチェーン構築・強化に向けた動きもある。出光興産は2023年10月、マレーシアの国営企業ペトロナスと、バイオマス燃料や廃食油などを原料に生産される「持続可能な航空燃料」(SAF)を安定的かつ効率的に供給できる体制を構築するため、共同検討を開始することで合意した。これを受け、原料の確保や生産コスト、安全・安定性など実現可能性調査に取り組んでいる。

出光興産、ペトロナス両社による基本合意書締結セレモニー

2022年、岸田前首相が提唱。「多様かつ現実的な道筋」を模索

こうした、日本企業と東南アジア諸国の脱炭素化に向けた取り組みのプラットフォーム役を担っているのがAZECだ。

「各国固有の状況、既存の目標や政策、開発上の課題を考慮した上で、カーボンニュートラル/ネット・ゼロ排出に向けた多様かつ現実的な道筋が存在することを認識する」

2024年10月11日、ラオスの首都ビエンチャンで開催されたAZEC首脳会合で採択された共同声明は、「気候変動への対処」「包摂的な経済成長の促進」「エネルギー安全保障の確保」を同時に達成する目標を掲げた上で、国ごとに「多様かつ現実的な道筋」があることを強調した。

AZECは岸田前首相が2022年に提唱したアジアの脱炭素化を図る枠組みで、日本、東南アジア9カ国、オーストラリアの計11か国が参加している。

これまでに、冒頭に紹介したカンボジア、インドネシア、マレーシアのプロジェクトを含め、多数の協力案件が動き出している。

AZECで動き始めたプロジェクト例(資源エネルギー庁「エネこれ」より抜粋)

10年後見据えて行動計画策定。ルールづくり、政策協調進める

さらに、2024年10月の首脳会合では、「今後10年のためのアクションプラン」が採択された。各国が10年間で進めていく政策の方向性を示したもので、①温室効果ガスの算定・報告促進②電力・運輸・産業部門の脱炭素化・排出削減を促進するイニシアティブの始動③個別案件のさらなる組成――などが柱となる。

松尾室長補佐は「温室効果ガスの排出量が可視化されないことには、いくら素晴らしい技術があっても、それを導入していくための市場が生まれません。これまでも個別の脱炭素プロジェクトは組成されていますが、これらを持続的に生み出していくためのルールをつくり、政策協調をおこなっていくということで合意したということがポイントだと思います」と語る。

AZECが目指すソリューションの形

各国首脳からAZEC原則に支持の声。日本主導で目指す巨大脱炭素市場の形成

「一つの目標、多様な道筋」――。2024年10月の首脳会合では、各国の事情に応じた多様な道筋に沿って、温室効果ガス排出量の「ネット・ゼロ」を目指す「AZEC原則」を支持する声が、各国首脳から示された。

個別プロジェクトの実施に加え、ルール形成を含む政策協調へと新たなステージに入ったAZEC。日本主導でアジアに巨大脱炭素市場を生み出すことができるか。

AZECの今後の取り組みから目が離せない。