今どきの本屋のはなし

書店応援団② 鈴木保奈美さん 【1日本屋デー】を、自分へのご褒美に

本好きな著名人のオススメ本や書店に対する思いを語ってもらう特別企画「書店応援団」。第2回に登場するのは、俳優や司会者、エッセイストなどマルチに活動する鈴木保奈美さんです。仕事を終えた後の書店巡りを何より楽しみにしているという鈴木さんは、お気に入りの書店で、どんな過ごし方をしているのでしょうか。
(以下、鈴木さんのインタビュー)

「多忙でも読書の時間を探す」と語る鈴木さん

大人になって目線が変わった

新幹線や飛行機に乗るような長時間移動の仕事が入ると、とても心が弾みます。「やった! 本を読む時間ができた」と。場所にはこだわりません。お風呂場でも読みます。本が読めるだけで、すごくうれしいんです。

読書が好きになった時期は、幼稚園か小学1年生の頃かな。本を読みながら歩き、電柱にぶつかったくらいに。クリスマスプレゼントには、「本が欲しい」と、親にリクエストしていましたね。物語が好きだったので、それがお芝居の仕事につながったのかもしれません。

今も手元に置いてある本があります。昭和初期の家庭を舞台にした小説「悦ちゃん」(獅子文六著)です。小学1年生の頃、祖父の家にあった本棚を眺めていると、このタイトルが目に留まりました。「これなら読めそう」と本を抜き取り、勝手に持ち出しました。今日に至るまで、ずっと持っています。

母親を亡くした主人公の少女・悦ちゃんが、父親の再婚を巡って奔走するユーモアあふれるお話です。悦っちゃんは、当時の私と同じ年頃で、おてんばな姿に共感しました。ただ、大人になり読み返すと、悦ちゃんの周りにいた大人たちの人間模様に目が移ってしまいます。共感の目線が変わったんです。1冊の本を別の視点で読む、そんな面白さを発見しました。

「悦ちゃん」(獅子文六著、ちくま文庫)

最近読んだ本では、「日本語界隈」(川添愛・ふかわりょう、ポプラ社)がお薦めです。重箱の隅をつつくように、日本語の言葉を楽しんでいく対談本です。例えば、「こだわり」という言葉について。元々、必要以上に執着するなど、否定的な言葉だったようなのですが、今では「お店のこだわり」のように、前向きな意味で流通しているというのです。

言葉の意味って、使われていくうちに、変化していくのだなとわかりました。そこがとても面白いです。

「日本語界隈」(川添愛・ふかわりょう著、ポプラ社)

役柄の下調べは「紙」で

お芝居の仕事で読書が必要になることもあります。私は、自分の役柄を下調べしておきたいときには、紙の本に頼るタイプです。インターネット上で調べると、あまりに広く、情報が多いので迷ってしまうのですね。浮輪も持たされずに海にボンって投げ込まれたような気持ちになるんです。

看護師長の役をいただいたことがあります。どんな職業なのかを調べるため、本屋さんに行きました。でも、なかなか「看護師物語」のようなタイトルの小説が見つかりません。

店内をウロウロして探し回った挙げ句、看護師の資格試験の問題集に行き着きました。そこには、看護師としての心得や、どんな勉強をするべきかなど、様々な情報が詰まっていて、役作りにとても参考になりました。このように、ほんの少しでも、演じる人物の生き方を実感できるのではと期待して、本から情報収集をすることは多いですね。

子どもの頃から大好きだった本。その源泉である書店の話は尽きない

興味広がる、ずっと過ごせる空間

本屋さんには、よく一人で行きます。何時間でも居られます。ただただ、楽しいです。新聞や雑誌の書評や広告を見て、面白そうな本はチェックしています。そこから本屋さんに行き、最初の数行を読んで、自分の好きな文章かどうかを判断します。

「あれも、これも読みたい」との思いがあるので、大きな書店でしたら、ずっと店内を回って。1回につき5~6冊は買ってしまいます。

ただ、ドラマの撮影中には、台本に向ける注意力がそがれるので、書店巡りはセーブします。その代わり、撮影が終わったら、時間が許す限り楽しむ「1日本屋デー」を設けることもあります。自分へのご褒美です。

本屋さんでお目当ての本を手に取ろうとしたとき、横に並ぶ「お隣」にも気が向いてしまうこともあります。「こんな本があるんだ」と。そんな発見から、どんどん興味が広がっていきます。これも、書店の魅力ですね。

書店で発見した本から興味が広がるという鈴木さん

東京駅近くにある「丸善丸の内本店」によく行きます。フロアがとても広いのがいいですね。「代官山蔦屋書店」(東京都渋谷区)も本のバリエーションが面白く、イベントも興味深いので、よくのぞきます。

(2023年1月末に)閉店した東急百貨店本店(東京都渋谷区)には、「MARUZEN&ジュンク堂書店」が、ワンフロアに入っていて素晴らしかった。でも、東急の閉店に伴い、なくなってしまったので、とても残念です。

全国で書店が減り続けているのは、やっぱり、寂しいです。このまま書店がなくなってしまったら、どうなってしまうんだろう。想像できないし、想像したくもありません。書店は、当然のように、いつもそこにある存在だと、私自身も甘えていたのかも。そう思えてなりません。

読書文化が再び根付くように

現在、私は、本や書店の魅力を伝えるテレビ番組に出演しています。番組を通じて、本好きの「同志」を広げているところです。

書店の減少は、個々の本屋さんの努力に任せるだけでは解決しないのかもしれません。社会全体で紙の本を読むことが、再び、文化として根付けばいいなと思います。

例えば、家庭などで、大人が子供の前で本を読んでみせるのはどうでしょうか。勉強や受験のためではなく、純粋に読書を楽しむために。身近な大人が楽しんでいる姿を見た子供も、興味を持ち、本を手に取ってくれるのかもしれません。

先日、こんなことがありました。地下鉄千代田線の電車内で、太宰治の「人間失格」を読む男子高校生を見つけました。周りはスマートフォンを見つめる人ばかり。今時、読書にいそしむ彼の姿に「どんな心持ちなんだろう」と思いをはせました。

あくまで私の感覚ですが、最近、地下鉄でも紙の本を読む人が、増えてきたように思います。これまで100%の人がスマホだったのに、このうち、0.5%くらいが本を広げるようになった気がするのです。

今、ガラスペンや万年筆のように、インクで文字を書くことが流行(はや)っています。デジタルとは異なるカルチャーが、盛り上がっているんじゃないかな。地下鉄で目にした光景も、ほんのちょっぴりだけ、そうした流れの中にあるのかもしれません。もちろん、私の番組の成果でもあればいいな、なんて思っていますけれどもね。

書店や本が再評価されることを望んでいるという鈴木さん

鈴木保奈美(すずき・ほなみ)
1966年生まれ。主な出演作品に、フジテレビドラマ「東京ラブストーリー」、NHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」など。BSテレ東で放映中の情報番組「あの本、読みました?」で司会を務める。中央公論新社の「婦人公論」でも、コラム「獅子座、A型、丙午。」を連載中。25年1月からは、テレビ朝日ドラマ「プライベートバンカー」に出演する。同世代の作家吉本ばななさんのファンで、著書はほとんど読んでいる。

※「書店応援団」は随時掲載します