国際社会で高まる存在感!伸びゆく「未来の大国」ブラジルが熱い
グローバルサウスと称される国々の中で、近年、存在感を示しているのが中南米の大国ブラジルだ。日本から見れば地球の反対側にあたり、日本の22倍という広大な国土に、2億人を超える人々が暮らす。コーヒーや大豆など農産物の生産が盛んで、原油、鉄鉱石といった鉱物資源にも恵まれている。
ルーラ大統領が2023年に大統領に返り咲いて以降、2024年に主要20カ国・地域(G20)の議長国を務め、2025年には第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)も開催する。
多くの日系人が暮らし、2025年は日本とブラジルは外交関係を結んで130周年の節目の年を迎える。伸びゆく大国の今、そして日本・ブラジル関係の未来を探った.
広大な土地、豊富な資源。国際社会にも積極的に関与
「日本が中南米と目指すのは、持続可能なバリューチェーンの共創です」――。
2024年5月、ブラジルを訪問した当時の岸田首相はサンパウロ大学で講演し、ブラジルをはじめ中南米諸国との連携を、「共創」という形で深めていく考えを強調した。
広大な土地、豊富な資源、そこに暮らす約6億人の人々。貿易相手国として市場として高い潜在能力を秘める中南米諸国。その中で、際立って存在感を示しているのがブラジルだ。
約2億人の人口を擁し、マーケットとしては中南米最大。政治的にも米国、中国いずれにも傾斜しない独自の路線を貫いている。2023年1月にルーラ大統領が就任して以降は、気候変動や地域紛争などの問題に国際社会の中で積極的に発言、関与していく姿勢を示している。
世界最大の日系人社会。経済的には相互補完的な関係を構築
日本との結びつきも深い。1908年(明治41)4月28日に、移民781人を乗せた笠戸丸が神戸港からサントスに出港して以降、約26万人の日本人がブラジルに渡った。現在、ブラジルには約270万人の世界最大の日系人社会が築かれている。
経済関係に目を転じると、貿易面では2023年には日本はブラジルから「トウモロコシ」「鉄鉱石」「鶏肉」「コーヒー豆」など食料品や原材料を中心に約66億2000万ドルを輸入。輸入品目の国別構成比で見ると、ブラジルは鶏肉、コーヒー豆は1位、トウモロコシ、鉄鉱石、大豆は2位、アルミニウム3位など高い比率を占めている。
一方で日本からブラジルへは、自動車用部品など工業製品を中心に約51億2900万ドルを輸出している。ブラジルから一次産品を輸入し、工業製品を輸出するという相互補完的な経済関係が長きにわたって続いてきた。
また、ブラジルはODA(政府開発援助)の主要な被供与国の一つである。日本は人材育成や経済社会インフラの整備など、ブラジルの開発を支援している。
「一緒に考え、取り組んでいく」。新しい両国関係を模索
グローバルサウスの国々、そしてブラジルが存在感を増す中、伝統的な日ブラジル関係にも積極的な変化の兆しが見える。
「これまでは、先進国と途上国といった文脈で両国関係は捉えられがちでした。それが今、変わってきています。国際的な問題や社会課題を一緒に考え、取り組んでいく。気候変動、地球環境問題など、先進国だけでも途上国だけでも解決できないテーマを一緒になって解決していく。これはビジネスの世界でも同様です」
経済産業省の中山保宏・中南米室長は、これからの日ブラジル関係について、こう強調する。
「共創」で地球環境問題や社会課題を解決し、持続可能な成長を
新しい日ブラジル関係のフラッグシップとなるのが、2024年5月の日ブラジル首脳会談で合意した「持続可能な燃料とモビリティの推進枠組み」(ISFM:アイスファム)だ。
ISFMはブラジルのバイオ燃料・合成燃料等に関する高いポテンシャルと、日本の先端技術等、両国の強みを結び付け、世界のカーボンニュートラルの実現に貢献することを目指すイニシアティブ。一例を挙げると、ブラジルはサトウキビを原料としたバイオエタノール生産大国であり、エタノールとガソリンの混合燃料で走る「フレックス燃料車」も普及しているが、これにハイブリッド車等の日本の高効率技術を組み合わせることにより、脱炭素化に貢献する取組などが進められようとしている。
2024年5月の首脳会談では「日伯産業共創イニシアティブ」の協力覚書も締結された。エネルギー転換、サプライチェーン強靱化、デジタル経済などの分野で、新産業創出など両国間の産業協力を進めていくことにしている。また、経済産業省が実施する「グローバルサウス未来志向型共創等事業」においても、防災、輸送インフラ、医療、食品、農業分野等における事業支援と共に、バイオエタノールやSAF(持続可能な航空燃料)、モビリティの脱炭素化、グリーン水素に関するマスタープランの作成が予定されている。
中山室長は「ブラジルは工業国でもあります。自動車、航空機産業など中南米の中では突出して製造業が盛んです。スタートアップの起業も世界有数です。日本とブラジルが協力して新しい価値を創造していく「共創」の関係になり、結果として地球環境問題や様々な社会課題の解決や中南米の成長につながっていく。そして、その成長を日本が取り込んでいく。そんなシナリオが理想的だと思います」と語る。
注目のCOP30。イニシアティブ発揮に期待集まる
2025年、第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)がブラジル北部の都市ベレンで開催される。ルーラ大統領の政権復帰以来、ブラジルは環境、気候変動との闘い、持続可能な開発の分野において国際的なリーダーシップを発揮するという歴史的な役割を意欲的に再開している。
共に地球規模の課題を解決していく同志として、新たなビジネスを「共創」していくパートナーとして、ブラジルの動きから目が離せない。
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オタヴィオ・コルテス駐日ブラジル大使インタビュー 「リオのキリスト像のように両手を開いて歓迎します」
――ブラジルは2025年のCOP30の開催国です。環境分野でどのようにリーダーシップを発揮していくのですか。
ブラジルは1992年にリオデジャネイロで「地球サミット」を開催しました。この会議で国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)が締結され、今回のCOP30につながっています。
2024年にアゼルバイジャンのバクーで開催されたCOP29については、発展途上国の地球温暖化対策資金(気候資金)への先進国の拠出額について、期待していた額を満たしていないとの批判もあります。世界の平均気温の上昇をパリで合意された範囲内に抑えるためには、すべての国がこの分野における意欲のレベルを継続的に引き上げることが緊急かつ必要です。
ブラジルがG20議長国として金融と気候変動に関するグローバルなアジェンダを統合させることに重点を置いていたことに引き続き、開発途上国における公正な気候遷移に必要な数兆ドルを動員するべく、ブラジルは「1.3兆ドルに向けたバクーからベレンへのロードマップ」の実施に全力を傾けます。
開催地のベレンはアマゾンの森林の中にある都市です。気候変動を考える時、森林の中でも議論されることに大きな意味があります。国際的に注目される中、COP30はパリ協定ルールの交渉段階を越えて、具体的な実施段階に入る一歩を踏み出す記念すべきものとなります。そのような会議の開催地となることを光栄に思います。
ブラジルと日本は23年前から毎年、東京でCOP開催に向け各国の気候変動交渉官が議論する場となる「『気候変動に対する更なる行動』に関する非公式会合」を共催しています。2025年もおそらく3月に東京で開催されるでしょう。両国が共同議長を務めるということから、気候変動というテーマに両国がいかに緊密に連携してコミットしているかが分かると思います。
日本はアジアの伝統的なパートナー。人的な絆が両国関係の土台
――日本との連携に期待することは何ですか。
日本はブラジルにとってアジアの最も伝統的なパートナーです。在外で最大の日系人社会はブラジルにあります。在外で5番目のブラジル人社会は日本にあります。長きにわたる人的な絆が土台にあるからこそ、日本はブラジルを長期的な投資先、技術協力先に選んでくれました。
内陸部の草原地帯「セラード」を日本の投資と技術協力で農地として開発したことで、ブラジルは食料大国に成長しました。1950年代から70年代にかけて、その他にも製鉄、インフラ、セルロースなど様々な分野で日本からの投資が活発に行われましたが、80年代に入ると様々な経済危機などで2国間の貿易、投資は縮小していきました。
しかし、この2年間、再びブラジルへの投資に日本企業が関心を持つようになり、貿易も伸びています。これは非常によい傾向です。両国は共に経済大国であり、多くの人口を抱え、民主主義国でもあります。こうした背景からお互いを「戦略的パートナー」として今、再認識しているのです。
外交関係樹立130周年。2025年は「友好交流年」
2025年は両国の外交関係が樹立して130周年。両国は2025年を「友好交流年」と位置づけ、ルーラ大統領も来日する運びです。この貴重な時期に、両国の経済関係が活発化し、更には世界の統治構造の改革について緊密に協力しています。
ブラジルが議長国を務めた2024年の主要20か国・地域(G20)では、従来の経済アジェンダに加え、飢餓と貧困に対抗するグローバル・アライアンスの設立、持続可能な経済の構築、また国際的なガバナンスの枠組みの見直しについて審議されました。この議論には、世界銀行や国際通貨基金(IMF)といったブレトン機関だけでなく、国連改革なども関係してきます。国連安全保障理事会の改革についてブラジルは、日本、ドイツ、インドの3か国と、いわゆる「G4」での緊密な協力体制を続けてきました。世界で起こっている様々な危機に十分に機能していない安保理の改革は今後も訴えていく必要があります。
持続可能なエネルギーのパイオニア。日本との協力を深めたい
ブラジルは持続可能なクリーンエネルギーのパイオニアです。世界の輸送部門脱炭素化に向けた補完的ソリューションとして、バイオエタノールの開発に力を入れてきました。最近ではトウモロコシ由来のバイオエタノールの生産も盛んです。航空業界では、CO2削減のため持続可能な航空燃料「SAF(Sustainable Aviation Fuel)」を積極的に活用する計画です。ブラジルはエネルギーの分野で日本と協力を深めていきたいという意向を持っています。
ブラジルはすでに150ヵ国以上に牛肉を輸出しており、品質、価格競争力、衛生面などで高い評価を得ています。日本との牛肉貿易の活性化は双方に利益となるもので、日本側の輸入解禁に向けて議論を進めたいと思っています。鶏肉ではブラジルが日本にとって世界一の供給国ですが、豚肉についても輸出拡大の協議を進めたいと願っています。
より広範な意味では、日本と南米南部共同市場(メルコスール)で、経済連携協定(EPA)の締結を視野に入れた協議をしていくことも、双方にとって有益だと考えます。
複雑な税制を透明・簡素化。日本企業の投資を歓迎
――METIジャーナルオンラインの読者にメッセージを。
ブラジルに投資し、ビジネスを行うよう皆さまに呼びかけたいと思います。ブラジルの経済は成長していて、多くの機会を創出しています。ブラジルは長らく議論が続いていた税制改正を昨年、承認しました。世界的にも複雑だと言われてきた税制が透明で簡素なものになるという点で大きな一歩です。ブラジルに投資したい企業や人にとっては透明性の高いシナリオが描けることになります。
また、炭素クレジット市場を設立する法律が成立するなど、様々な分野で成長を加速化するための新しいプログラムが始まっています。両国にはすでに伝統的な関係が存在します。新しい段階に入るブラジルに、これまでの関係を土台に進出することは大変有意義だと思います。世界最大の自動車メーカーであるトヨタは同社初の海外工場をブラジルに建設し、海外生産の第一号車がここで製造されました。1950年代のことですが、長きにわたるパートナーシップの良い事例です。
ブラジルは移民で成り立っている国として、外国人に対してずっと両手を開いて受け入れてきました。リオデジャネイロの名所であるコルコバードの丘にある両手を開いたキリスト像は、とても象徴的だと思います。ブラジルは、あのキリスト像のように、新たにブラジルに進出したいと考えている企業を、両手を開いて歓迎します。