地域で輝く企業

【香川発】グラビア印刷を核に、最新技術を取り入れながら提案型企業への変換に挑む

香川県丸亀市 株式会社フジコー

香川県の善通寺で774年に生まれ、地元では「お大師さん」と呼ばれて親しまれている空海。県内各地でその威徳を偲ぶことができる。空海誕生からちょうど1200年後、1974年に同じ香川で創業したのがグラビア印刷事業を手がけるフジコーだ。トイレットペーパーや女性用生理用品のパッケージ印刷を始め、近年は食品包装材などとして使われる撥水・撥油紙、複雑な形状の立体物への印刷技術や電磁波吸収シートなども開発。基本は「B to B」のビジネスだが、実は私たちの生活にも深く浸透している。創業50年の今年、新規事業を生み出すためのイノベーション・センターも新設。企業からの依頼を受けて迅速かつ的確に対応するだけでなく、ニーズを先取りする形での技術開発にも力を入れ、地域で輝き続けるために提案型企業への転換を図っている。

順調に成長、2026年末に100億円の売上高目指す

香川県の瀬戸内海沿岸部は元々、製紙業が盛んで、それに付随する形でトイレットペーパーなどのパッケージを作るため、幡多茂樹会長(80)はフジコーを創業した。1977年に香川県丸亀市に本社を構え、写真画像などを精密に印刷できるグラビア印刷を中心としたパッケージ生産で業績を伸ばしてきた。当初は紙のパッケージが塩化ビニール製になり、現在は安価で加工しやすいポリエチレン製のものがほとんどになった。その後、軟質フィルムへの離型剤コーティングの技術を確立し剥離フィルムを生産、更にクリーンコーターを導入し電材、医薬向けの剥離フィルムなども手がけ、2023年(12月末)の売上高は91.4億円と、10年前の53.7億円と比べても順調に成長。今年も96億円超を見込み、2026年末には100億円超を目指している。

埃などを嫌う印刷工程で、スタッフはエアシャワー室を経て、クリーンな環境で作業をする

世の中は意外とフジコーでできている――。そう自社のホームページで事業を控えめに紹介しているように、実際、キッチンタオルから、おむつ、ウェットティッシュ、そしてペットシーツのパッケージまで、私たちは生活でフジコーの製品や技術に毎日のように触れていると言っても言い過ぎではない。生理用ナプキンで採用されている剥離フィルムは9割以上シェアを誇るという。扱う商品も元々、日常で使う商品が多いこともあって、新型コロナウイルスの感染拡大の際も大きな影響は受けなかったという。

人口減を見越して、新規事業で活路を見出す

もっとも、舟越一隆社長(71)は、21世紀に入るころから社会の変化を感じ始めていたという。「とりわけ、日本の人口が減ることで、パッケージの印刷だけでは市場が縮み、会社の成長も望めなくなるのではないかと危機感を抱いていたようです」と森光弘取締役総務部長(53)は話す。そこで新規事業の開発に徐々に力を入れていった。当時、営業職だった森さんも舟越社長の命を受けて、様々な企業や研究機関などを回り、物になりそうな新規事業のネタを必死に探したという。「従来通りの仕事でそこそこ稼げたし、安定もしていました。しかし、社長はそこに安住することの危うさを直感していたのだと思います」

複雑な形状にもプリントできる技術はフジコーの強みの一つ

それでどうしたか。2008年に複雑な形状の立体物へのフィルムの転写印刷を始めた。以前、高級車のハンドルに使われていた希少な木材の代わりに、木目のフィルムを転写したり、スマートフォン用のケースにフィルムを転写して加飾したりする。同じ年にはグラビア印刷の技術を応用して、通気性を確保しながら水や油をはじく、撥水・撥油紙も開発。食品の包装材として使われている。こうした取り組みが評価され、2013年には四国産業技術大賞で技術功績賞も受賞している。

イノベーションセンター開設で加速する新規事業

新しいイノベーションセンターでは様々な技術開発が行われている

さらに2021年には電磁波を吸収したり、ノイズを抑制したりするフィルムを開発して特許を取得。カーナビや情報通信機器などへのニーズに対応するという。「印刷」というシンプルな作業に様々な技術を取り込みながら、新しい市場を切り拓いてきた。そうした取り組みをさらに加速していこうと今年7月には、本社の南西部に位置する香川県まんのう町にあるまんのう事務所内に、地下1階地上4階建てのイノベーションセンターを新設。こうした取り組みもあって、以前、売り上げのほとんどを占めていた包装材の割合は半分となり、それ以外を新規事業で占めるようになった。舟越社長の先見の明が実を結びつつあるというわけだ。ちなみにまんのう町の中心部には日本最大級の貯水量を誇る灌漑用ため池で、国指定の名勝でもある満濃池があり、空海が改修に当たったと伝えられている。

のびのびと喜んで働ける職場環境を整備

まんのう工場では二酸化炭素排出を抑えるため、太陽光発電を進めている

まんのう工場では、さらに最新の無溶剤印刷コーティングマシンの導入を今年から来年にかけて進めている。印刷の過程で排出される有害物質や二酸化炭素を極力抑えることが目的だ。「工場に太陽光発電を徐々に取り入れ、環境に対応した取り組みや製品の開発にも一層力を入れていきたい」と森取締役は話す。企業の成長に合わせ、人材確保も課題で、人事評価制度を客観的にできる制度を導入したり、2025年度から年間の休日を年間113日から120日に増やしたり、「のびのびと喜んで働ける職場環境の整備」にも力を入れる。社員が取り組みやすいeラーニングや「カイゼン」のためのコミュニケーションの場も積極的に設けるようにしてきた。「新規事業や職場の環境改善なども含めて、将来的な中堅企業としての基盤づくりにつなげていきたい」

「Fan Fit Fun」が会社のビジョン

掲げられたビジョンは、スタッフが働く上でのよりどころともなる

それに加えて単に経営だけでなく、香川を拠点に活動する企業としてどのようにして地域に貢献していくかも、これからのフジコーの大きな役割だという。「Fan Fit Fun: のびのびと、ぴったりと、支えてくれる人々と」。それが企業ビジョンだ。「Fan」とは従業員、取引先、仕入先などステークホルダーのこと。「Fit」はモノからコトへの世の中、それを支えてくれるFanにぴったりと寄り添うこと。そして「Fun」は苦しいこともワクワクな楽しみ(期待)に変えていくこと。それらは舟越社長が唱える「社会に歓心を供する会社づくり」とも共通する。「地域で輝く」ため、フジコーの挑戦はさらに続いていく。

フジコーからも近い善通寺は空海の生誕の地として、多くの観光客が訪れる

【企業情報】▽公式企業サイト=http://www.fujiko.jp/▽代表者=舟越一隆社長▽社員数=287人▽資本金=3000万円▽創業=1974年