政策特集下請けからパートナーの関係へ vol.4

フリーランスが安心して働ける環境を!新法施行で迫られる商慣行の改善

働き方の多様化に伴って、自らの知識や経験、スキルをいかして「フリーランス」として働く人が増えている。組織に縛られない、より自由な生き方を追求できる一方で、取引上弱い立場に置かれがちなのも事実だ。

そこで、フリーランスが安心して働ける環境を整えようと、2024年11月から施行されたのが「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」だ。新法の施行で、フリーランスの働く環境はどう改善され、受注事業者には何が求められるのか。

「フリーランス」という働き方の今を探った。

全国に462万人。デザイナー、エンジニア、配送業など様々な分野に

日本では約462万人(内閣官房の試算による)がフリーランスとして働いていると言われている。一口にフリーランスと言っても、分野・職種は様々だ。

デザイナー、カメラマン、イラストレーター、システムエンジニアといった職種の人たちがイメージされるが、建設業、配送業、理容師、美容師、インストラクター、講師、営業職などで、多くの人が、企業に所属せず個人で仕事を請け負っている。

新法では知識や経験、スキルを活用して収入を得ている個人だけでなく、「一人社長」として従業員を雇わずに事業を行っている法人も対象となっている。

2割強がトラブル経験。泣き寝入りも6割近くに

「令和4年度フリーランス実態調査結果」を基に作成

内閣官房等が2022年にフリーランス約2100人を対象に実施した実態調査によると、事業者から業務委託を受けて仕事をしているフリーランスのうち、2割強の人が取引先とのトラブルを経験している。

トラブル内容は、「報酬の支払いが遅れた・期日に支払われなかった」が最も多く36.1%で、以下「あらかじめ定めた報酬を減額された」21.4%、「発注者の都合で、やり直しや追加作業を行ったにもかかわらず、それに伴う追加費用を負担してもらえなかった」17.0%、「市価などと比較して著しく低い報酬を不当に定められた」9.2%――と続いている。

しかも、トラブルが生じた際に「そのまま受け入れた」32.6%、「交渉したが改善されないまま受け入れた」25.9%と、事実上泣き寝入りを強いられた人が6割近くにも上っている。

「多様な働き方が広がり、インターネットなどを通じて単発の仕事を請け負うなど、個人で働く方が増えています。人口が減少し、働き手をいかに確保していくかが課題となっている中、社会保障の支え手・働き手の増加などに貢献していただくという意味でも、フリーランスの取引、就業環境を整備して、活躍してほしいと考えました」

新法の制定に携わってきた内閣官房・新しい資本主義実現本部事務局の宮下雅行内閣参事官は法律の制定・施行に至るまでの経緯についてこう語る。

フリーランスの取引適正化の必要性を訴える宮下雅行・内閣参事官

取引条件を文書で明示するよう義務づけ。7項目の禁止事項も

新法は、「フリーランスと発注事業者間の取引の適正化」と「フリーランスの就業環境の整備」の大きく分けて2本の柱で構成されている。

フリーランスに仕事を発注する事業者は、「委託する業務の内容」「報酬の額」「支払期日」などの取引条件を書面やメール、SNSのメッセージなどで明示しなければならず、納品から数えて60日以内にできるだけ早く報酬を支払うことを義務づけられた。さらに、1か月以上の期間、フリーランスに業務を委託した場合、「発注した物品を受け取らない」「発注時に決めた報酬を後で減額する」「受け取った物品を返品する」など7項目の禁止行為を具体的に定めている。

また、就業環境の整備に関しては、育児や介護と業務の両立ができるよう配慮しなければならないとしているほか、ハラスメント行為に対する相談対応など必要な体制整備を義務づけた。

その上で、違反にあたる行為があった場合、フリーランスは公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省に申し出ることができる。※行政機関は、調査した結果に基づき、発注事業者に指導・助言や勧告を行い、勧告に従わない場合には命令・公表することができる。命令違反には50万円以下の罰金が科される。

口約束、発注後の値下げ……。昔ながらの取引慣行、「駄目なものは改めて」

公正取引委員会と厚生労働省、中小企業庁からの委託を受け、第二東京弁護士会が2020年11月から運営している「フリーランス・トラブル110番」によると、2024年8月に寄せられた相談件数は1032件。直近5ヶ月の相談内容で最も多いのは「報酬の支払い」で30.8%。次いで「契約条件の明示」(14.7%)、「発注者からの中途解除・不更新」(9.9%)などとなっており、新法の施行を3か月後に控えた時期でもなお、禁止項目に該当する行為が少なくないことが分かる。

「令和4年度フリーランス実態調査結果」を基に作成

政府全体でフォローアップ。問題業種には集中調査の実施も

フリーランスの働き方がより安定したものになることは、労働市場や日本経済全体にどのような影響を及ぼすのだろうか。

「安心感を持ってフリーランスという働き方を選択できることで、一人ひとりがクリエイティブな活動に専念し、さらに良いモノをつくりだす。そして、発注側の利益も、フリーランスの所得も上がって行く。そんな好循環をつくっていければと期待しています」

宮下参事官はこう強調。そのためにも、新法の円滑な施行に気を配っていく必要があるという。

「フリーランスが働く分野は、多くの省庁が所管しています。業界の取引慣行を熟知している各省庁が、自分事として所管する業界の取引を正確に把握してもらって、適正化を働きかけて欲しい」

このため、政府は各省庁が公正取引委員会や中小企業庁と連携して、発注側の業界団体などに対して、フリーランスとの取引適正化を働きかけるための枠組みを創設。今後、現場の声を吸い上げ、問題事例の多い業種・業界に対しては、集中調査を実施していく方針だ。

【関連情報】

https://freelance110.mhlw.go.jp/